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ロゥカス!  作者: 結倉芯太
1章
19/45

17.内乱

 アリエルの眼前には香しい紅茶と、頬が落ちそうなくらい甘い匂いのする桃が映っていた。

 それはフランとリオを見送る為、街の外門に行く途中でパティが「寄ってかない?」とフルーツの蜂蜜漬け店を指しての一言から始まった。

 アリエルは『またこんな高級な店を……』と思いもしたが、魔闘士試験合格祝いと考えれば、多少懐が痛くなったとしても、それに値する十分なご褒美だろう。

 しかし、この提案にリオだけが渋い表情を見せる。三人共、リオが裕福ではないことは彼女の身なりを見れば分かる。するとパティが「言い出しっぺの私が全部出すから」と追加して言うと、リオが返事をするよりも早く、アリエルは嬉々として店に飛び込んだ。

「さすが名家のお嬢様♪ 蜂蜜漬けと冷たいお茶のコンビなんて、人生でも数えるくらいしか口にしたことないよぉ~」

 アリエルはパティをヨイショしながらも、紙に書かれたメニューからは眼を離さない。価格はどれをとっても庶民の給料一か月分はくだらない。一般市民にとっては二、三年に一度あるかどうかの贅沢だ。真剣に選択しなければいけない。

 店内にある各テーブルの中央には、色栄えの良い赤い花が飾ってあった。椅子もテーブルも光沢良くツヤがあり、店のカウンターにある古時計と、ワインボトルが並んだ趣のある棚は、店に落ち着いた高級感を漂わせている。

「ホントにいいの……?」

 遠慮がちに聞いてくるリオに対して、パティは手を振り「遠慮は要らないわよ」と返す。

 フランは早くも蜂蜜漬けのメニュー欄で眼を左右に泳がせている。眉間に皺をよせ悩む表情から、どのフルーツの蜂蜜漬けにするか、相当迷っているようだ。その仕草が少女のように無垢で可愛らしい。

 それを見たリオもフルーツ選びに専念しだす。彼女は日頃からこういった甘い嗜好品には手を出せなかったからか、今あるこの絶好の機会を最大限に生かさなければならないとばかりに、上下左右に銀色のつぶらな瞳を走らせ、時にアリエルにフルーツの味やお茶の香りなどの助言を求めてくる。

 結果、パティは林檎の蜂蜜漬けとアップルティー、アリエルとリオは桃の蜂蜜漬けとレモンティー、フランは葡萄の蜂蜜漬けとピーチティーを注文した。飲み物はいずれもアイスティーだ。

「まさかアイスティーがいただけるとは思わなかったな」

「まぁ珍しいわね。ここの店は水属性の魔闘士が経営しているから、提供が可能なのよね」

 フランは明るい笑みを見せる。それに対してリオは首を傾げる。「だからどうして提供可能なのだ?」と疑問に思ったらしい。パティがその表情に気付き、簡単に理由を説明してくれる。

 ここバーゼルに限らず、普段の生活環境で、魔闘士は勝手に魔法を使用してはいけない。魔闘士が魔法を乱用してしまえば、土地が枯れ、人の住めない環境になってしまう為だ。

 だからバーゼルのような治安の良い都市では、有能な警邏隊が魔闘士による魔法の無断使用が行われていないか、常に監視の目を光らせている。

 しかし、この店のように都市から正規に営業用の魔法許可証を発行して貰っていれば、ある程度の魔法の使用を容認してもらえるのだ。冷えた飲み物が飲める店や、大量の湯を沸かす大浴場などは必ずこの許可証を取っている。

 『精』は魔法を使用すると消費してしまうが、一方的に無くなってしまうものではない。その土地に『精』がある程度残っている限り、時間が経てば『精』は回復する事が長年の経験で判明している。だから『精』が枯渇しないように、きちんと魔法の使用を管理すれば、土地の『精』が枯れるような事態は起こらない。こうやって都市や国は『精』の量をきちんと管理し、『精』が枯れないように魔法の使用を制限する事で、出来るだけ庶民の生活環境が向上するよう努めているのだ。

 それは前大戦で学んだ教訓の一つでもあった。そのおかげでフランは冷たい桃の紅茶が飲めるし、アリエルやパティは都市の大浴場で汗を流せる。

 パティの説明が終わるのを見計らったかのように、運ばれてきたお茶と蜂蜜漬けを前にした一同は、眼を輝かせ、フルーツの甘い匂いを嗅ぎ、冷たく心地よいお茶で喉を潤す。

 それは甘く楽しい一時になるはずだった。

 なぜ彼女の耳に入ってしまったのだろう。




『トラヴァーリで内乱だそうだ』




 アリエルは聞き間違いかと思った。

 しかし、その言葉にフランが持っていたスプーンを床に落とす。

 和やかな空気が、一瞬で豹変した。

 そして、フランはすぐさま椅子から勢いよく立ち上がると、話していたウエイターを押しのけ、噂の主である口髭を蓄えたふくよかな男に詰め寄る。

「どういうことだっ!? トラヴァーリで内乱なんて!」

 フランは丁寧に仕立て上げられた男のジャケットの襟を掴み、叫んだ。

 男はかなりの裕福層に属しているのだろう。高価な衣服に身を包み、アヒルのような唇に脂ぎった顔、体型はまるで大粒のドングリのように丸々としていた。その百キロはあろうかという大男を、フランは今にも締め上げてしまいそうだった。

「お願いだ! 教えてくれ!」

「フラン、落ち着きなさい!」

 パティが我を忘れたフランの手を男から払う。

「……くっ、……これはどういうことですかな?」

 男は床に倒れ、二、三回咳き込み肩で息をしながら、フランを睨む。しかしフランはその目線に臆することなく、アヒル口の男を睨み返す。

「すみません、カネイラさん。連れが御迷惑を」

 パティにカネイラと呼ばれた男はパティを見ると、見る見るうちに目元が崩れる。それは見事と呼べるほどの変わりようだ。

「……ん、あぁ、バティスタさんとこのお嬢ちゃんかい?」

 パティは上品にコクリと小さく頷く。カネイラは渋い表情でわざとらしく蝶ネクタイを直しながら、椅子に座りなおす。

 フランはまだ気が動転しているのか、頭を抱えている。

「こちらはマーク=カネイラさん。ここバーゼルで貿易商を営んでいるの。私の父とも交流があって私もお世話になったわ」

 パティに紹介されたカネイラは、苦々しい笑顔で軽く会釈をする。

 確かに初見で胸倉を掴まれて良い気分がしないことは当然だ。それでもわざわざ笑顔を作って挨拶してくれるあたりは商人としてのプライドだろうか、それとも単に人がいいのだろうか。

「フラン、とりあえずこれ飲んで落ち着こうよ」

 アリエルは店の人から水を貰うと、フランに差し出す。リオは席でスプーンを口に含んだまま動かない。フランは頬に当てられたコップに気付き、アリエルに一礼してから口に含む。青かった顔に少し血の気が戻ってきたようだ。カネイラの前に立ち、無礼を詫びる。

「先ほどは申し訳ありませんでした。カネイラ殿」

「彼女はトラヴァーリの出身なのです。先ほどのカネイラさんの言葉に思わず動転してしまって、よろしければお話を聞かせていただけないでしょうか?」

 深々と頭を垂れるフランを、パティがとりなす。

「まぁパティお嬢ちゃんの頼みとあれば、お話しないこともないのですが……」

 カネイラはカップを人差し指でコツ、コツ、と突付き、尖ったアヒルのような唇がモゴモゴと語尾を濁すように喋る。眼は明らかにフランに向いている。

 今度のそれは憎しみではなく、哀れみの視線。フランは口元を引き締めると、カネイラに頭を下げる。

「お願いします」

「では、とりあえずそちらの席に移りましょうか。そちらの銀髪のお嬢ちゃんはまだ食事中みたいですし」

 そういうと、カネイラは重そうな体をよっこらせ、と言わんばかりに起こすと、テーブルにあった自分のコーヒーを片手に移動を開始する。そして、アリエル達のテーブルに来ると、空いていた椅子にどかりと座る。その際に椅子の軋む音がしたが、高級感の漂う木製の椅子は頑丈さもかねそろえている様だ。椅子はカネイラの重い身体を包み込むようにがっちりと受け止めていた。

「それで何から話せばよろしいですかな?」

 テーブルの上で両手を合わせ、カネイラが切り出す。

「トラヴァーリの情勢と、なぜ『内乱』という物騒な言葉がカネイラさんの口から出てきたのですか?」

 パティはカネイラにまずトラヴァーリの状況を、それから内乱へ至った経緯を説明してもらえないかと、申し訳なさそうに頼む。

 一刻も早く母国の内乱の理由を知りたいであろうフランには悪いが、アリエルも多分横で蜂蜜漬けから手を離さないリオも、おそらく順を追って説明してもらえた方が、現状理解が早くできて助かる。そこいら辺をきっちりと把握した上で話を進めるパティは流石である。

 それを聞いたカネイラは低い咳払いを一つして口を開く。

「ではまずはトラヴァーリの状況から分かり易く説明致しましょう。そこの女騎士様は御存知なのでしょうが、この国は今情勢がとても不安定な状況です。それは二つの勢力が常に権力争いをしているからなのです。女騎士様の御家がどちらの勢力の御味方なのかはひとまず置いておきますが、一つは正規の手続きの上、各国から統治を認められた正規軍なるものが存在しています。この正規軍がなぜ正規軍として各国に認められたのでしょうか。それには理由が御座います。まぁ公の場で世間に公表されていますので、皆さん御存知でしょう。それはビッグ4の一角である法国家『ロマリエ』が背後にいたからなのです。彼らの後ろ盾の元、トラヴァーリは統治を試みました。が、ここで思わぬ落とし穴が」

 ここまで言うと、カネイラは自分のテーブルから持ってきたコーヒーを一口含む。もったいつけるようにゆっくりと口元へカップを運ぶ。

「レジスタンス勢力の出現ですね」

 口を挟んだのはパティだった。

「そうです。この正規軍による統治を快く思わない連中が、トラヴァーリのあちこちで小さなテロ行為を行っておりまして。これがもう一つの勢力、反乱軍になります。彼らは反乱軍という名前のわりに、あまり大した活動はして無かったのですが。で、ここからが内乱の経緯となります。その反乱軍勢力が先日、大規模な反乱を起こしまして……。これは魔闘士試験が行われたことによって、正規軍が新たに魔闘士を補充する機会を与えたくなかった為に早期決起を行ったのでは、と私は見ております。彼らはこれ以上、正規軍が力をつける事に我慢ならなくなったのでしょう。後、これは私の筋による情報で確かなものとは言えませんが、反乱軍勢力になんと『イングリド』が資金援助をしているらしいのです。そのせいか、即日鎮圧されるかに思われた反乱軍勢力は、一日たった今も鎮圧されず、都市で正規軍と争っているそうです。今は魔法による戦闘は発生していないようですが、もし発展するようなことになれば……」

 ――土地が枯れ、国が滅ぶ……。アリエルは無数の針で心臓を突き刺されたかのような痛みを感じた。あの地獄のような光景が脳裏に蘇る。甘い果物の香りは腐臭へ、清楚な店内は焼け野原のように……。想像するだけで、鮮明にあの頃の記憶が脳内に映し出され、意識が薄くなっていく。

「そ、そんな馬鹿なことがあるわけないだろう……」

 フランも完全に血の気を失った表情になっており、茫然自失になっている。カネイラの話が未だ信じられない様子である。

「魔法戦争になったらトラヴァーリという国は荒廃してしまうでしょうね」

 パティの冷静で酷く暴力的な言葉が辛い。

「まぁ反乱軍も正規軍も馬鹿ではないでしょうから、魔法戦争だけは回避しようとするでしょう」

「反乱軍側が和平に応じる可能性は?」

「残念ながら」

 二人の会話で、状況がどんどんと鮮明になっていく。

「魔法戦争に発展する可能性ってどのくらいなのさ?」

「この情勢がこのまま続けば、十分にありえる話ですよ」

 戦争回避というアリエルの希望はカネイラの声によってかき消される。

 今は起きていない魔法戦争が、このままいけば起きてしまうかもしれない。そうなれば、トラヴァーリの人々が路頭に迷うことになるのは間違いないだろう。権力者同士の醜い争い、利権の絡む対立国同士の闘争や、国力の低下による反乱。それらは前大戦が終わってからも、絶えず民衆の周囲に漂い、嘲笑うかのように突然発生する。

 昔、そいつはアリエルに微笑んだ。

 そして、今回ターゲットになったのはフランだったのだ。

 重い空気が拡がる。その言葉に皆が俯き、押し黙る。

 そんな中でも、マイペースでスプーンをせっせと動かしていたリオが手を止める。

「土地の荒廃を防ぎつつ、魔法戦争を行う方法が一つだけある……」

 そのリオの言葉に、ハッとした表情を見せたのはパティ。テーブルを叩き、立ち上がる。

「そうよ……。何も魔法戦争に発展する可能性があるだけで、両軍はそうしたいわけじゃないわ。ならリオの言う通り『フラッグ』が行われる可能性が高いって事ね」

 確信めいた笑みをリオにやると、彼女はスプーンを顔の横で正解と言わんばかりにフリフリと回すように振る。そしてパティの手元にあった、まだ殆ど手をつけていない林檎の蜂蜜漬けに匙を向ける。

 パティはそんな食い意地の張った少女に感嘆の息を一つ吐くと、蜂蜜漬けの器を滑らせるようにリオの前に持っていく。

「『フラッグ』なら土地を枯らせることなく、白黒つけられるわね」

「でもあれは魔闘士が少なくとも六人は必要……。反乱軍もそうだけど正規軍にそれだけの魔闘士っているの……?」

 パティからせしめた蜂蜜漬けを頬張りながら言うリオの問いかけに、フランは目を伏せ気味に答える。

「残念ながら私を含め、戦闘に参加意思のある魔闘士は四人ほどだろう。反乱軍に何人いるか情報は定かではないが、恐らく『フラッグ』をやるつもりであるならば、頭数は当然揃えてくるはずだ」

 フランの言葉から、彼女の家は正規軍に賛同しているようだ。そして魔闘士の数においては反乱軍に少し分がありそうである。

「じゃあ、『フラッグ』っていう案を反乱軍が提案してきたら、正規軍は応じられないじゃん! どうすんのさ? ていうか『フラッグ』ってそもそもなんなのさ?」

 アリエルの発言に一同皆目を丸くする。

 一呼吸置いてから、パティがアリエルの頭をパチンと激しく叩く。アリエルの頭部を襲った衝撃音は、店内で会話を楽しむ人々がその音にビクリと反応するほどに大きく響いた。

「いったぁ~!」

「アリーの疑問は最もだけど、その前に言いたいことがあるわ」

 そしてパティは、頭を抑え、涙目を浮かべるアリエルの首をキュッと締め上げ続ける。

「アンタ、ホントに魔闘士?」

 そう言ったパティの表情は、アリエルの人生において五本の指に入るほどに怖かった。

「……い、いちおう」

 首を絞められて苦しい中、目を逸らし気味でアリエルは回答する。パティは首から手を離すと、もう一度ポカリとアリエルの頭を叩く。

「『フラッグ』っていうのは、魔闘士条約文九項に書かれている、魔闘士達による六対六の旗取り戦の事よ。前大戦のようにありったけの魔闘士たちを投入して戦争しても、精が枯れきった不毛の大地が残るだけでしょ。だから皆は考えたわけ。魔闘士たちが戦闘を行う場合において、大地を枯渇させずに決着をつける方法。それが『フラッグ』よ。……たく、この前の筆記試験で出たばかりでしょうが」

 そこからフランがリレーのバトンを受けたかのように喋り始める。

「この『フラッグ』に勝利した側の言い分を各国は認め、支援することを条文において誓うことになっている。勿論このゲームは双方合意の上で行われることが前提だがな。主に国家間の戦争の際に用いられるケースが多い」

 そして説明をしながらも、フランは手荷物をまとめだす。

「ちょっとフランはどうするつもりなのさ?」

 それを見たアリエルは問いかける。

「決まっている。一刻も早く国へ帰り、魔闘士として国を守る。今から行けばまだ間に合う」

 荷物を背中に抱えフランは席を立とうとする。

「ちょっと待ちなさい」

 引き止めたのはパティだった。

「今更あんたが行っても『フラッグ』は成立しないでしょう? そんな体たらくでどうするつもり?」

 パティの言うとおりだ。確かに、今のフランは冷静さが欠けている。

「しかし、黙って見ていることなど、私には出来ないっ。父の命も掛かっているんだっ! 人数が足りないのなら傭兵でもなんでも雇うさ、幸い金には困っていない! 誰でもいいから、とにかくどうにかするっ!」

 言っていることがおかしい。

 国の、親の命が掛かってくるゲームに、どこの誰かも分からないような輩を雇ってゲームに望むというフランの考えは、完全に己を見失っている。もし雇った相手が敵方と通じていたら? 味方が内通していたら? そういった疑問を排除した、愚者の思考になっている。普段のフランであれば、きっとあのような発言はしないはずだ。

 他人のことは冷静になって見ていられるが、自分の事になると、冷静さを保つことは非常に難しくなる。フランも例外ではなかったらしい。

「アンタ、それマジで言ってるわけ? 何処の馬の骨か分からない奴らを雇って、そんなメンバー構成で、本当に勝てると思ってるのっ?」

 叩きつけるようにパティが叱責する。フランは子供のようなふくれっ面で、顔を真っ赤にしている。

「だって仕方ないじゃない! 一刻の猶予もないのにそんな悠長に人材選びなんて、出来るわけないじゃないっ!」

 そして、堰が切れたようにフランは反論する。いつものような固い言い回しではなく、喚き散らす子供のような口調で。

「だって早く行かないと、父が、私の祖国が……。もう失い続けるのはイヤなのっ!」

 両手で顔を押さえ、零れ落ちそうな涙を必死に堪えている。手の平で隠しきれていない端正な唇はぐしゃぐしゃに歪んでいて、そこから嗚咽が漏れる。

 これはあの時の私だ。アリエルはそう思った。

 どうしようもなくて、すがりたくて、助けて欲しくて、ただ涙を流していた五年前の私。

しかし今の私はあの頃のように弱くない。きっと彼女を助けてやれる、いや助けられる!

 アリエルはそう心に決め、フランへ歩み寄る。

「じゃあ、守らないとね」

 うな垂れるフランの肩にアリエルはポンと手を乗せる。

「……三千ルークで手をうつ。食費と旅費は別途請求で」

 雇用条件を口に出したのはリオ。彼女も素っ気ないが、協力の姿勢をみせる。

「少なくともアンタを裏切らない友人が三人ばかり、ここにいるわよ。あら、偶然にも皆魔闘士の資格持ちだわ。これで十分『フラッグ』で闘えるんじゃないかしら?」

 止めを刺したのはパティ。

 この言葉にフランは完全に破顔してしまった。我慢に我慢を重ねた瞼からは大粒の涙が溢れ、嗚咽は大きな泣き声に変わった。側にいたアリエルの腰に手を回し、わんわんと泣いた。そして周囲の目線に構うことなく、彼女達に何度も感謝の言葉を口にした。

 そんなフランを気の毒そうな目で見ていたカネイラだが、店の外で赤子の鳴き声がすると「失礼、どうやら連れが見えたようです」と片手をあげ、申し訳なさそうに一礼すると、代金をテーブルの上に置くと居心地悪そうにそそくさと出て行った。




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