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第4話:新たな出会い

翌日の午前。


レンは折れた短剣の代わりになる武器を探しに鍛冶屋へ向かった。


「いらっしゃい」


店主が声をかけてきた。中年の男性で、腕には無数の傷跡がある。筋肉質な体格と、鋭い目つき。元冒険者だろうか。


「あの……短剣を探しています。前のが折れてしまって」


レンは折れた短剣を取り出した。


店主は短剣を手に取り、刃の破断面を確認する。


「ふむ……手入れはきちんとしているな。刃こぼれもない。良い使い方をしている」


店主は頷いた。


「何と戦った?」


「ホブゴブリンです」


「ホブゴブリンか」


店主は納得した様子で頷いた。


「お前さん、何級だ?」


「F級です」


「F級でホブゴブリンと戦ったのか。無茶をするな」


店主は苦笑した。


「だが、生きて帰ってきた。それは評価できる」


店主は折れた短剣を丁寧に置いた。


「この短剣、手入れは完璧だ。使い方も悪くない。だが、問題は元々の強度だ」


店主は棚を指差した。


「安物の短剣は、所詮安物。ホブゴブリンの骨や筋肉には耐えられない。お前さんの腕が悪いんじゃない。武器が悪いんだ」


「そうなんですか……」


「ああ。冒険者は武器で命を守る。ケチるべきじゃない」


店主は真剣な表情で言った。


「だが、だからといって高すぎる武器も意味がない。お前さんの実力と財布に見合ったものを選ぶべきだ」


店主は棚から短剣を取り出した。


「これは鋼製。頑丈だが、ちょっと重い。銀貨15枚」


店主が短剣を差し出す。


レンは受け取り、何度か素振りをした。確かに頑丈そうだが、重さが気になる。


「……少し重いですね」


「そうか。じゃあ、こっちはどうだ」


店主が別の短剣を取り出した。


「これは軽量化の魔法付与がされてる。鋼製だが、普通の鋼より軽くて扱いやすい。銀貨30枚」


レンは魔法付与された短剣を手に取った。確かに軽い。握りやすく、バランスも良い。


「これにします」


「いい選択だ」


店主は満足そうに頷いた。


「その短剣なら、しばらくは使える。ただし」


店主はレンの目を見つめた。


「油断するな。武器が良くても、使い手が死んだら意味がない」


「はい」


銀貨30枚を支払う。


「あ、それと」


店主が折れた短剣を手に取った。


「この短剣、研ぎ直しもしてるからな。また来いよ。武器の手入れは大事だ」


「ありがとうございます」


会計を済ませながら、レンの視線が棚の奥に向いた。


ガラスケースの中に、美しい銀色の短剣と戦斧が対になって飾られている。他の武器とは明らかに違う、神秘的な輝きを放っていた。


「あれは……?」


レンが尋ねると、店主が振り返った。


「ああ、あれか。ミスリル製の短剣と戦斧だ」


店主は少し誇らしげに言った。


「うちの店の最高級品でな。軽くて丈夫、魔力伝導率も抜群。冒険者の憧れだ」


「……値段は?」


「短剣が金貨10枚、戦斧が金貨15枚だ」


レンは息を呑んだ。


金貨10枚。銀貨に換算すれば1000枚。


今の所持金の10倍以上だ。


「手が出ませんね……」


レンは苦笑した。


「当然だろ。お前さんみたいな駆け出しが買える代物じゃない」


店主も笑った。しかし、目は優しい。


「この武器は、俺がA級の時に買ったものだ」


店主はケースを撫でた。


「お前さんも、いつか買えるようになるさ」


「はい」


レンは頷いた。


いつか……あの武器を買えるようになりたい。


心の中で、目標を立てた。


「頑張れよ、坊主」


店主が背中を叩いた。


「ありがとうございます」


レンは新しい短剣を腰に下げて、店を出た。


午後になり、レンは『セラの錬金工房』へ向かった。


工房は、ギルドから少し離れた静かな通りにあった。木造の小さな建物で、看板には「セラの錬金工房」と書かれている。


扉を開けると、薬草の香りと、わずかな金属の匂いが鼻をついた。


「いらっしゃいませ」


カウンターの奥から、声が聞こえた。


エルフの女性が顔を出す。長い金髪を後ろで束ね、白い実験服のようなものを着ている。年齢は二十代前半に見えるが、エルフなので実際の年齢は分からない。


「レンさんですね。ミラから聞いています。セラと申します」


「はい。よろしくお願いします」


セラは無表情で頷いた。声のトーンも、どこか事務的だ。


「どうぞ、奥へ」


セラに案内されて、工房の奥に入る。


棚には様々な薬瓶や素材が整然と並べられている。机の上には、実験器具と何冊ものノートが置かれていた。


「お茶をどうぞ」


セラがカップを差し出す。


「ありがとうございます」


二人は向かい合って座った。


「ミラから聞きました。有望な新人冒険者だと」


セラの目が、レンを観察するように見つめる。


「まだF級ですが……頑張っています」


「F級で、ホブゴブリンを倒したそうですね」


「はい。パーティメンバーのおかげですが」


「謙遜ですか。それとも本当に実力不足?」


セラの言葉は、どこか素っ気ない。


「……実力不足です。短剣が折れて、首に傷を負いました」


「そうですか」


セラは淡々と頷いた。


「それで、どんな素材を持っていますか?」


「今は、ゴブリン、スライム、コボルト、オーク、ラットマン、ウルフ、ホブゴブリンの素材があります」


「ふうん。一般的なものばかりですね」


セラの反応は、明らかに興味を失っている。


「もっと珍しい素材……例えば、ドラゴン系やアンデッド系、魔獣系の素材があれば、面白い魔道具が作れるのですが」


「そうなんですか」


「ええ。ただ、そういう素材は、A級以上の冒険者でないと手に入りませんから」


セラは冷淡に言い切った。


沈黙が流れる。


レンは、居心地の悪さを感じた。セラの視線が、どこか品定めするように冷ややかだ。


「あの……せっかくなので、お茶いただきますね」


レンはカップを持ち上げようとした。


その瞬間、首の傷が一瞬痛んだ。


「っ」


手が震え、カップが傾く。レンは慌ててカップを戻したが、テーブルに少し零れてしまった。


「すみません!」


レンは慌ててカバンからタオルを取り出そうとした。


しかし、カバンの口が大きく開いてしまい、中身が床に落ちた。


ノートが、開いたまま床に転がる。


「あ……」


レンが拾おうとした瞬間、セラの視線がノートに向いた。


「これは……」


セラがノートを拾い上げた。


開かれたページには、スキルツリーの詳細な図が描かれていた。


「モンスターのスキル……のようですが……?」


セラの目が細められた。


「あ、それは……」


レンが言葉を探す。


セラは無言でページをめくった。


「ゴブリン系統、スライム系統、コボルト系統……」


セラの目が、徐々に鋭くなる。


「レンさん。これ、どういう意味ですか?」


「それは……研究用のメモで……」


「研究?」


セラがさらにページをめくる。


「『獲得スキル一覧』……『素早さLv.1』『剛力Lv.1』」


セラの視線がレンに向いた。


「『獲得スキル』とは何ですか? まさか……」


セラは息を呑んだ。


「レンさん。あなた、モンスターのスキルを……獲得している?」


「いえ、その……」


レンは言葉に詰まった。


「では、どうしてこんな詳細な記録が?」


セラがノートを指差した。


「『今日の成果:ホブゴブリン系統Lv.1獲得』と書いてありますが」


「それは……」


「しかも、『光の樹形図が現れた』とも書いてあります」


セラの目が、完全にレンを捉えていた。


「偶然見たとか、そういう話ではありませんね」


レンは観念した。


「……はい」


「本当のことを教えてください」


セラの声は事務的だが、目には好奇心が宿り始めている。


「僕、倒したモンスターのスキルを獲得できるんです」


「獲得? どういうことですか?」


「モンスターを倒すと、頭の中に光の樹形図のようなものが現れて、スキルを得られるんです」


セラは息を呑んだ。


「本当ですか?」


「はい」


「証明できますか?」


レンは少し考えた。


「証明はできますが……その前に、これから見聞きすることを秘密にすることを約束してもらえませんか?」


レンの声は静かだが、強い意志が込められていた。


「秘密に……?」


「はい。このスキルは……かなり特殊で、目立ちたくないんです。もし広まったら……悪用されるかもしれない。実験台にされるかもしれない」


セラは少し考えて、頷いた。


「……分かりました。秘密にします」


「本当に?」


「ええ。研究者として、約束します」


セラは右手を胸に当てた。


「あなたの秘密は、私が守ります。誰にも言いません。絶対に」


目には、真摯な光があった。


「それと……」


セラは少し恥ずかしそうに言った。


「もし、ミラに聞かれたら……どう答えればいいですか?」


「え?」


「私、嘘が下手なんです。ミラは鋭いから、何か隠してるってすぐバレそうで……」


セラは困った表情を浮かべた。


「それなら……」


セラが立ち上がり、棚から小さな紙片を取り出した。


「魔法契約を結びましょう。これなら、物理的に秘密を話せなくなります」


「魔法契約……?」


「ええ。秘密保持の契約です。契約内容に違反しようとすると、言葉が出なくなります」


セラは紙片に何かを書き始めた。


「『レンのスキルに関する一切の情報を、第三者に口頭、文書、その他あらゆる手段で開示してはならない、ただし知りえている人間に対しては例外として認める』……これでいいですか?」


「はい」


セラは紙片に魔力を込めた。紙片が淡く光る。


「では、お互いに署名を」


二人は紙片に名前を書いた。


紙片が一瞬強く光り、そして灰になって消えた。


「これで完了です。私は物理的に、あなたのスキルについて一部を除いて誰にも話せなくなりました」


セラは微笑んだ。


「ありがとうございます」


レンはほっとした表情を見せた。


「では、証明を」


レンは視線を漂わせた。棚の上に、様々な素材が置かれている。


『嗅覚強化』を起動させた。


様々な匂いが、一気に鼻に飛び込んでくる。薬草の香り、金属の匂い、そして。


「あそこの棚……右から三番目の瓶。あれ、月光草が入っていますね」


レンが指差した。


セラの目が見開かれた。


「……どうして分かるんですか?」


「匂いで分かります」


「月光草は、人間には無臭のはずです」


セラは信じられないという表情を浮かべた。


「でも、僕には分かります。これは、コボルトの『嗅覚強化』です」


「もう一つ」


セラが別の棚を指差した。


「あそこの棚、左から二番目の瓶。何が入っていますか?」


レンは再び『嗅覚強化』を集中させた。


「……ドラゴンルートと、銀花草、それと……夜露の実、ですか?」


セラは息を呑んだ。


「正解です。それは、中級治癒ポーションの材料です」


レンは『嗅覚強化』を解除した。


「今は、普通に戻しました。もう何も感じません」


セラは完全に言葉を失っていた。


「信じられない……本当に、モンスターのスキルを……」


セラの表情が、完全に変わった。


冷淡だった目が、輝き始める。


「信じられない……モンスターのスキルを人間が使える……?」


セラがレンの肩を掴んだ。


「どうやって獲得するんですか!? 発動条件は!? 魔力回路はどうなってるんですか!?」


セラが早口でまくし立てる。


「理論的には不可能なはずです! モンスターと人間では、魔力の構造が根本的に違う! それなのに、あなたは……!」


セラの瞳が爛々と光っている。先ほどまでの冷たい雰囲気は、完全に消えていた。


「どのスキルを獲得してるんですか!? 全部見せてください! ノート、全部!」


タガが完全に外れた。


「待ってください」


レンが笑いながら言った。


「順番に説明しますから」


「あ……すみません」


セラは少し恥ずかしそうに手を離した。


「つい、興奮してしまって……」


「大丈夫ですよ」


レンは微笑んだ。


「……それで」


レンが続けた。


「セラさんに、お願いがあります」


「お願い?」


「このスキルについて、一緒に研究してもらえませんか?」


セラの目が輝いた。


「本当ですか?」


「はい。実は、このスキルのことを専門的に相談できる人がいなくて……一人で考えていたんです」


「専門的に?」


「はい。パーティメンバーには話していますが、戦闘の専門家で……スキルの仕組みや理論については、一緒に考えられなくて」


「そうだったんですね」


セラは頷いた。


「協力させてください。正直、趣味なんです。未知の現象を研究するのは」


「本当ですか? ありがとうございます」


レンはほっとした表情を見せた。


「ただ……その代わり、と言っては何ですが」


「はい?」


「珍しいモンスターの素材を手に入れたら、セラさんに真っ先に持ってきます。そうすれば、魔道具やポーションを優先的に作っていただけませんか?」


セラは少し考えて、頷いた。


「分かりました。それなら、公平な取引ですね」


セラが手を差し出した。


レンは握手をした。


「よろしくお願いします、セラさん」


「こちらこそ」


セラは微笑んだ。目には、興味の光が満ちている。


「あ、そうだ」


セラが立ち上がった。


「その首の包帯……血が滲んでいますよ」


「え?」


レンが首に手を当てると、確かに湿っている。


「さっき、痛んだ時に開いたんでしょうね」


セラは棚から小瓶を取り出した。


「下級治癒ポーション。ミラの紹介と、今回の貴重な体験のお礼に差し上げます」


セラがポーションを手渡した。


「ありがとうございます」


「次からは、きちんとお金をいただきますから」


セラは淡々と言った。


レンはポーションを受け取り、包帯を外して首筋に塗った。


ひんやりとした感覚が広がり、傷口がじんわりと温かくなる。


「これ……すごくいいですね」


「当然です。私が作ったものですから」


セラは満足そうに答えた。


「では、早速ですが……いくつか質問させてください」


セラが自分のノートを開いた。


「スキルを獲得する条件は?」


「モンスターを倒すことです。倒すと、自動的に光の樹形図が現れます」


「必ず現れる?」


「はい。今まで、現れなかったことはありません」


「つまり、倒したモンスターなら必ず樹形図が現れる……」


セラがメモを取りながら呟く。


「複数のモンスターを同時に倒した場合は?」


「それぞれのスキルが、別々に獲得できます」


セラがノートに書き込む。


「スキルのレベルは?」


「最初は全てLv.1です。ただ……まだレベルが上がったことはありません。どうすれば上がるのか、分からないんです」


「なるほど」


セラは考え込んだ。


「もしかしたら……スキルの経験値のようなものが蓄積されているのかもしれません」


「経験値……?」


「ええ。倒したモンスターなら必ず樹形図が現れるということは、何らかの形で経験値が蓄積されている可能性があります」


セラは熱心にメモを取る。


「そして、蓄積されたスキル経験値が上限に達した時……それがレベルアップの条件の一つを満たすのではないでしょうか」


「条件の一つ……?」


「はい。おそらく、経験値だけではレベルアップしない。もう一つの条件……それが、スキルの本質を理解することではないかと思います」


セラの表情が明るくなる。


「では、スキルの発動方法は?」


「意識するだけです。『素早さ』と思えば、『素早さ』が発動します」


「複数のスキルを同時に使える?」


「はい。ただ、体力の消耗が激しいです」


セラは熱心に書き込み続ける。


「これは……本当に興味深い。理論的には、人間の魔力回路はモンスターのスキルを処理できないはずなんです。でも、あなたは……何か特別な適応機能があるのかもしれない」


「適応機能?」


「ええ。あなたの魔力回路が、モンスターのスキルを自動的に変換している可能性があります。それが『スキルツリー』という形で視覚化されているのかもしれません」


セラは顔全体が生き生きとしながら説明する。


「スキルを使う時、どんな感覚がありますか?」セラがペンを構えた。


「感覚……?」


「魔力の流れとか、体の変化とか」


「『素早さ』を使う時は、足に力が集まる感じがします」レンは自分の足を見下ろした。「『剛力』の時は、腕に……」


「なるほど」セラは素早くメモを取る。「スキルによって、魔力が集中する場所が違うんですね」


「言われてみれば、そうですね」


「では、スキルを使う直前、頭の中でどんなイメージをしていますか?」


「イメージ……?」


「はい。例えば、『素早さ』を使う時、ただ『素早く動きたい』と思うだけですか? それとも、もっと具体的に……足の筋肉が強化されるとか、体が軽くなるとか、そういうイメージがありますか?」


レンは目を閉じて、思い出す。


「……言われてみれば、『素早さ』を使う時、足が軽くなるイメージがあります。『剛力』の時は、腕の筋肉が膨らむような……」


「それです!」


セラが興奮した声を上げた。


「スキルの本質を理解しているんです! ただスキル名を唱えるだけじゃなくて、そのスキルが『何をするものか』を理解している!」


「本質……?」


「ええ。さっきの仮説と合わせて考えると……スキルのレベルを上げるには、二つの条件が必要なのかもしれません」


セラの表情が明るくなる。


「一つ目は、スキルの経験値を蓄積すること。二つ目は、そのスキルの本質をより深く理解すること」


「両方が必要……?」


「可能性は高いです。通常、冒険者がスキルを習得する時も、反復練習だけでなく、そのスキルの原理を理解することで上達が早まると言われています」


セラは熱心に説明を続ける。


「あなたの場合、モンスターからスキルを獲得していますが、その本質を理解することで、より効果的に使えるようになるかもしれません」


「本質を理解する……」


レンはノートにメモを取った。


「試してみます」


「ええ。そして、結果を報告してください」


セラは満足そうに微笑んだ。


「……そういえば」


レンがノートを見返した。


「僕、『衝撃吸収』というスキルをよく使っているんです。スライムから獲得したスキルで」


「衝撃吸収?」


セラの目が興味深そうに光る。


「はい。攻撃を受けた時に、ダメージを軽減するスキルです」


「それは興味深いですね。どのように発動しているんですか?」


「攻撃を受ける直前に発動させると、衝撃が和らぐ感じがします。でも……どういう仕組みで効果が出ているのか、よく分かっていなくて」


セラは少し考えてから、立ち上がった。


「では、実験してみましょう」


セラは棚から、固めの革の手袋を取り出した。


「まず、スキルなしで私の手を受け止めてみてください。軽くですよ」


「はい」


レンは手のひらを前に出した。


セラが手のひらを軽く押す。


「次に、『衝撃吸収』を使いながら受け止めてください」


レンは『衝撃吸収』を発動させた。


セラが再び手のひらを押す。


「……何か違いがありますか?」


「はい。スキルを使うと、手のひらだけじゃなくて、腕全体で力を受け止めている感じがします」


「腕全体で……?」


セラがメモを取る。


「受け止めた時、体のどの部分に力を入れていますか?」


レンは意識を集中させた。


「……手のひらと、前腕の筋肉……それと、肩にも力が入っています」


「なるほど。体全体で衝撃を分散させているんですね」


セラが頷く。


「では、スライムが衝撃を受けた時のことを思い出してください。スライムはどうやって攻撃を受け止めていましたか?」


レンは目を閉じて、戦闘を思い出す。


「スライムは……体全体がぷるぷると震えて、衝撃を吸収していました。体の一部だけじゃなくて、全体で……」


レンの目が見開かれた。


「そうか……スライムは体全体が柔軟だから、どこで攻撃を受けても全身に衝撃を分散させられる」


「そうです!」


セラが興奮した声を上げた。


「でも、あなたは人間だから、スライムのように全身を柔軟にはできない。だから、無意識に筋肉を使って衝撃を分散させているんです」


「なるほど……」


「では、質問です」


セラが真剣な表情でレンを見つめた。


「今のあなたは、攻撃を受けた時に自分が攻撃を受けた時と、スライムが攻撃を受けた時の差異を理解していますか?」


レンは少し考えた。


「スライムは体全体が柔らかいから、自然に衝撃が分散される。でも、僕は人間だから……意識的に筋肉を使って分散させる必要がある」


「その通りです」


セラが頷く。


「では、もう一度実験してみましょう。今度は、より意識的に体全体で衝撃を受け止めてください」


レンは『衝撃吸収』を発動させた。


今度は、手のひら、前腕、上腕、肩、さらには腰まで、体全体を意識する。


セラが手のひらを押す。


「……!」


レンは驚きの声を上げた。


明らかに、さっきより衝撃が少ない。体全体で受け止めることで、力が自然に流れていく感覚があった。


「どうですか?」


「全然違います。さっきまでは手と腕だけで受け止めていたけど、今は体全体で受け流している感じがします」


「それです!」


セラが満面の笑みを浮かべた。


「スキルの本質を理解し始めています。『衝撃吸収』は、ただ攻撃を受け止めるだけじゃない。衝撃を体全体に分散させて、無力化するスキルなんです」


レンは目を閉じて、さらに集中した。


スライムの体の動きを思い出す。攻撃を受けた瞬間、体全体が波打つように震える。衝撃が一点に集中せず、全体に広がっていく。


人間の体でそれを再現するには……筋肉の緊張と弛緩を使って、衝撃を伝達させていく。


「もう一度、お願いします」


レンが言った。


「分かりました。今度は少し強めにいきますよ」


セラが構える。


レンは『衝撃吸収』を発動させた。


今度は、スライムの体の動きをイメージする。手のひらで受けた衝撃が、前腕を通り、上腕、肩、背中、腰へと流れていく。


セラの手が、レンの手のひらを押した。


「……すごい」


レンは驚いた。


衝撃がほとんど感じられない。体全体が自然に力を逃がしている。


その瞬間だった。


頭の中で、光が弾けた。


視界の端に、光の樹形図が浮かび上がる。


『衝撃吸収』の文字が光り、そして変化した。


【衝撃吸収 Lv.1 → Lv.2】


【耐久への効果:+1 → +3】


レンは息を呑んだ。


「どうしました?」


セラが心配そうに尋ねる。


「スキルが……レベルアップしました」


「本当ですか!?」


セラの目が輝いた。


「はい。『衝撃吸収』がLv.2になりました。耐久への効果も、+1から+3に増えました」


「すごい……仮説が正しかった……」


セラは興奮した様子でノートに書き込む。


「スキルの本質を理解することで、レベルアップする。そして、ステータスへの効果も上昇する……」


セラが顔を上げた。


「他のスキルも試してみましょう!」


レンは頷いた。


ノートを開き、獲得したスキル一覧を確認する。


「では、『素早さ』から……」


レンは『素早さ』を発動させた。


足が軽くなる感覚。でも、なぜ軽くなるのか?


筋肉が強化されているのか? 神経伝達が速くなっているのか? それとも……


レンは集中した。


足の動きを意識する。筋肉の動き、関節の動き、体重移動……


しかし、何も起こらなかった。


「……ダメですね」


レンは首を振った。


「次は『剛力』を」


『剛力』を発動させる。


腕に力が集まる感覚。筋肉が膨らむイメージ。


でも、それだけだ。本質が見えてこない。


何も変化は起こらなかった。


「『嗅覚強化』は?」


鼻に意識を集中させる。匂いを感じる器官が敏感になっている……?


しかし、やはり変化はない。


レンは次々とスキルを試したが、どれもレベルアップしなかった。


「……どうしてでしょう」


レンが首を傾げた。


「おそらく、経験値が足りないんだと思います」


セラが分析する。


「『衝撃吸収』は、あなたが頻繁に使っているスキルですよね?」


「はい。戦闘でよく使っています」


「それです。『衝撃吸収』を使う使わないで命に直結します。他のスキルと比べて経験値が多く蓄積されていた。だから、本質を理解した瞬間にレベルアップした」


セラがノートを指差す。


「でも、他のスキルはまだ経験値が足りない。だから、本質を理解しても、レベルアップの条件を満たせなかったんです」


「なるほど……」


レンは納得した。


「つまり、スキルのレベルアップには、本当に二つの条件が必要なんですね」


「ええ。経験値の蓄積と、本質の理解。両方が揃った時、初めてレベルアップする」


セラは満足そうに微笑んだ。


「これは大発見ですよ、レンさん」


「セラさんのおかげです」


レンも笑顔を返した。


「では、今の実験結果をまとめましょう」


セラがノートを開く。


「『衝撃吸収』の本質:衝撃を一点で受け止めるのではなく、体全体に分散させて無力化する」


「レベルアップの条件:①経験値の蓄積、②本質の理解」


「効果の変化:耐久+1→+3。つまり、レベルアップによって効果が3倍になった」


セラがペンを走らせる。


「これを他のスキルにも応用すれば……」


「はい。全てのスキルをレベルアップさせられるかもしれません」


レンは興奮した声で言った。


「ただ、時間はかかりますね。経験値を蓄積するには、そのスキルを実戦で使い続ける必要がある」


「でも、方向性は見えました」


セラが頷く。


「これから、一つずつスキルを深く理解していけばいいんです」


「はい」


レンはノートに新しいページを開いた。


【スキルレベルアップの条件】


1. 経験値の蓄積(スキルを実戦で使い続ける)

2. 本質の理解(そのスキルがどのように機能するかを深く理解する)


【衝撃吸収 Lv.2の発見】

- 本質:衝撃を一点で受けず、体全体に分散させる

- スライムの体の動きを人間の筋肉で再現

- 手のひら→前腕→上腕→肩→背中→腰へと衝撃を流す

- 効果:耐久+1→+3(3倍に増加)


【今後の課題】

- 他のスキルの経験値を蓄積する

- 各スキルの本質を理解する


二人は、さらに議論を続けた。


「他に試していないことはありますか?」


セラが尋ねる。


「そうですね……スキルの組み合わせは色々試していますが、同じ系統のスキルを組み合わせたらどうなるか、とか……」


「同じ系統?」


「はい。例えば、ゴブリン系統のスキルだけを使ったらどうなるか、とか」


「なるほど。相乗効果がある可能性もありますね」


セラがメモを取る。


「あとは……異なる系統のスキルを組み合わせて、新しいスキルを作れないか、とか」


「新しいスキル?」


「はい。例えば、火属性のスキルと水属性のスキルを組み合わせたら、蒸気とか温度操作とか……そういう新しいスキルができないかな、と」


セラの目が見開かれた。


「それは……革命的ですね。もしそれが可能なら、スキルの組み合わせは無限大です」


「でも、まだ試せていません。火属性や水属性のモンスターを倒していないので……」


「なるほど。では、今後の目標ですね」


セラは集中してメモを取り続ける。


気づけば、窓の外が茜色に染まっていた。


「もうこんな時間……」


レンが窓を見て驚く。


「本当ですね」


セラも時計を確認した。


「ありがとうございました、セラさん」


レンが立ち上がる。


「いえ、こちらこそ。また来てくださいね」


セラは温かく微笑んだ。


「珍しい素材、待っていますから」


「はい。頑張ります」


「あ、それと」


レンが付け加えた。


「いずれ、パーティメンバーも紹介したいと思っています」


「そうですか。楽しみにしています」


セラは嬉しそうに答えた。


工房を出る時、セラが最後に言った。


「レンさん。あなたのスキル、本当に興味深い。一緒に研究できることを、心から楽しみにしています」


言葉には、温かみが満ちていた。


宿に戻る。


部屋でノートを広げた。


【今日の重要な発見】


ミスリル製武器:短剣が金貨10枚、戦斧が金貨15枚(銀貨換算で1000枚と1500枚)

いつか買えるようになりたい。それが目標の一つ


武器屋の店主は元A級冒険者

「武器の手入れは大事だ。また来い」

研ぎ直しもしてくれる。定期的に通おう


【セラとの共同研究・大発見】


魔法契約で秘密保持を確約

これでミラに聞かれても、物理的に話せない


スキルレベルアップの条件(確定):

1. 経験値の蓄積(スキルを実戦で使い続ける)

2. 本質の理解(そのスキルがどのように機能するかを深く理解する)


【衝撃吸収 Lv.1→Lv.2】

本質:衝撃を一点で受けず、体全体に分散させる

- スライムは体全体が柔軟で自然に衝撃を分散

- 人間は筋肉を使って意識的に衝撃を流す

- 手のひら→前腕→上腕→肩→背中→腰へと流れを作る


効果:耐久+1→+3(元の効果が3倍に増加)

※さらに+3されるのではなく、元の増加量が+3に変化


【他のスキルの実験結果】

『素早さ』『剛力』『嗅覚強化』などを試したが、レベルアップせず

理由:経験値が不足している

→よく使うスキルから順にレベルアップしていく


【セラの分析】

- 人間の魔力回路が、モンスターのスキルを自動変換している可能性

- それが『スキルツリー』として視覚化されている

- スキル使用時の感覚:部位ごとに魔力が集中

『素早さ』→足に力、足が軽くなるイメージ

『剛力』→腕に力、筋肉が膨らむイメージ

『衝撃吸収』→体全体で衝撃を分散


【今後の課題】

1. 各スキルの本質を理解する

- なぜそのスキルが機能するのか

- どういう仕組みで効果が出るのか

- 元のモンスターはどう使っているか

2. 実戦でスキルを使い、経験値を蓄積する

3. 同系統スキルの相乗効果を試す

4. 異属性のスキルで新スキルを作る


【セラとの契約】

- 珍しい素材を真っ先にセラに持っていく

- セラが優先的に魔道具やポーションを作ってくれる

- スキルについて一緒に研究する

- 新スキル獲得時は報告


【セラの性格】

第三者の前:クール、事務的、無表情

二人きりの時:温かい、興味深々、研究熱心

嘘が下手(重要)

信頼できる研究パートナー


【セラの下級治癒ポーション】

効果が高い

今回はミラの紹介と研究協力のお礼で無料

次からは銀貨3枚


【明日の予定】

エリナと再び依頼を受ける

首の傷は完治した

新しい武器で、どれくらい戦えるか試してみたい


そして……『衝撃吸収』がレベルアップした

他のスキルも、経験値を蓄積しながら本質を理解していこう


ノートを閉じて、窓の外を見た。


夜が更けていく。


明日からまた、依頼が始まる。


新しい武器。新しい協力者。


そして、新しい発見。


スキルのレベルアップ。


道筋が見えてきた。


レンは、静かに眠りについた。


---


【第4話終了時点】


筋力:33 (E)

敏捷:36 (E)

耐久:28→30 (E)【衝撃吸収のレベルアップにより+3】

魔力:52 (D-)

知力:68 (D)

総合戦闘力:217→219(全ステータス合計値)


討伐数:合計29体


保有スキル数:21個(固有スキル含む)

【レベルアップしたスキル】

- 衝撃吸収 Lv.2(耐久+3)


依頼達成数:6件(E級昇格まで残り4件)


パーティメンバー:エリナ・クロフォード(剣士・パートナー)


【新たな協力者】

- セラ(エルフの錬金術師):スキルの秘密を共有。研究パートナー


【新装備】

- 魔法付与された鋼製短剣:軽量化の魔法付与


【新たな目標】

- ミスリル製武器の購入(短剣:金貨10枚、戦斧:金貨15枚)

- 全スキルのレベルアップ


【重要な発見】

- スキルレベルアップの条件が判明

- 実戦での経験値蓄積と本質の理解が必要

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