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 眩しい。

 まぶたの裏まで光が届いて、少女は思わず目を細めた。

 ステージの照明は、いつだって容赦がない。

 しかし、彼女に浴びせられるファンからの声援は、その光よりもっと強い。


「次に来る美少女アイドル・白石希乃美」

 この二つ名が彼女のキャッチコピーとなって久しい。

 アイドルマニアの間では、もう彼女の名前は広く知られていた。

 中規模のアイドルグループ。その中で、彼女だけが突出して輝いていた。

 だから、彼女に人気が集中するのも当然と言えた。

 美しい容姿。ビジュアル担当──事務所はそう彼女を位置づけていたが、本人は「ビジュアル担当」というポジションがあまり好きではない。

 なぜなら、まるで「良いのは容姿だけ」と言われているようだったから。

 だから、歌も、ダンスも、トークも。すべてにおいて、グループの誰よりも努力していた。

 そして──。今日、その努力が実を結んだ。


「希乃美ちゃん! おめでとう! オーディション、受かったよ!」

 マネージャーの弾む声。有名ドラマシリーズの、続編への出演が決まったという一報が入ったのだ。

 しかも、ストーリーに深く絡み長時間露出する、かなり重要な役どころだ。

「おめでとう! これで一気にブレイク間違いないね!」

 マネージャーの言葉に、彼女は笑顔で頷いた。

「はい! もっと頑張ります!」

 人気ドラマだけあって、共演者は有名人ばかり。その中には、前作に引き続き主役を務める人気男性アイドル、森永涼太の名前もあった。

(芝居は畑違い。緊張する……。でも、やっと掴んだチャンス。頑張るしかない)

 自分の演技が通用するかおっかなびっくりの彼女だったが、幸いドラマは好評だった。

 視聴率も上々で、彼女の演技も評価された。SNSでは「あの可愛い子誰?」「演技も上手い」と好意的なコメントが並ぶ。

 手応えがあった。このまま、もっと上を目指せる。

 ──そう思っていた。あの時までは。


 いつものように朝の情報番組を見ながら朝食を取っていた、その時。

 突然、携帯電話が鳴り響いた。マネージャーからだ。こんな早朝に、しかも何度も。

「はい、もしもし──」

「すぐにネット見て! 週刊誌が変な記事出してる!」

 マネージャーの声が上ずっている。嫌な予感がした。

 慌ててスマホを操作する。Xitterのトレンドに、自分の名前が上がっていた。

 そして、その隣に並ぶのは──共演した有名男性アイドル、森永涼太の名前。

『独占スクープ! 森永涼太、新人アイドルと密会デート!』

 記事には、二人でいるところを撮影したという写真が掲載されていた。

 確かに写っている。だが──

(これ、ドラマの打ち上げじゃ……!)

 他のキャストやスタッフも大勢いた、あの打ち上げだ。角度を工夫すれば、二人だけで会っているように見せることもできる。

 

 スマホの画面が、次々と通知で埋め尽くされていく。

 リプライ、メンション、引用リツイート。

『マジかよ……森永くんが……』

『新人のくせに何やってんの』

『清純派ぶってたのに』

『森永くんを返して』

『ファン辞めます』

 自分のファンからも、森永のファンからも、罵詈雑言が飛んでくる。

 手が震えた。

「違う……これは……」

 無実を晴らしたい。でも、事務所からは「今は何も発信するな」と指示が出た。

 次の日も、その次の日も、炎上は収まらない。

 握手会は中止。SNSは閉鎖。外出もままならない。

 もう、スマホもテレビも見たくなかった。

 マネージャーが食べ物を差し入れてくれる中、部屋で、ただじっと耐えるしかできなかった。


 一週間後。

 事務所に呼び出された彼女は、マネージャーと社長の前に座っていた。

「どういうことですか……?」

 彼女の声は震えていた。

 マネージャーが、申し訳なさそうに視線を逸らす。代わりに口を開いたのは、社長だった。

「……あのスキャンダルは、ウチが仕掛けたものだ」

「え……?」

「君一人が目立ちすぎるのは困るんだよ。グループ全体の知名度を上げるには、話題性が必要だった。この件でグループ名も一緒に報道される」

「それに、森永涼太は今一番ホットなアイドルだ。はるかに格上の彼とのスキャンダルなら、うちのグループの格も引き上げられる」

 社長の言葉が、まるで理解できなかった。


「でも……あれは嘘じゃないですか! 私、何もしてません!」

「嘘でもいい。悪名は無名に勝る、芸能界なんてそういうもんだ」

「そういうもの……?」

 彼女の目から、涙が溢れ、ぽとりと落ちた。

「私、真面目にやってきたのに……私がファンを裏切ったみたいに思われて……!」

「話題が風化すればファンは戻ってくるさ。それに、グループ全体の知名度が上がれば、君にもメリットが──」

「知名度なんていりません! 私が欲しいのは、ファンの人たちとの信頼です!」

 彼女は立ち上がった。椅子が倒れる音がする。

「もう……もう、やってられないです……!」


 その後、森永涼太の所属事務所が動いた。

 彼らは大手で、力がある。当日の他のキャストの証言、他の角度から撮られた打ち上げ会場の写真、全てを公開し、

 徹底的に証拠を突きつけることで、記事が捏造であることを完全に証明した。

 スキャンダルは否定され、彼女の潔白も証明された。結果、炎上は、自然と鎮火していった。

 しかし、「火のない所に煙は立たない」「裏では接点あったんじゃないの」という声は、わずかながらではあるが、消えることはなかった。


 そして──

「卒業します」

 その言葉を告げたとき、いつもしっかり者のマネージャーが、子供のように泣きじゃくった。

「ごめんね……私、止められなくて……」

「マネージャーさんのせいじゃないです。ただ、私はもう……信じられないんです」

 事務所を。運営を。芸能界そのものを。

 ファイナルライブのステージで、彼女は最後の歌を歌った。

 無念の涙を流しながら、それでも笑顔を作って。

 スポットライトが消える。

 少女のアイドル人生も、そこで幕を閉じた。


 ベッドの中で、茉白姫輝は苦しそうに寝返りを打った。

 夢の中で、あの日の記憶が繰り返される。

 裏切られた日。信頼が崩れた日。

(でも……今は違う)

 夢の中で、彼女は呟いた。

(今のファンのみんなは……信じてくれる。……信じてくれる、よね……?)

 不安と希望が入り混じった気持ちで、彼女は眠り続けた。

 彼女の知らないところで、運命の歯車は回り始めていた。


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