表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロゥカス!  作者: 結倉芯太
1章
24/45

22.フラッグ


 決戦当日、辺り一面が見渡せる荒野にアリエル達はいた。所々に傘のように葉を広げた背丈くらいの木が茂っており、周辺には草花が淋しげに転々と生えている。

 『フラッグ』を行うフィールドは、白線でエリア毎にきっちりと仕切られていた。

 各チームの自軍一段目の各エリアには、上部に三角形の布をなびかせたフラッグが地面に突き立てられている。このフラッグが国の命運を左右するのだ。

 旗は、ぱたぱたと揺らめき、先行き不透明なこの国の状況を表しているように見えた。

「まさか、これだけの戦力とは……」

 長椅子に座り、メンバー表を見たコーラーが絶句する。

「ルイフェだけじゃなくてエステシオまでいるわね……。プレイメイカーはホアンか。しかも中央のディフェンサーにはサミー=アッピアとはね。これは『イングリド』が背後にいるって話も、いよいよ本当かも」

 ロンドはそう言い放ち、メンバー表をフランに渡す。やや放り投げるように渡されたメンバー表を、四人は囲むようにして拝見する。

「で、やっぱりその人達も有名な人?」

 アリエルは遠慮がちに尋ねる。

「そうね、『白豹』のルイフェに対してエステシオは『黒豹』の異名をもっているわ。あそこに短髪で黒々とした肌をした、筋肉質(マッチョ)な奴がいるでしょ?」

 ロンドが相手側ベンチにいる、奇抜な緑色の上着に黄色のズボンを穿いている黒人を指差した。

 男のしなやかそうな四肢と、隆々とした筋肉が、服の上からでも十分に伝わってくる。

「なんかスピードもパワーも兼ね備えた、いかにも好戦的なアタッカーって感じがプンプンするわね。……ねぇ、少しキモくない?」

 パティが口を引きつらせながら、率直な感想を言う。

 確かに、原色で染められた奇天烈な服装をした、筋肉隆々な男はアリエルの目から見ても、少しキツイ。そう感じながらも、アリエルの目線はその男の隣、ベンチで静かに座っている女性に移る。

 どこか落ち着いた淑女の雰囲気を醸す彼女は、真っ白な肌に、美しく整った顔をしていて、紅い唇がとても印象的だった。そして、その肌と同じような真っ白なシャツと、スラリとした焦げ茶のパンツが彼女の流麗なフォルムを映し出す。漆黒の黒髪は後ろで一つに纏めている。

 アリエルは、一目で彼女があの『白豹』だとわかった。

「残る二人もそれなりに実績のある魔闘士みたいだし、こっちは新米魔闘士が四人……。いよいよもってヤバイ展開ね」

「不平不満を言ってもしかないだろう、ロンド。今はこの面子で、如何に奴らに勝利するか考えるほうが先決だ」

「はいはい、作戦は変えないわよ。アリエルとパティはアタッカーでいくわ。多分相手はルイフェとエステシオがサイドアタッカーの三ディフェンサーで来ると思うから、あんた達はどちらかの足止め、できれば撃破を目標に。ディフェンサー陣は手薄の逆サイドのバックアップをメインに踏ん張って。その間に私が状況を見てフォローするから。前半は耐えて、後半から反撃開始するよ!」

 ロンドの説明は簡単に言うと、前半は敵の攻撃を凌ぎつつ、隙があれば攻撃に転じるが、隙が無い場合は、亀のように旗の守りに徹する。そして、相手のスタミナの無くなってくる後半、一気に勝負を掛けるというものだ。

「アリーは魔法の錬気量には気を配っておきなさいよ。アンタはペース配分無茶苦茶なんだから」

「わかってるよ~、あんまり練り過ぎると駄目なんでしょ」

「その言い方……。あんた未だにきちんと理解してないんじゃないの? 念気と瞬時力と念気量!」

 アリエルの返事に不安を感じたのか、パティが唐突に問いかけてくる。昨日あれだけ絞られたのに、忘れたとはとてもじゃないが言えない。

「ええっと、念気は吸い上げた『精』を魔法に変換する為の作業……。で、念気量は念気で出来た魔法の総量の事だよね。……瞬時力は念気にかかる時間の事です。ん~、それと念気を行うと、念気に使用した時間に比例した形で身体に疲労が蓄積されます。なので、念気を行う際は健康状態に気をつける必要があります……」

 アリエルは側頭部を人差し指でグリグリ押しながら、言葉を捻り出す。魔闘士手帳に書かれた説明文を読み上げるように、続きを回答する。

「念量は人体に蓄積できる念気量の限界値を示します。この限界値を超える念気を行っても魔法は人体に蓄積することはない……。で、瞬時力と念量には個人差があり、これらの値が優秀な魔闘士ほど良い魔闘士になれる素質がありますっ!」

 最後は暗記した内容を一気にまくし立てるように言い放ち、フィニッシュする。

「……なによ、きちんと覚えてるじゃない。なら、ロンドさんの言っている意味も理解できるわよね」

「だから、必要以上に念気しないで、前半は相手の攻撃を受け流しつつ様子見ってことでしょ」

 アリエルは唇を尖らせて回答する。執拗に疑われるのは心外である。

「まぁまぁ、きちんと理解できているようだし、もうその辺で勘弁してあげたらどうだ。それに君達の仕事は勝敗に関わってくる重要なポジションだ。しっかりしてもらわないと困る」

 コーラーがそう言い、話を収める。

「そうね、守備陣がいくら頑張っても、点がとれないと勝ちは無いからね。あんた達二人には頑張ってもらわないとね」

 両手にパワーグローブを着けながら、ロンドが続く。彼女のパワーグローブは手の甲に重厚な鉄板が装着されており、見るからに破壊力のありそうなグローブだ。

 横ではリオが黙々と、ライフルの手入れを行っている。

「ライフルでいくの?」

「うん、昨日フランと武器庫に行って考えたけど、少しでも扱った経験のある武器がいいと思って……」

 アリエルも銃の手入れをしつつ、リオに尋ねると彼女は微笑を浮かべる。

「いろいろと手にとってみたけど、結局これが一番落ち着く……。わたしは皆みたいに接近戦での活躍は出来そうにないから」

 リオのそれはソーザに言われたことを気にしているように聞こえた。

 接近戦はどうしても経験がモノをいう戦いになってしまう。間合いや呼吸の取り方は、一朝一夕で会得できる事ではない。だから、リオはそれを捨てたのだ。接近戦では勝ち目が無い。だからこそ、自分の長所である想像力と洞察力を武器に、長距離からの射撃を極めるつもりなのだろう。

「私もリオにはそれが似合ってると思うよ~。私も実際、それには苦労したもんね」

 お互い弾に魔力を込めながら、会話をする。ゲーム開始前に少々体力を消費するのは嫌だったが、アリエル達の武器は弾込めと魔力の注入を同時にする事は出来ないので、他の武器と違って不利な面がある。だから少しでもその不利を改善する為に、多少の不利には目を瞑り、前もって弾に魔力の注入をしているのだ。

 しかし、銃器は悪いことばかりではない。ルール上、魔力を込めた魔弾はチーム内の誰が魔力を込めてもOKとされている。アリエルもリオも、少しずつだが魔弾の弾込めをメンバーにお願いしていた。

 そうこうしていると、ロマリエから来た審判団がフィールド中央に集まってくる。そろそろゲームの始まる時間のようだ。チームの代表であるロンドが呼ばれ、フィールド上で審判からルールの確認と説明を受けている。

 いよいよだ。アリエルは心臓の高鳴りを感じながら、フィールド上のロンド達を見つめる。

 ソーザは今どうしているだろうか。最後に会った時は喧嘩のようになってしまって、きちんと話す事はなかった。置き手紙で、ソーザが自分の事を大切に思ってくれていることはひしひしと伝わったが、アリエルはソーザにまだ気持ちをぶつけきっているとは言えない。もしかしたら、自分はこのゲームで死んでしまうかもしれない。そうなったら、ソーザは悲しんでくれるだろうか。泣いて喚いて、そして何日も塞ぎこんでしまうだろうか。自分がそんな立場になるようなことは考えたくないし、考えられない。きっと、自分は弱い人間なのだろう。気高く、そして逞しく生きているフランには憧れる。

 ――でも、彼女は私じゃない。私は彼女じゃない。アリエルは思う。

「大丈夫……。わたし達は誰一人として欠けない」

 そんなアリエルの気持ちを汲みとったのか、横にいたリオが肩をパンっ、と軽く叩いて励ます。彼女にしては珍しい挙動である。

「そうそう、どうせアンタのことだから、ソーザさんに言わなきゃならない事、あるんでしょ? 未練のある女は男から嫌われるわよ」

 超能力者かと思う程、二人に的確に思考を当てられて驚いているアリエルに、パティは深くため息をつく。

「何年アンタの親友やってると思ってんのよ」

「親友歴三日の私でも分かる……」

「う~ん、私には詳しい内容までは分からなかったが……。でも何かマイナスな思考をしていたことはわかったぞ」

 口々に親友達からそう言われ、アリエルは恥ずかしくなってしまう。きっと耳の辺りまで真っ赤ではないだろうか。

「私って本当に素敵な友達がいて良かったって思うよ。帰ったら兄様に皆の武勇伝聞かせちゃうんだから」

 恥はかき捨てだ。いつもなら絶対に言わない、浮きまくりの台詞でアリエルが返す。

 すると、彼女達は、

「なら目一杯アピールしなきゃいけないわね」

「……頑張る」

「う~む、彼の気を引く、良い機会ではあるな」

 その切り返しに三人は真面目に応えてくる。

 ――ひょっとして、兄は自分の想像以上に魅力的なの……? アリエルは首を傾げる。

「……ねぇ、なんで皆そんなにやる気なのさ? 満々なのさ? そんなに兄様がいいのかよ?」

「私は昔からソーザさん一筋じゃない。知ってるでしょ?」

「ソーザは良い人……」

「彼は素晴らしい人格者じゃないか。昔のソーザさんも良かったが、今の落ち着いた感じも素敵だよ」

 この親友達は真剣(マジ)らしい。真剣にソーザを狙っている。

「だあああぁぁ~め! 兄様は誰にも渡したりなんかしないよ! 兄様に近づきたいならまずは私を通さないと駄目なんだから!」

 焦ってそう叫んだアリエルを、三人はにやけた面で見やっている。パティに至っては腹を抱えて、肩まで震わせている。

 そこで、アリエルは三人に嵌められた事に気付く。火照った顔で天を仰ぎ、アリエルはこう思うことにした。

 ――恥はかき捨てだ、と……。

 アリエルの羞恥の気持ちが落ち着いてきた頃に、フィールドの四隅に小さな物見櫓が設置される。そして各々の櫓に審判が梯子を使い、よじ登る。フィールド中央で、その様子を確認した主審が、集合の笛を鳴らす。

 そのけたたましい音で、アリエルはそろそろゲームの開始時間であることに気付く。いつの間にか、周囲にはトラヴァーリ国民と見られる人々で埋め尽くされていた。

 国民にとっては、この一戦に自分達の生活がかかってくるのだから、注目されるのは、至極当然といえる。が、それにしても沢山の人だかりが出来ていた。先日見た街の閑散とした雰囲気の中で、よくもまぁ、これだけの人が集まったと感心すら覚える。フィールド付近は危険地帯なので、立ち入り禁止になっているが、物見の高台や遠目の丘には人がぎっしりと詰め掛けていた。中には他国の民族衣装を着た人も点々と見られる。今から始まるゲームは、周辺の国々にとっても興味深いのだろう。

 そんな大衆の注目する中、アリエル達は各々のポジションのフィールドに移動する。自陣二段目の中央にアリエルとパティとロンドの三人が、自軍一段の右からリオ、コーラー、フランの順番で布陣に着く。

 対する相手の布陣だが、自陣二段右サイドにルイフェ、同じく自陣二段左サイドにエステシオ、プレイメイカーのポジション配置自軍二段目中央にはホアン、こちらもディフェンサーは三枚、右からマイコ=ダグラス、サミー=アッピア、ダニエル=アウビスといった顔ぶれだ。

 お互いの布陣を確認し、いよいよ主審の試合開始の合図を待つのみとなった。両陣営に緊張が走る。笛が鳴れば、旗を取り合う戦争だ。

 一瞬の油断が命取りになる。まだ動いてもいないのに、アリエルの背中に汗がうっすら滲み出て、不快な気持ちになる。

 そして、試合開始の笛が高々と鳴り響いた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ