表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

未来息子:父アリオス編

幼児化した婚約者が可愛いと思ったら、中身だけ大人モードで迫られて困ってます?!

作者: *ほたる*
掲載日:2026/02/27

前作のその後のお話です。

※単体でも読めます。

 あの婚約破棄騒動ののち、リディアは正式に“真の聖女”として認められ、

 アリオスとは無事に婚約が結ばれた。


 王太子の婚約者に戻す声も一時あったが――

 未来の大神官の羊皮紙にあった

「聖女の力は、互いに深く愛し合う者同士でしか発揮されない」

 という記述がすべてを決めた。


 こうして政争も収まり、リディアはようやく穏やかな日常を取り戻した。


(……アリオスは本当にすごい。

 学生なのに新しい魔術体系まで編み出して、王国からも期待されてるし……)


 そんなことをぼんやり考えながら、リディアは渡り廊下を歩いていた。


 ローズピンクの髪を揺らし、碧の瞳が陽の光を受けて揺れている。


(ふぅ……平和って、いいなぁ)


 そう思った矢先だった。


「どうするんだよあれ?!」

「分からないって! とにかく先生呼ぶぞ!」

「まさかこんなことになるなんて……!」


 前方から、明らかにただ事ではない声が飛んできた。

 慌ただしい足音も近づいてくる。


 その異様な気配に、リディアは思わず声をかけた。


「どうしたの? 何かあったの?」


 振り返った生徒たちは、リディアを見るなり目を見開いた。


「っ……聖女様!?」

「助かった! 聖女様なら何とかできるかも!!」

「ちょっとこっちへ来てください!」


「え、え?!」


 反応する間もなく、生徒の一人に腕を掴まれた。

 そのまま勢いよく、学園の奥――魔術研究室の方へ連れて行かれる。


 廊下の角を曲がるたび、胸がざわついていく。


(何が起きてるの……?)


 やがて、生徒が研究室の扉を押し開けた。

 その先にいたのは――


「……え? リディア?」


 ぽかんと口を開けた小さな男の子が、椅子にちょこんと座っていた。

 年の頃は五歳ほど。

 長い黒の前髪から隠れて見える、水色の瞳。

 その姿に、リディアは息を呑む。


(……アリオス……?!)


 一瞬、研究室の空気が止まった。

 生徒たちは「聖女ならどうにかできるはずだ!」と希望を抱いてリディアを連れてきたが――

 彼女は聖女として覚醒したばかり。

 奇跡の“ピンクの光”は感情と強く結びついており、

 自分の意思ではまだうまく制御できない。


「せ、聖女様……これは……治せませんか……?」

「ご、ごめん……! ピンクの光、出そうとしても……今は出ないの……!」


 その返答に、生徒たちは顔を見合わせた。


「そ、そうか……!

 じゃ、じゃあ教師呼んでくる!!」

「早くしろ! これ絶対大ごとだって!!」


 半ばパニックになりながら、生徒たちは慌てて研究室を飛び出していった。


 シュコー……。

 魔道コンロの上で、ポットの湯が静かに沸く音だけが響く。

 気づけば、研究室にはリディアとアリオスの二人きり。


 魔術研究の途中で、誤って試験薬を浴びてしまったアリオスは、

 その反動で幼児化してしまったらしい。


 教師たちが確認したものの原因は不明で、

「時間が経てば戻るだろう」という曖昧な見立てしか出なかった。 外に出すわけにもいかず、婚約者であり聖女のリディアが付き添う形で、しばらく研究室で待つことになった。


 アリオスは湧いたポットをカチッと止めると、その小さな手で取っ手を掴もうとする。


「あ、いいよ! 私がやるって!」


 慌ててリディアが手を伸ばす。

 火傷でもしたら大問題だ。


「大丈夫だよ。普段やってるんだから」


 ぷくっと頬を膨らませて見上げてくるアリオス。

 その不満げな表情に、リディアは胸がキュンと跳ねた。


(……可愛い……)


 昔、森で走り回っていた頃と同じ顔、同じ声。

 でもこうして真正面から改めて見ると――


(こんなに小さかったっけ……?)


 胸がじんわりと温かくなりながら、リディアはポットのお湯をカップに注ぎ、茶葉のパックを沈める。


「はい、どうぞ」


 コトッ。

 湯気の立つカップをそっと彼の前に置く。


「……大丈夫だって言ったのに」


 まだ不貞腐れている様子がいちいち可愛い。

 思わず微笑んで、リディアは彼の隣に腰を下ろした。

 アリオスは小さな両手でカップを持ち、慎重に息をふぅっとかける。


 ぷにぷにした幼い手。

 わずかに赤いふっくらした頬。

 艶のある柔らかそうな黒髪から覗く、つぶらな瞳。


(っ……可愛いっ……可愛すぎる……!!)


 限界突破したリディアは、カップを置いた瞬間のアリオスに――


 ぎゅむっ。


 思わず抱きついた。


「えっ?! ちょ、リディア!?」


 戸惑って振り向く幼いアリオス。

 けれど、リディアは腕を緩める気なんてさらさらない。


「昔はこんなに小さかったんだよね……。

 可愛いなぁ……ずっとこのままでもいいくらい」


 ぎゅっと抱きしめたまま、リディアは頬ずりする。

 一瞬、アリオスの身体がビクッと強張った気がしたが、気にも留めずそのまますり寄る。

 子ども特有の柔らかい肌の感触。ほのかな甘い匂い。

 胸の奥がきゅうっと溶けるようにあたたかくなる。


 アリオスは真っ赤になって固まったあと、小さく息を飲んで、ぽつりと呟いた。


「……リディア、分かってる?

 僕、見た目は今こんなだけど――中身はもう、違うんだよ?」


 その声は、幼い姿には似つかわしくないほど低く、掠れていて。

 リディアの碧の瞳が大きく見開かれる。


 顔を離すと、長い前髪の隙間から水色の瞳が覗いた。

 幼いころとは違う――熱を宿した、アリオスの瞳。

 その視線が、まっすぐにリディアを射抜く。


 ドクン。

 胸の奥が大きく跳ねた瞬間――


 パァァァッ。


 ピンク色の光が部屋中へ弾け、リディアは思わず目を閉じた。

 光がすっと収まっていく。

 ゆっくりと瞼を開けると、そこには――


 さっきまで腕の中にいた小さな彼ではなく、

 いつもの、背の高いアリオスがいた。


 リディアより頭ひとつ高い位置から、静かに……でもどこか意地悪く見下ろしている。

 ――口元がわずかに上がり、くすりと笑った。


「……散々、煽るだけ煽ってくれたけど――覚悟はできてるんだよね?」


「えっ……え……?」


 戸惑うリディアの手首を、アリオスの大きな手がそっと取る。

 胸の鼓動が早くなる。身体が――動かない。


 ピンクの光が、室内をふわりと駆け巡った。

 アリオスの黒髪が揺れ、熱を帯びた水色の瞳が覗く。

 戸惑うこともなく、ゆっくりと近づいてきて――


 ふたりの唇が、そっと重なった。



最後までお読みいただき、ありがとうございました。


次回の更新は 再来週の金曜21時ごろ を予定しています。

未来息子シリーズの短編をお届けする予定です。


もし今回のお話を気に入っていただけましたら、

ブクマや感想をいただけると嬉しいです☘️

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ