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おしまい

スプーンいっぱいの想い

Spoonfull Of Mind





その3           








カシャン!


遠くで金属が落ちる音を聞いた。


フォークかスプーンみたいな物が落ちた音。


それはどこか、悲しげな壊れてしまうかのような音だ。


体調が悪くて弱気になっているのだと思いたかった。


でも…。


こんな事なら言っておけば良かったな。


サクラに「ごめん」って…。




「私、帰りませんから。」


「別に二度と来るなって言ってるんじゃないよ。家族とか村の人が心配してるんじゃないかって…。」


「私がお役に立てないからですか?」


「いや…そうじゃなくて。」


「私、お邪魔なんですね…。」


「そんな事思ってない!」


「…じゃぁ、私の事…嫌いになっちゃったんですか…。」


サクラはめそめそと泣き出してしまう。


言葉を重ねても埒があかない。


長い事ここにいるし、足の具合も善くなってきたので一度村に顔を出したらどうか、という提案をしただけだ。


しかしサクラは強情に、弘樹さんのお役に立つまでは村には帰らない、の一点張り。


朝からずっと平行線のままだ。


「じゃぁ、勝手にしろ!」


そう言い捨てて家を出てきてしまった。


サクラとは良い友達関係だと思っていた。


でも時々こうして分かり合えない事もあるのだ。


少し早いけど仕事場いって、頭冷やさないとダメだな…。


とりあえず駅に向かい電車を待つ。


少し離れたところで外人が何か言っているのが見えた。


話し掛けられた方はしどろもどろに答えている。


やがて何かを聞き出せたのか、外人さんはその人の手を握り大声でお礼を言っている。


本人は目を白黒させている。


あれは俺でもビックリするよな…。


(サクラも、あんな気分なんだろうか…。)


独自の文化で隠れるように生きてきたコロボックル。


それがいきなり異世界で家に帰れなくなってしまう。


きっと心細かったに違いない。


それに風習とか仕来たりみたいなのがあって、あんな事言ったのかもしれない。


一緒にいて俺は知っている。


サクラは嘘を言わないし、自分の心にも嘘をつかない。


俺はそんな事を考えずに優しさを押し売りしていただけなんだ…。


(帰ったら…謝らなきゃな…。)


そう思い見上げた空は雨を降らせていた。







傘も何も持っていなかった俺は案の定風邪を引く羽目になった。


帰り道、冷え切った体は自分でもまずいと思っていた。


冷たい雨がドンドン体温を奪う。


家に帰る頃にはもうフラフラだった。


(あんな事言ったバチがあたったかな…。)


そう思いベットに倒れこんだ所までしか覚えていられなかった。














目が覚めると顔の脇にスプーンが落ちている。


そしてそれを抱えるように眠るサクラ。


なるべく静かに体を起こす。


睡眠のお陰で何とか体は動かせそうだ。


部屋は電気が点きっぱなしで、濡れた服が散乱している。


ヤレヤレと、薬を飲もうと静かに立ち上がる。


と、パソコンの電源が入ったままだ。


ふとその画面に目がとまる。


「具合が悪いときの処置の仕方」


そんな感じのサイトが開かれている。


「熱が出たとき」「風邪をひいたとき」などが詳しく書いてある。


もしかして、等と思う余地もない。


サクラは僕の為にこれを検索して探し出してくれたんだ。


「水分補給が大事です。」


これを見たサクラは5センチにも満たない小さな体で、倍以上はあるかというティースプーンで水を運んでくれたんじゃないのか?


それも何度も運んでくれたんだ。


こぼれた水がカーペットに線を描くほどに何度も、何度も…。


薬を飲んだ俺はベットに戻る。


静かに眠るサクラと俺の間に小さなスプーンがある。


銀色のスプーン。


それを持つ人を幸せにすると言われている。


でも本当はスプーンは人を幸せにしたりしない。


そんなもので人間の幸せはやってきたりしない。


僕は目の前の小さな、小さな女の子を見つめる。


本当は、スプーンを使う人が幸せにしてくれるんだ。


そんな人が誰にだっているのかもしれない。


俺には…。


君がいた。


サクラがいてくれて良かった。


本当に…。


だから、ありがとう。


ふいに目頭が熱くなるのを抑え切れなかった。


「…ありがとう…サクラ…。」


スプーンいっぱいの想いが嬉しくて、俺は泣いた。


俺が一緒にいるのは、そんな素敵な小人の女の子です。






<おしまい>

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