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ロゥカス!  作者: 結倉芯太
1章
23/45

21.それぞれの覚悟



『フラッグ』におけるルール説明




一、ゲームは十五分の前半戦と後半戦に分けられた、六対六のチーム戦となる。又、補欠要員として追加二名を認める。補欠はゲーム中、プレイヤーが怪我もしくは死亡した場合と、前半戦と後半戦の間における休憩時間(五分)の時のみ、交代を許可する。


二、ゲームを行うフィールドは審判を派遣する国家が定める事とする。尚、上記の国家は対戦する国家間とは中立であることが条件である。但し、国家間同士でなく自国内でのフラッグ戦の場合は協会の認可があれば、自国以外の国家であればよい。


三、フィールドは全体を十二分割とし一分割の広さは三十平方メートルとする。分割は縦に右サイド、中央、左サイドと三列に分割され、横に自軍一段、二段、敵軍二段、一段と四段に分割される。


四、『フラッグ』における勝敗 ――― 勝敗は敵軍(自軍)に設置されたフラッグの破壊によって決まる事とする。旗は敵軍(自軍)の右サイド、中央、左サイドの一段に一本ずつ配置される。サイドの旗を破壊することで一ポイント取得、中央の旗を破壊することで三ポイント取得とする。このポイントが多いチームの勝利となる。又、時間内に旗が全て破壊された場合、その時点で勝者が決まりゲーム終了となる。


五、ゲームに出場するプレイヤーはアタッカー、プレイメイカー、ディフェンサーに分類され各々のポジションに最低一人はプレイヤーを配置しなければいけない。


六、『アタッカー』説明 ――― アタッカーとサイドアタッカーにさらに分別される。アタッカーはフィールドにおいて、自軍二段、敵軍一段、二段における全てのフィールドでプレイできるものとする。サイドアタッカーは右(左)サイドに配置されたアタッカーを指す。この場合プレイできる範囲は配置された右(左)サイドにおける全てのフィールドでプレイできるものとする。又、サイドアタッカーは自分の配置されたサイドフラッグの破壊に味方が成功した場合、敵軍一段中央エリアでのプレイが可能となる。


七、『プレイメイカー』説明 ――― プレイメイカーは十二エリア全てのフィールドでプレイが許される唯一のポジションである。但し、このポジションは一人しか配置できない事とする。


八、『ディフェンサー』説明 ――― ディフェンサーとサイドディフェンサーにさらに分別される。ディフェンサーは自軍一段、二段における全てのフィールドと敵軍二段中央エリアでプレイできるものとする。又、敵軍のサイドフラッグの破壊に味方が成功した場合、中央エリアにおける全てのフィールドでプレイが可能となる。サイドディフェンサーは右(左)サイドに配置されたディフェンサーを指す。この場合プレイできる範囲は配置された右(左)サイドと自軍一段における全てのフィールドでプレイできるものとする。


九、指定されたフィールド以外でプレイをしたプレイヤーは警告となる。警告は二回受けた時点で、そのプレイヤーはゲームから退場となる。又、退場となったプレイヤーは交代対象にはならない。


十、ポジションの変更は休憩時間の時のみ変更可能とする。それ以外での変更は認められない。


十一、同点のまま店制限時間を迎えた場合は、五分間の休憩を挟み、サドンデス戦を行うこととする。サドンデス戦は時間無制限とし、どちらかのチームが、残存した旗のいずれか一つを破壊した地点で勝敗を決するものとする。




「―― 以上が『フラッグ』の主要ルールよ。理解した?」

 昨日の無知な発言から一日が経ち、パティに付きっ切りでルール内容について受講したアリエルは放心状態となっていた。

「脳が……、脳が飽和してる……」

 うわ言のように呟きながらも、アリエルは魔闘士手帳を片手にルールの把握に努める。

 大まかなルールは、先ほどパティの言った通り理解したが、ポジションごとの細かな規則も多くあり、これがまたややこしい。一度はきちんと記憶したはずなのに、時間が経つと、こうも忘れてしまうものなのだろうか。そんな自分の覚えの悪さを、アリエルは激しく嘆く。

「あんたも大事な戦力なんだからしっかりするのよ。さっき言った箇所は空で言えること」

「やっぱそうだよね……?」

「当たり前でしょーが、もうその発言が信じらんないわよ。自分の担当は勿論、他のポジションの範囲もきっちり覚えなさいよ」

 パティは目を吊り上げながら、当然の要求をしてくる。

 昨日、応接間での情勢の説明後、アリエルのルール理解は後回しにして、皆でポジションの適正を話し合い、各々の担当ポジションを決定した。

 結論から言うと、お互いの連携力のあるパティとアリエルがアタッカーをやることになった。そして、プレイメイカーはメンバーの中で経験豊富なロンドがやることになり、ディフェンサーは左サイドディフェンサーにフラン、右にリオ、そして守備の要である中央はコーラーが担当することになった。

 アリエル達の仕事は旗の破壊に徹すること。しかし、アリエルの魔法と武器では、相手を牽制することくらいしか効果がない。それならば、火力のあるパティが相手ディフェンサーを引きつける。アリエルはパティの援護をしながらも、相手の隙を見て旗の破壊にかかる。

 『フラッグ』において、風属性は守備にも攻撃にも秀でた属性ではないので、正直に言ってしまうと風属性の魔闘士は『フラッグ』には参加しないのが常識となっている。そんな中、風属性であるアリエルの出来ることは、牽制と旗の破壊くらいしかないだろうという事になった。

「あ~、おつむも腕も頼りなくて申し訳ないよぅ……」

 事の重大さもあり、余裕のない自分がとても情けなかった。が、隣にいる相方はそうは思っていないらしい。アリエルの旋毛つむじの辺りにコツンと一つ拳骨を落とすと、

「あんたさ、私の言葉聞いてた? 私はあんたの事『大事な戦力』として頼りにしてるのよ。ホントにしっかりしないとぶつわよ」

「もうぶってんじゃん……」

「しっかりしてないからよ」

 アリエルが弱気な時、パティはキツイ言い方ではあるが、いつだってこんな風に叱咤激励してくれる。小さい頃からの腐れ縁で、どんな時でもいつも隣にいてくれた。しょっちゅうおちょくられたりもするけど、基本根っこは良い女なのである。

 そんな相棒の期待に背くわけにはいかないアリエルは、唇の両端を上げて元気のいい明るい笑顔をパティに返す。

 ――私はあの頃の私じゃない。きっとこの戦いに勝利して、皆で笑おう。

 そう思いながら、アリエルは手元の手帳に目を戻す。






 コン、コン、コン。

 リオは部屋の扉をノックする。扉の向こうから「どうぞ」と短いが、はっきりと声が返ってきた。リオが静かに扉を開けると、机の上に山のように積まれた書類と格闘しているフランがいた。

「おお、リオか。どうした?」

 フランはリオのほうをちらりと見ると、机の上の書類を整理し始める。どうやら、リオの為に、今やっている仕事を一時中断してくれるようだ。

 そんなフランに、リオはいたたまれない気持ちになる。

「……どうして、フランはそんなに気丈に振舞っていられるの?」

 思っていた事が、つい口からこぼれていた。フランはその言葉を聞くと、椅子に座ったまま肩をすくめ、「変か?」とリオに問う。リオは小さく頷く。

「だってお父さんが亡くなったのに、大事な人がいなくなっちゃったのに……。わたしは弟が死んでしまったら、生きていられない。生きている意味が無い……」

 リオがそう言うと、フランは寂しげな笑みを浮かべ、机の上を指で滑らかに撫でた。

「そうだな、私もそう思っていた時期が、短かったが確かにあったよ。幼い頃に母を亡くし、父一人子一人の家庭だったから、余計に辛かったのかもしれない……。この机だって父が私の為に作ってくれた、大切な思い出の机なんだ。建国したばかりで忙しい身にも関わらず、仕事の合間に仕上げてくれた手作りの机だぞ。普段は物静かで素っ気無い父だったが、時折見せてくれる優しい笑顔が私は大好きだったな。そんな父が身を粉にして維持してきた国を、私は守りたい。父は救うことが出来なかったけど、せめてこの国だけは救いたいの」

 リオは言葉が無かった。

 フランは気丈ではなかった。彼女はただ父親の生きた証を消したくなかったのだ。トラヴァーリという国の建国に尽力した父親は、この国ではかなりの功労者なのだろう。しかし、反乱軍によってこの国が蹂躙されてしまえば、そんな功績は相手の好きなように書き換えられてしまうだろう。歴史は勝者によって、簡単に上書きされてしまう。彼女はそんな輩から父の功績を守る為に、今も頑張っている。涙を抑え、目の前の問題に顔を上げて立ち向かっている。

「……ゴメン。わたし、フランの事もう駄目だって……。見捨てようとして……。わたしの基準でフランのこと、勝手に決め付けて……。一言きちんと謝りたかった」

 リオはそれだけ言うのが精一杯だった。

 すると、フランはリオの側まで歩み寄ってリオの肩をがっしりと掴む。

「そんなことはない。私こそ、リオ達がいなければ、とうに駄目になっていたさ。貴女達がいてくれたから、私は私であることが出来たんだ。魔闘士試験の時だって、リオがいたから合格できた。『フラッグ』だってアリーやパティがいなければ、ゲームの成立だってなかった。皆がいたから、私は頑張れる。まだ浅い付き合いだろうが、私は貴女達を生涯の親友と決めた。これから先、何が起ころうとも、これはもう絶対なんだ」

 力強く拳を握って宣告をするフランに、リオは感嘆した。そして、リオは頬を緩ませ、フランをギュっと抱き寄せる。

「わたしも、フランは親友……。アリーもパティも好き。わたしは皆を信じる。……もう、絶対決めた」

 リオがそう言って柔和な笑顔で返すと、フランは顔を赤らめてしまった。

「あ、明日は勝とうにゃっ!」

「にゃっ?」

 フランは恥ずかしさを取り繕う為に発言した言葉を噛んでしまったようで、さらに羞恥心に拍車がかかってしまい、完全な茹蛸状態になってしまった。しかし、リオはそんなフランに「うん」と笑いながら、はっきりと頷いた。

「じゃあ、明日使う武器を選びたい。わたしに適性のある武器について、フランからアドバイスが欲しい。いい……?」

 リオが故意に愛くるしい表情をしてみせると、フランは上体をフラフラさせながらも、懸命に首を縦に振った。そして動揺するフランを見て、リオは思う。

 わたしもパティ達のように多少は魅力があるのだろうか? スーペルに帰ったら、もう少し愛想良く振舞ってみよう。まずはパン屋の旦那に試してみよう。いつも以上におまけが付けば確信とする。

 こんな時に馬鹿みたいな事を考えているのは、あの能天気な親友(アリエル)の影響なのだろうか。リオはフランに気付かれないように声を殺しながら笑い、フランの手を取って部屋を出る。




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