光の中で、誰も見ていない
スマホの光が、夜の部屋を白く染めている。
ベッドの上、私は膝を抱えながら、画面をスクロールする。
ハートの数が、今夜も少しずつ増えていく。
——また、ひとり誰かが、私の笑顔に「いいね」を押した。
フォロワー、三万一千六百二十二。
数字は、私の体温みたいに日々変わっていく。
嬉しい。けれど、どこかで、ずっと怖い。
この“理想の私”が、少しでも崩れたら、
きっと全部、消えてしまうような気がして。
投稿用に撮った写真は、十枚に一枚しか残さない。
角度、光、肌の色。全部、計算。
笑顔は本物じゃない。
でも、本物の笑顔を誰も求めてないことくらい、もうわかってる。
私のアカウントの名前は「yuzu_daylight」。
本名の柚なんて、誰も知らない。
現実の私は、教室の隅で静かにお弁当を食べるただの子。
でもスマホの中では、“憧れの女の子”になれる。
——少なくとも、そう見えるように作れる。
放課後、親友の沙耶が話しかけてきた。
「柚、またバズってたじゃん。すごいね」
「うん……まあ、たまたま」
笑いながら答えたけど、胸の奥はざらざらしてた。
沙耶はSNSをしていない。
「リアルで十分」って言って。
それが、少しだけ羨ましくて、少しだけ腹立たしかった。
夜になると、頭の中で声が響く。
——もっと投稿しなきゃ。
——昨日より、いいねを取らなきゃ。
スマホを置くと、部屋が一気に静かになる。
その静けさが、まるで「存在を否定されている」みたいに痛かった。
ある日、知らないアカウントからDMが届いた。
《コラボしませんか?フォロワー10万のモデルです》
名前は「RINA」。
私は胸が高鳴った。
“選ばれた”気がした。
彼女と初めて会ったのは、渋谷のカフェ。
RINAは、写真のままだった。
完璧な髪、完璧な笑顔。
でも、話してみると、どこか上滑りしていた。
彼女もまた、“演じている”のがすぐにわかった。
だけど、私はそれを指摘できなかった。
むしろ、そんな彼女に憧れた。
「この人みたいになれば、もっと“光”の中にいける」と思った。
数日後、コラボ投稿をした。
RINAと並んで笑う写真。
タグは《#dreamgirls #yuzuXRINA #selflove》。
投稿から一時間で、コメントが二百件を超えた。
《天使みたい》《最強コンビ》《リアルより綺麗》
——気持ちよかった。
この感覚こそ、私が生きている証拠のようだった。
でも、その快楽は長く続かない。
翌週、別の人気アカウントが炎上した。
「加工詐欺」「現実と違いすぎ」
タイムラインには批判と罵倒の嵐。
私は震えながら画面を見ていた。
コメント欄の文字が、私の未来みたいに思えた。
怖くなって、投稿を一週間止めた。
でも、すぐにフォロワーが減った。
100、200、300——数字が減るたび、
心臓が縮むように痛んだ。
「存在してない」みたいな恐怖。
私は焦って、深夜に新しい写真を投稿した。
笑顔を貼りつけた、加工の強い自撮り。
キャプションには《久しぶりに笑えた》と書いた。
本当は泣きながら撮ってた。
投稿の翌朝、通知が爆発していた。
1万いいね。数百のコメント。
《元気そうでよかった》《やっぱりyuzu最高》
その言葉を見ながら、心は冷たく沈んでいく。
“みんなが見てる私”は、もう私じゃない。
でも、もう戻れない。
このアカウントが私の「居場所」になってしまったから。
そんなある夜、RINAから再びメッセージが来た。
《新しい案件、一緒に出よう。テレビにも出れるかも》
私は迷った。
でも、即座に「行く」と返した。
「現実の私」がどれだけ小さくても、
「光の中の私」は誰よりも綺麗で、必要とされていたから。
撮影当日。
私たちはプロの照明の下に立った。
眩しすぎるライトが、肌を焼くように照らしていた。
RINAは笑いながら囁いた。
「笑顔、崩さないでね。みんな見てるから」
その言葉で、私は気づいた。
——ああ、この人も、私と同じなんだ。
“見られなければ、消えてしまう人間”。
番組は好評だった。
SNSでは「可愛い」「次世代モデル」と騒がれた。
でも、放送後、ひとつの匿名投稿が流れた。
《加工なしのyuzu、別人じゃん》
それは瞬く間に拡散された。
写真は私の学校での姿。
スッピン、無表情、現実の私。
フォロワーのコメント欄が、あっという間に変わった。
《騙された》《夢を壊すな》《ブスすぎ》
私は画面を閉じられなかった。
いいねの代わりに、罵声の通知が鳴り続けた。
次の日、学校に行けなかった。
鏡の中の自分を見ても、誰かわからなかった。
「光の中の私」も、「現実の私」も、
どっちも嘘みたいで、どっちも消えていくようだった。
RINAに連絡したけど、既読はつかなかった。
夜になって、窓を開けた。
外の光が滲んで見える。
スマホの通知はまだ止まらない。
私は思わず、カメラを開いた。
泣き腫らした顔を、そのまま映した。
そして、投稿した。
キャプションは短く。
《もう、誰のために笑ってるのかわからない》
投稿から数分で、コメントが溢れた。
《泣かないで》《大丈夫?》《構ってちゃん?》
その混ざり合う言葉の海の中で、
私は初めて、何も感じなかった。
——誰も、私を見ていない。
見ているのは、「画面の中の何か」だけ。
次の日、SNSを削除した。
その瞬間、静けさが戻った。
でも同時に、世界が少しだけ遠くなった。
“誰も見ていない私”を、誰が生きるのか。
そんな問いだけが残った。
放課後の教室。
久しぶりに沙耶が声をかけてきた。
「柚、最近どう?SNSやめたって聞いたけど」
「……うん。もう疲れちゃった」
「そっか。あのね、明日さ、放課後プリクラ撮らない?」
私は一瞬、返事をためらった。
でも、うなずいた。
「いいよ」
その瞬間、胸の奥に小さな痛みが走った。
きっと、まだどこかで誰かに“見てほしい”んだと思う。
でも、その誰かが「画面の向こう」じゃなくて、
目の前の誰かであることを、
——やっと少しだけ、思い出した。
放課後、夕暮れ。
プリクラ機の中で、沙耶と並んで笑った。
シャッターが光る瞬間、私は思った。
あの“いいね”の光よりも、
この一瞬のほうが、ずっと温かいかもしれない。
だけど、その温かさが長く続かないことも、
私はもう知っている。
家に帰ると、スマホが机の上で静かに光っていた。
新しいアプリの通知。
《あなたの笑顔がトレンドに戻っています》
指が、勝手に画面へ伸びた。
心臓が高鳴る。
——光の中に戻れるかもしれない。
そんな錯覚に、また少しだけ救われた。
私はゆっくりと画面をタップした。
青白い光が部屋を満たす。
まるで、私を再び“世界”に迎え入れるように。
その光の中で、私は笑った。
涙を拭いながら。
——誰も見ていない笑顔で。
***
この物語は、
「承認の光」と「孤独の影」の間で揺れる現代人の写し鏡。
SNSという虚構の世界が、彼女に“生きる意味”を与え、
同時に“現実”を奪っていった。
ビターエンドでありながら、
彼女が最後に見た“光”は、もしかすると救いなのかもしれない。
暇つぶしでaiに書かせました。
文は人が書いた方が面白いなと再認識
今の量産型小説と同等に感じます




