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流行

作者: 一平

 ある日、一人の若い男が家にやってきた。スーツを着ていて、アタッシュケースを持っていたので、何かのセールスマンのようだった。

 「何の用だね? 新聞や牛乳なら間に合ってるよ」

 「いいえ、私はそんなものを売りに来たのではありません。私がご紹介させていただきたいのは……」


 男は持っていたアタッシュケースの中からパンフレットを取り出し、私に手渡した。

 

 「お客様は何か、世間に流行らせたいものはございませんか?」

 「流行らせたいもの?」

 「私どもの独自の技術で、たった一週間でなんでも流行らせることができます。当然、それなりのご料金を頂くことになりますが……」


 パンフレットには、男が話していたことが細かく書かれている。最後の方に料金プランの表が載っている。流行の規模によって料金が変わるようだ。


 「本当に、なんでも流行らせることができるのか?」

 「はい、もちろんでございます。何かございませんか?」

 

 私は腕を組んで考えた。そして、一つだけ思いついた。私は押入れの中から、一本のビデオを取り出して、テレビに映し出した。


 「私が子供のころに放送されていたアニメだ。『ネコのクロ』という作品なんだが、途中でアニメにスポンサーがつかなくなって打ち切りになってしまった。もう30年近く前の作品だが、これを流行らせて、もう一度アニメの続きを誰かに作らせてほしい」

 「それなら……」


 男は早速プランの話を始めた。男の計画では、まず日本全国に『ネコのクロ』を流行らせ、ニーズを高める。そこからネットなどで「アニメ化希望」の署名を集める。そうすれば、どこかのテレビ局がアニメ化に乗り出す可能性が出てくる。私はその話に乗ることにして、契約書にサインした。男はニコニコしながら帰って行った。


 一週間後、私は目を疑った。テレビで、『ネコのクロ』の特集をやっていたのだ。その特集では、『ネコのクロ』ファンの人々がインタビューされていたり、グッズの紹介がされていた。近所の店でも、グッズが売られていたり、主題歌が流れていたりと、まさに大流行である。あの男の言っていたことは本当だった。


 それからというもの、テレビでは毎日『ネコのクロ』に関連する番組が放送されるようになった。ネコのクロ大好き芸人なんてのも出てきた。私は胸が高鳴る思いだった。外出する時も、「自分がブームの仕掛け人なんだ」と言う思いからか、自然と胸を張って歩いていた。


 ブームが来てから時間がたったある日、昔の知り合いと喫茶店で会うことになった。私は何気なく、『ネコのクロ』の話を振ってみた。当然のように、『ネコのクロ』について語り合えると思っていたのだが、彼は急にしかめ面になった。


 「ああ、あのアニメね。なんかテレビで異常に取り上げられてるけど、いい加減うんざりだよ。普通に考えてあんなアニメがブームになるはずないのに。私の知り合いも、あのアニメの絵が出てきた瞬間にチャンネルを変えるそうだ」


 私は愕然とした。彼の話によると、毎日『ネコのクロ』を取り上げるのは、ある一つの放送局だけだという。よく考えたら、私は『ネコのクロ』関連の番組しか見ていなかった。ネットでも、この明らかなごり押しに非難が殺到していた。


 後で分かったことなのだが、あのセールスマンは、『ネコのクロ』の特集を毎日放送していたテレビ局の人間だった。あのテレビ局は、自分たちでブームを作り、それに関連した番組を放送することで、視聴者を囲い込むつもりだったのだ。だが、その計画は失敗に終わった。視聴者はそれほど馬鹿ではなかった。同時に、私の計画も台無しになった。

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