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ロゥカス!  作者: 結倉芯太
1章
12/45

10.枕投げ



 湯浴みを終えたアリエル達は、アリエルの部屋に集まって『おしゃべり』に没頭していた。事の発端は、フランが湯浴みの際、鎧を外した瞬間に起こった。

「なにそれ~! パティ並みじゃんっ!」

 納屋中にアリエルの色のある大きな声が響き渡った。

 アリエルが人差し指の先にあったのは、フランの豊かな胸だった。今まで鎧の下に隠れていて分からなかったが、鎧を外したフランはアリエルから見て、魅力的に映ったようだ。

 確かに人よりも少し主張の激しい胸であることをフランは自覚していたが、それほど驚かれるとは思っていなかった。アリエルとリオは眼をぱちくりさせて、フランを凝視していた。

 その所為か、湯浴みを終わってもアリエルからの視線が痛い。

「べ、別にいいじゃないか。そ、そんなに見るんじゃない!」

 注目されるのが嫌になったフランは、自分の胸を両腕で隠すようにして、その視線から逃れようとする。今は上下共に濃紺色の寝巻きを着ているので、誤魔化しが全く効かない。

「いいなぁ……。私は未だにぺったんこ。パティやフランみたいになるのは、もう無理かなぁ……」

「アンタだって標準くらいはあるわよ。だから悲観しないの」

「だってあんなに凛々しくてかっこよかったフランが、鎧を脱いだらこんなにも女らしいなんて、反則じゃん! さらにあの天然スマイル発生装置も搭載されてるんだよ? こりゃあ、もう立派な詐欺の一つだね。リオは普通に可愛いし、なんか女としての私は最下級に置かれてる感じがするよ……」

 アリエルは口を尖がらせると、枕を憎憎しいようにぎゅっと掴む。本当に悔しいのだろう、そのうち歯軋りも追加されそうなほどの勢いだ。

「大丈夫よ。胸なんか無くても、ソーザさんは気にしないから」

「え? だってソーザさんはアリーの兄上ではないのか?」

 からかうような軽口を言うパティに、フランが問う。

「だってアリーとソーザさん、血は繋がってないのよ。だからぜんぜん――――」

 パティの言葉はそこで途切れた。なぜなら、パティの顔面にめり込んだ枕によって、その続きがかき消されたからだ。

「兄様は尊敬してるだけだよ。パティの方こそ、いっつも、デレデレしてるじゃん」

 フランもそれには同意する。この家に入った瞬間に確認した。

「……相変わらず、いい度胸じゃない」

 パティから冷たく、そしてドスの効いた低い声が返ってくる。アリエルはかかってきなさいとばかりに鼻息荒く、枕を持って、戦闘態勢を整えている。

 フランはそのパティアリエルの睨みあいを、「あははぁ」と苦笑いで傍観しながら、片手を左右に振って、不参加を表明する。

 部屋の中には枕が三つ。手数を増やす為にアリエルは腕を伸ばして残り一つの確保を試みたようだが、それを容易く許すパティではない。アリエルの視界から自分が外れるのを確認するや、すかさず枕を投げつける。

 それは鋭く、まるで弓矢の如くアリエルを襲う。しかし勝手知ったる親友である。当然、それを予想していたらしく、半身でベッドに倒れこむように避ける。そして、アリエルの代わりに、枕は胸に手を当てて、眉をハの字にさせていたリオの眉間に見事に命中した。枕が落ちた時、リオの眉は逆ハの字になっていた。リオは座っていた椅子からゆっくりと立ち上がると、床に落ちた枕を拾い上げる。リオの陰鬱な目線はしっかりとパティを捉えている。

「これで二対一だよっ。観念しなさいっ」

「相手は弾切れ。狙い撃ち」

 分の悪いパティはベッドの足元側にいたフランの方へとジリジリと後退を始める。そして、フランの背後に回りこもうとする。

「ちょっと待て! 私は関係ないだろうが」

「これは巨乳と貧乳による戦いよ。恵まれた者は恵まれなかった者から常に妬みの標的になるものよ。そう考えると、アンタは必然的にこっち側。いいから、私の盾になりなさいよ」

 理不尽極まりない言葉を言い放ち、パティはフランの背後に隠れる。それを追い詰めるようにリオとアリエルが悪魔のような笑みでジリジリと迫ってくる。

 ――なんでこうなるのだ? 完全にとばっちりだ。私に罪はないだろう? と、フランは激しく思う。パティは私よりも図体も態度もでかいくせに、こんな時は私を盾にして、子悪魔共の相手をさせるのか。今は鎧も纏ってないし、チャクラムも荷袋の中だ。何を持ってこいつ等の攻撃を防げというのだ。

「ま、待て、降伏する。それに私は丸腰だぞ? 無抵抗の人間を貴女達は攻撃できるのか?」

 フランは道理を説く。

「無抵抗ぅ~? 丸腰ぃ~? 私にはそんな風には見えないがねぇ。なぁ、リオ君」

 眼鏡をつけていないくせに、無い眼鏡をクイっと上げる仕草をしたアリエルがリオに同意を求めると、傍らでリオが「凶器発見……」と、フランの胸を指して申告する。

 それは、悪役を気取ったマッドサイエンティストな博士と助手のようだった。

「そうだなぁ、それは危ないなぁ。こちらがやられる前にお仕置きする必要がありそうだね」

「アンタ、はやくどうにかしなさいよ。頼りないわね」

 彼女たちに道理は通用しなかった……。そしてフランを勝手に相棒にした後ろの女にも、恐らく通じないのだろう。 五指をわしわしとうねらせて接近してくる敵に対して、顔真っ青にフランが諦念を抱いていると――

 コンッ、コンコン

 不意にドアをノックする音が部屋に響く。その音に皆が一斉に硬直する。

「おーい、俺は納屋で寝るからな。俺の部屋のベッドは好きに使っても構わないよ。それと戸締りと火の処理はきちんとして、早く寝るんだぞ」

 ソーザの言い方は「騒ぐのはほどほどにしろよ」というそんな忠告にも思われ、アリエル達は我に返ると、いそいそと寝支度を整え始めた。

 ――助かったぁ……。

 そんな中、フランは安堵の息をついた。




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