第2話:初めての共闘
レンがギルドを訪れたのは、冒険者登録から四日目の朝だった。
「おはよう、レン」
ミラが笑顔で迎えてくれる。
「今日も依頼? 順調ね」
「はい。色々なモンスターと戦ってみたいので」
レンは既に、ゴブリン8体、スライム4体、コボルト3体を討伐していた。合計15体。F級の新人としては異例のペースだ。
ノートには、獲得したスキルとその効果が几帳面に記録されている。ページをめくりながら、昨日までの成果を確認する。
【獲得スキル一覧】
・固有:スキルツリー(Lv表記なし)
・ゴブリン系:棍棒術Lv.1、身体強化Lv.1、夜目Lv.1
・スライム系:衝撃吸収Lv.1、形態変化Lv.1
・コボルト系:嗅覚強化Lv.1、素早さLv.1、爪攻撃Lv.1
「あ、そうそう。レン」
ミラが思い出したように言った。
「この前話したパーティのこと、覚えてる? ちょうど良い子がいるから、今日紹介したいんだけど」
「パーティ、ですか」
戸惑う。確かに、一人で活動するのは限界がある。より強いモンスターと戦うには、仲間が必要だろう。しかし——仲間を作るのは、得意ではない。
「ええ。その子も事情があってね。前のパーティが解散して、新しい仲間を探してるの。あなたと同じくらいの年齢だし、きっと良いパートナーになれると思うわ」
「分かりました。お願いします」
ミラは奥の相談室へと案内してくれた。
相談室の扉を開けると、窓際に一人の少女が立っていた。
腰まで届く黒髪を、高い位置で一つに結んでいる。身軽そうな剣士装備。使い込まれた革鎧。腰に下げた細身の剣は、柄の革が擦り切れるほど使い込まれている。
本物の剣士だ——直感する。
それ以上に圧倒されたのは、彼女の立ち姿だった。
剣の柄に軽く手を添え、重心は完璧に中央。一見リラックスしているように見えて、いつでも動ける構え。常に臨戦態勢を解かない——獣のような緊張感がある。
その鋭い視線が、レンを捉える。値踏みするような目。細身の体格、頼りない装備、おどおどした態度——。
一瞬で全てを見抜かれたような気がした。
そして、露骨に眉間に皺が寄る。
「……この子?」
第一声から、失望が滲んでいた。
「本気で言ってるの、ミラさん。こんな——」
少女は言葉を切り、レンを上から下まで見た。
「剣を握ったことすらなさそうな子と組めって?」
容赦のない言葉。何も言い返せない。確かに自分は、戦士としては頼りなく見えるだろう。
「エリナ、失礼よ。まずは自己紹介からでしょう」
ミラの声に厳しさが混じる。エリナと呼ばれた少女はため息をついてから、形だけの自己紹介をした。
「エリナ・クロフォード。剣士。冒険者歴一年。以上」
あまりにも素っ気ない態度。居心地が悪くなったが、ミラが促すように視線を送ってくる。
「レン・アルトリアです。冒険者歴は……四日で、戦闘スタイルは色々です。よろしくお願いします」
「四日!?」
エリナが驚いたように声を上げた。
「ちょっと待って。登録してまだ四日なの? 私と組ませる気?」
「でも、レンはもう十五体以上のモンスターを討伐してるのよ」
ミラがフォローするが、エリナは首を横に振った。
「数の問題じゃない。剣を握る手が震えてる。構えも知らない。そんな状態で何体倒そうと——」
エリナは剣の柄を軽く叩いた。
「命を賭ける覚悟が、まだ見えない」
その言葉に、レンは思わず顔を上げた。
「僕は……覚悟を持って戦っています」
声ははっきりとしていた。エリナが驚いたような顔でレンを見る。
「へえ。言い返すんだ」
「いえ、その……でも、僕なりに必死で戦ってきました。確かに経験は浅いですが、せっかくミラさんが用意してくれた機会だから。ちゃんとやってみたいと思います」
エリナはしばらくレンを見つめていた。やがて、小さくため息をついた。
「……分かったわよ。一回だけ。でも、足引っ張ったら容赦しないから」
「はい」
こうして、レンとエリナは初めての共同依頼を受けることになった。
依頼内容は『森のオーク討伐』。ミラが選んだのは、二人の実力を測るのに適度な難易度の依頼だった。
「明日の朝、ギルド前に集合。遅刻しないでね」
エリナは短く言って、相談室を出ていった。
レンは一人残されて、大きく息を吐いた。
「大丈夫よ、レン」
ミラが優しく声をかけてくれた。
「エリナは口は悪いけど、実力はあるわ。それに……」
ミラの表情が翳った。
「前のパーティで、色々あったみたいなの。パーティメンバーが一人、ダンジョンで……」
ミラは言葉を濁した。
「だから、他人に対して壁を作ってるのよ。新しい仲間を失うのが、怖いんだと思う」
「そうなんですか……」
レンは胸が痛んだ。だから、あんなに厳しい目で見ていたのか。
「でも、きっと分かり合えるわ。レンも真面目だし、エリナも本当は優しい子だから」
ミラは少し考えてから言った。
「あ、それと——明日は少し早めに行った方がいいかもしれないわね。エリナ、時間に厳しい子だから」
「分かりました。ありがとうございます」
その夜、レンは自室でノートに書き込んでいた。
【明日:初めての共同依頼】
パートナー:エリナ・クロフォード(剣士・一年の経験)
対象:オーク(大型・力が強い)
【戦術案】
・彼女の戦闘スタイルを観察し、最適な支援方法を見つける
・『嗅覚強化』で位置把握
・『衝撃吸収』と『身体強化』で防御を固め、必要なら引きつけ役に
【注意点】
彼女は前のパーティで仲間を失っている
だから警戒心が強い——当然だ
信頼してもらえるよう、しっかり戦おう
ノートを閉じて、深呼吸する。
初めての仲間。うまくやっていけるだろうか。不安はある。しかし、一人では限界がある。より強いモンスターと戦い、より多くのスキルを獲得するには、仲間が必要だ。
それに——。
「一人じゃない、というのも……悪くないかもしれない」
呟く。
翌朝が、楽しみでもあり、不安でもあった。
翌朝。
朝霧が立ち込める森の入り口。
レンは少し離れた場所で待っていた。空はまだ薄暗く、鳥のさえずりだけが静寂を破っている。集合時刻の十五分前。ミラのアドバイス通り、早めに来た。
革袋からノートを取り出し、昨夜まとめた情報を確認する。
【オークの特徴】
大型の人型モンスター。体高約2メートル、筋力が非常に高い。
武器は棍棒や斧が多い。
推定保有スキル:剛力、突進、戦吼
文字を追いながら、戦術を頭の中で組み立てていく。エリナは前衛。速さと剣技に優れている。ならば自分は支援に徹するべきだ。
足音が聞こえた。
振り返ると、エリナが森の入り口に近づいてきた。朝日を背に受けて、剣の柄に手を添えている。その姿は、どこか絵画のように静謐だった。
「おはようございます」
レンが声をかける。
「……早いじゃない」
エリナの声には、わずかに驚きが混じっていた。
「ミラさんが、少し早めに来た方がいいって」
「ふーん。素直なのね」
エリナは短く答えて、森へ歩き出した。慌てて後を追う。
「あんた、どういう戦い方をするつもり?」
歩きながら、エリナが尋ねた。値踏みするような口調だ。
「えっと……エリナさんが前衛で、僕が支援に回ろうかと」
「支援って、具体的には?」
「オークの位置を把握して、エリナさんに伝えます。それと、もし攻撃を受けそうになったら、僕が引きつけます」
エリナが足を止めた。
「あんた、引きつけるって言ったわよね」
「はい」
「四日前まで一般人だった子が?」
その言葉に、言葉に詰まった。確かに、経験はほとんどない。しかし——。
「でも、色々なスキルが使えるので、ある程度は耐えられると思います」
「色々なスキル?」
エリナの目が細められた。
「はい。防御系のスキルとか、探知系のスキルとか……」
「四日でそんなに?」
疑わしそうな声。言葉を濁す。
「その……実戦で、色々と身につけまして」
「ふーん」
エリナはしばらく考え込んでいた。
「……分かったわ。とりあえず、あんたの作戦でやってみましょう」
「え?」
「ただし」
エリナが鋭い目でレンを見た。
「無理だと判断したら、私のやり方に切り替える。文句は言わせないわよ」
「はい。それで構いません」
二人は森を進んだ。
空気が少し硬い。まだ互いを信用していない。当然だ。初対面で、しかもレンの実力は未知数。エリナが警戒するのは当たり前だった。
森に入って三十分。
『嗅覚強化』を起動させ、周囲の匂いを探る。獣臭。土の匂い。木々の匂い。そして——。
「……います」
囁く。
「前方、約五十メートル。大型の獣臭」
エリナが目を見開いた。
「分かるの?」
「はい。匂いで追えます」
「へえ……便利ね」
エリナは短く答えて、剣を抜いた。
二人は音を殺して、前方へ進む。茂みの向こうに、大きな影が見えた。
オークだ。
体高は二メートルを超え、筋肉質の身体は圧倒的な存在感を放っている。手には太い棍棒。牙を剥き出しにして、何かを食べている。
「一体ね」
エリナが囁いた。
「あんたの作戦でやるわよ。私が前に出る。あんたは——」
「側面から支援します。もし僕に気づいたら、引きつけます」
「分かった。それと——」
エリナが真剣な目でレンを見た。
「魔石や素材は、あんたが全部回収して。私が討伐しても、戦利品はパーティ全体のものだから」
「え? でも——」
「後で分配すればいい。戦闘中にいちいち確認してたら危ないでしょう」
「分かりました」
エリナが構えた。その目は、既に戦闘モードに入っている。
「行くわよ」
エリナが駆け出した。
その速さに、目を見張る。地面を蹴り、一瞬でオークとの距離を詰める。
オークが振り返る。しかし、遅い。
エリナの剣が閃いた。
銀色の軌跡——閃光のような速さで、オークの腕を斬りつける。緑色の血が飛び散る。
二撃目——オークが反応する前に、脇腹を切り裂く。肉を裂く音。オークが苦悶の声を上げる。
三撃目——首を狙った一撃。しかし——
ガキィン!
オークが棍棒で防いだ。金属音が森に響く。太い腕が震えている。エリナの一撃の重さを受け止めきれていない。
しかし、オークは倒れなかった。
「っ……硬いわね」
エリナはすぐに後方へ跳んだ。オークの反撃——横薙ぎの一撃が、さっきまで彼女がいた場所を薙ぎ払う。風圧でレンの髪が揺れた。
間合いを取り、エリナは構え直す。
オークが咆哮を上げた。怒りに満ちた声。
このままでは——エリナが押し切られる。
オークの注意を引かなければ。
『素早さ』を起動させた。全身が軽くなる。
地面を蹴り、側面へ回り込む。オークの視界の端に映るように——。
オークの視線が、レンを捉えた。
「来る……!」
オークがレンに向かって突進してくる。
地面が揺れる。巨体が迫る。速い——ゴブリンとは比べものにならない。
しかし、観察しろ。動きを見ろ。
オークの突進は直線的だ。小回りは利かない。避けるのではなく——受け流す。
『衝撃吸収』と『身体強化』を同時に起動させた。
その瞬間——。
何かが、変わった。
二つのスキルが重なり合う感覚。単純に「二つ同時に使っている」という以上の何か。互いが互いを高め合っているような——。
全身に力が満ちる。筋肉が引き締まり、皮膚が硬くなる感覚。そして、衝撃を吸収する力も、より強くなった気がする。
「これは……!」
考える時間はない。
来い——!
オークが棍棒を振り下ろした。
短剣で受け止めた——いや、受け流した。完全には受けられない。しかし、軌道をずらすことはできる。
ガキィン!
衝撃が腕を走る。骨が軋む。
しかし——痛みが、予想よりずっと少ない。
「今です!」
叫ぶ。
エリナの足が地を蹴った。レンの視界から消える——次の瞬間、オークの背に銀閃が走る。
「ガァァッ!」
オークが苦悶の声を上げる。しかし、まだ倒れない。
オークがエリナに向かって棍棒を横薙ぎに振るった。エリナは紙一重でかわし、さらに斬りつける。
レンも動いた。オークの足元を狙い、短剣で腱を斬る。
オークがバランスを崩した。
「今度こそ!」
エリナの剣が、オークの首筋を貫いた。
オークが倒れる。重い音を立てて、地面に崩れ落ちた。死体が残る。
「はぁ……はぁ……」
荒い息をつく。全身が痛い。腕が痺れている。しかし——勝った。
オークの死体に近づき、腹部を裂く。魔石が——あった。
「運が良い……」
淡く光る青い結晶を革袋にしまう。
「討伐の証明は——」
レンが耳を切り取ろうとすると、エリナが声をかけてきた。
「待って。オークなら、牙の方が価値があるわよ」
「牙、ですか?」
「ええ。オークの牙は武器や防具の素材になる。耳より買取価格が高いの」
エリナが短剣を取り出し、オークの牙を抜き取る手際を見せてくれた。
「こうやって、根元から——ほら」
「ありがとうございます」
教えてもらった通りに、もう一本の牙を抜き取る。確かに、これなら価値がありそうだ。
「別に……」
エリナが顔を背ける。
「パーティメンバーなら、これくらい教えるのは当然だから。勘違いしないでよね」
その言葉に、少しだけ嬉しくなった。
そして——オークの死体から、奇妙な光が立ち上った。
「……また」
呟く。
淡い青白い光。複雑に枝分かれした樹形図のような構造。それがレンの胸に吸い込まれていく。
エリナは気づいていない様子だ——やはり、この現象は自分にしか見えていないのか。
頭の中に、新しい情報が流れ込む。『剛力』。『突進』。『戦吼』。
温かい光が全身を包む。筋肉が膨張するような感覚。力が、満ちていく。
「すごい……さっきの『衝撃吸収』、思ったより効果があって——それにオークの『剛力』も——」
興奮して口走る。
そして、はっとした。
しまった。
「……え?」
エリナの声が、冷たくなった。
「今、なんて言った?」
凍りつく。興奮して、つい——。
「『衝撃吸収』、それと『剛力』って……」
エリナがゆっくりと近づいてくる。その目は、鋭く研ぎ澄まされていた。
「あんた、今『衝撃吸収』って言ったわよね。それに『オークの剛力』って」
「あ、いえ……その……」
「説明して」
エリナの声に有無を言わさぬ強さがあった。
「あんたが使った防御スキル。あれ、普通じゃなかった。まるでスライムみたいに——」
エリナが一歩近づく。
「まさか、本当にスライムのスキルなの?」
観念する。
隠し通せない。そして、これからパーティを組むなら——いや、嘘をついたまま一緒に戦うのは危険だ。連携が崩れる。
でも——この能力を明かして、信じてもらえるだろうか。危険視されないだろうか。
「あんた」
エリナが剣の柄に手を添えた。威圧ではない。警戒だ。
「何か、隠してるわね」
心臓が早鐘を打つ。口の中が乾く。
選択を迫られている。嘘をつくか、真実を話すか。
レンは深呼吸した。
「……はい」
静かに答える。
「僕は、モンスターを倒すと、そのモンスターのスキルを獲得できるんです」
沈黙。
エリナが、信じられないという顔で見つめている。
「は?」
「モンスターを倒すと、光の樹形図みたいなものが現れて、それが僕の中に入ってくるんです。そうすると、そのモンスターが持っていたスキルが使えるようになって——」
「待って」
エリナが片手を頭に当て、もう片方の手を突き出した。心底訳が分からないという表情だ。
「ちょっと待って。意味が分からない。モンスターのスキルを獲得? そんなこと、聞いたことないんだけど」
「僕も……最初は驚きました。でも、本当なんです」
ギルドカードを取り出し、魔力を込める。
【レン・アルトリア / F級】
筋力:29 → 31 (E)
敏捷:36 (E)
耐久:28 (E)
魔力:52 (D-)
知力:64 (D)
保有スキル:スキルツリー、棍棒術Lv.1、身体強化Lv.1、夜目Lv.1、衝撃吸収Lv.1、形態変化Lv.1、嗅覚強化Lv.1、素早さLv.1、爪攻撃Lv.1、剛力Lv.1、突進Lv.1、戦吼Lv.1
エリナがカードを覗き込む。
そして、絶句した。
「スキルが……十個以上? しかも、棍棒術、衝撃吸収、嗅覚強化……」
エリナは顔を上げた。
「全部、モンスターが持ってるスキルじゃない」
「はい。ゴブリンから『棍棒術』と『身体強化』と『夜目』を。スライムから『衝撃吸収』と『形態変化』を。コボルトから『嗅覚強化』と『素早さ』と『爪攻撃』を。そして今、オークから『剛力』と『突進』と『戦吼』を獲得しました」
エリナは数歩後ずさった。
「信じられない……いや、信じたくない」
「僕も、正直よく分かっていないんです」
正直に答える。
「ギルドカードには『スキルツリー』という固有スキルが表示されているんですが、それが何なのかも分からなくて。ミラさんに聞かれた時も、『自分でもよく分かっていない』としか答えられませんでした」
ノートを取り出す。
「だから、こうやって記録して、研究しているんです。どんなモンスターからどんなスキルが獲得できるのか。どういう条件でスキルが強くなるのか。それを知りたくて」
エリナはしばらく黙っていた。
やがて、彼女は深く息を吐いた。
「……信じろって言われても、無理がある」
「やっぱり、そうですよね」
肩を落とす。
「でも——」
エリナが顔を上げた。
「目の前で見た。あんたの防御、明らかに普通じゃなかった。それに、このギルドカード……偽造は不可能」
エリナは腕を組んだ。
「証拠を見せて。もう一度、そのスキルを使ってみて」
「はい」
『棍棒術』を起動させ、落ちていたオークの棍棒を拾い上げる。
「これが『棍棒術』です。ゴブリンのスキルで——」
体が自然に動く。構え、振り下ろし——棍棒が風を切る。
エリナが目を見開いた。
「……本当に。さっきまで棍棒なんて持ったこともなさそうだったのに。今は、まるで何年も訓練したみたいに」
「それだけじゃありません」
『身体強化』を起動させ、オークの死体を持ち上げようとする。
ずしり、と重い——しかし、持ち上がる。
「っ……!」
エリナが息を呑んだ。
「オークの死体を……あんたの体格で……!」
「『身体強化』です。筋力が大幅に増します」
棍棒を置き、オークの死体を下ろす。
エリナは数歩後ずさり、剣の柄を握った。
「本当に……モンスターのスキルを」
「あんた、本当に人間なの?」
その言葉に、レンは胸が痛んだ。
「僕も……分からないんです。でも、僕は人間です。ただ、この能力だけが——」
「危険だわ」
エリナが鋭く言った。
「その能力、絶対に他の人には言わないで」
「え?」
「考えてみなさいよ。モンスターのスキルを獲得できるなんて、前代未聞の能力。もし知られたら、色々な組織が放っておかないわ。研究対象にされるか、利用されるか——」
エリナの表情が険しくなった。
「最悪、危険視されて排除される可能性もある」
背筋が寒くなる。
確かに、その通りだ。この能力は異常すぎる。もし悪意を持った人間に知られたら——。
「だから、秘密にしておきなさい。少なくとも、信頼できる人以外には」
「……はい」
「私も——」
エリナは言葉を切った。
「まだあんたのことは分からない。本当に信用できるのか、この目で見極める」
エリナが真剣な目で見つめる。
「でも、それまでは、この秘密は守る。それだけは約束する」
その言葉に、少しだけ安堵する。完全に信頼されたわけではない。でも、秘密を守ってくれる——それだけでも、ありがたかった。
「ありがとうございます」
「礼はいいわ」
エリナは剣を納めて、歩き出した。
「それより、帰りましょう。報酬を受け取らないと」
二人は森を出て、ギルドへ戻った。
受付でミラが笑顔で迎えてくれた。
「お帰りなさい。オーク討伐、お疲れ様」
「無事に終わりました」
魔石と討伐証明を差し出すと、ミラは感心したように頷いた。
「オークの牙ね。良い判断。初めての共同依頼で、オーク討伐。しかも怪我も少ない。良い連携ができたみたいね」
「まあ……」
エリナが答える。
「思ったよりは、使えた」
その言葉に、レンは少し嬉しくなった。最初は完全に拒絶されていたのに。
「それじゃあ、報酬は銀貨15枚と、オークの牙の買取が銀貨10枚。合計で銀貨25枚ね。二人で分けてください」
ミラが報酬を手渡すと、エリナがレンに言った。
「次の依頼、どうする?」
「えっ……次も、一緒に?」
「当たり前でしょう。試用期間って言ったじゃない。もうちょっと、様子を見させてもらうわ」
その言葉に、嬉しくなる。
「はい。よろしくお願いします」
「ただし」
エリナが指を立てた。
「私の邪魔はしないこと。勝手な行動は禁止。それと——」
エリナはレンのノートを指差した。
「そのノート、今度見せてもらうわ。どんなスキルが使えるのか知りたいの。連携の参考にしたいから」
「分かりました。いつでもどうぞ」
エリナは満足そうに頷いた。
「あと、戦闘中に気づいたんだけど——あんた、複数のスキルを同時に使ってたわよね」
「あ、はい。『衝撃吸収』と『身体強化』を同時に」
「効果はどうだった?」
「すごく良かったです。単独で使うより、明らかに効果が高まったような気がして」
「へえ……」
エリナが興味深そうに呟いた。
「もしかしたら、スキルの組み合わせ次第で、色々できるかもしれないわね」
その言葉に、はっとした。
スキルの組み合わせ——。
そうだ。今まで、一つのスキルを単独で使うことしか考えていなかった。しかし、複数のスキルを組み合わせれば——。
「それ、面白いかもしれません!」
目を輝かせる。頭の中で、様々な組み合わせが浮かんでくる。
「例えば——」
「ちょっと待って」
エリナが手を上げた。
「私にも分かるように説明して。どういう組み合わせが考えられるの?」
「あ、はい」
ノートを開き、スキル一覧を見せる。
「例えば、僕が持ってる『素早さ』と『剛力』を組み合わせれば、速くて強い攻撃ができるかもしれません。エリナさんの剣技と合わせれば、もっと効果的な連携が——」
「なるほど」
エリナが頷いた。
「あんたの速度上昇で間合いを詰めて、私が本命の一撃を叩き込む、とか?」
「そうです! それに、『嗅覚強化』と『夜目』を組み合わせれば、暗い場所でも完璧に索敵できます。夜間戦闘や、ダンジョンの深層でも——」
「待って待って」
エリナが苦笑した。
「続きは後でゆっくり聞くわ。今はギルドだから」
「あ、すみません」
慌ててノートをしまう。
エリナはギルドを出ていく。その背中を見送りながら、思った。
初めての仲間。まだ完全に打ち解けたわけではない。エリナは自分のことを見極めようとしている。
だからこそ——しっかり実力を示していかなければ。秘密を守ってもらうためにも、信頼される仲間にならなければ。
「良かったわね、レン」
ミラが微笑んだ。
「エリナ、あんなに前向きな顔するの久しぶりよ。きっと、あなたのこと気に入り始めてるんだわ」
「そう、でしょうか」
「ええ。あの子、前のパーティが解散してから、誰とも組もうとしなかったの。あなたが初めてよ」
ミラの言葉に、胸が温かくなった。
「それと——」
ミラが小さな布袋を差し出してきた。
「今日も頑張ったご褒美。傷薬よ」
「ありがとうございます、ミラさん」
「無理しないでね。明日も来るなら、ちゃんと休むこと」
「はい」
宿に戻る。
部屋に入ると、ベッドに倒れ込みたい衝動に駆られたが——その前に、やるべきことがある。
机に向かい、ノートを広げる。
【今日の成果】
オーク系統Lv.1獲得:剛力、突進、戦吼
【ステータス変化】
筋力:29→31(+2)
【エリナとの連携】
初めてにしては良好。彼女の剣技は正確で速い。
支援役として、タイミングを合わせることが重要。
能力のことを知られた。
最初は警戒されたが、証拠を見せて理解してもらえた。
まだ完全には信用されていない——当然だ。
秘密を守ってもらうためにも、信頼される仲間にならなければ。
【重要な発見:スキルの組み合わせ効果】
『衝撃吸収』と『身体強化』を同時使用
→単独使用時より明らかに効果が高かった
・衝撃吸収の効果が増幅された
・身体強化による筋力増加も、より実感できた
・二つのスキルが互いを高め合っている?
【仮説】
複数のスキルを同時に使用すると、相乗効果が生まれる可能性
ただし、これが全ての組み合わせで起こるのか不明
【エリナとの連携で試したい組み合わせ】
・素早さ+剛力→速くて強い攻撃、エリナの剣技との連携
・嗅覚強化+夜目→暗所での完全索敵、夜間やダンジョンで有効
・突進+剛力→破壊力のある突撃、エリナのフォロー役
・衝撃吸収+形態変化→より柔軟な防御、エリナを守る盾役
【今後の課題】
・様々なスキルの組み合わせを実戦で試す
・どの組み合わせが効果的か検証する
・エリナと相談しながら、最適な連携方法を見つける
・エリナに信頼してもらえるよう、実力を示していく
ノートを閉じて、窓の外を見た。星が輝いている。
「スキルの組み合わせ……」
エリナの何気ない一言が、新しい可能性を開いてくれた。
これまでは、単純にスキルを集めることばかり考えていた。しかし、重要なのは「どう使うか」だ。
一つ一つのスキルは、それぞれ強力だ。しかし、組み合わせることで、さらに強力になる。
そして——エリナとの連携も、組み合わせ次第でもっと良くなる。
まるで、化学反応のように——。
「これは面白いかもしれない」
再びノートを開く。
【スキル組み合わせ理論(仮)】
前提:複数のスキル同時使用で相乗効果?
【分類案】
①相性良:効果が増幅
②相性悪:干渉して効果減少?
③中立:単純に両方発揮
【検証方法】
実戦で様々な組み合わせを試す
エリナに協力してもらい、客観評価を得る
【長期目標】
最適な組み合わせを見つけ、戦闘スタイルを確立
エリナとの連携を深め、信頼される仲間になる
ノートに書き込む手が止まらない。疑問、仮説、実験計画——ページはあっという間に埋まっていく。
窓の外を見ると、月が昇り始めていた。
「もうこんな時間……」
時計を確認する。夜も更けている。
「また夢中になってしまった」
苦笑しながらノートを閉じる。
「明日も早いのに」
ベッドに横になる。体中が痛むが、それ以上に——充実感がある。
今日は、大きな一歩だった。
初めての仲間。エリナは厳しいが、実力がある。そして——秘密を守ってくれる。まだ完全には信用されていないが、それは当然だ。これから、実力を示していけばいい。
瞼が重くなる。意識が遠のいていく。
最後に頭に浮かんだのは——明日、エリナとどんな連携ができるだろうか、という期待だった。
窓の外では、星が静かに輝いていた。
明日も、森へ行こう。もっと色々なモンスターと戦おう。もっとスキルを集めよう。
そして——エリナとの連携も、深めていこう。
スキルの組み合わせも、研究しよう。
信頼してもらえるよう、力を示していこう。
「本当に、面白くなってきた」
レンの冒険は、まだ始まったばかりだった。
新しい仲間。新しい発見。新しい可能性。
全てが、繋がり始めている。
---
**【獲得スキル一覧(第2話終了時点)】**
固有スキル:スキルツリー(レベル表記なし)
ゴブリン系統:
- 棍棒術Lv.1:棍棒系武器の扱いに長ける
- 身体強化Lv.1:筋力と耐久力を底上げする
- 夜目Lv.1:暗所での視力が向上する
スライム系統:
- 衝撃吸収Lv.1:物理攻撃のダメージを軽減する
- 形態変化Lv.1:身体の柔軟性が増す
コボルト系統:
- 嗅覚強化Lv.1:嗅覚が鋭くなり、獲物の位置を把握しやすくなる
- 素早さLv.1:敏捷性が向上する
- 爪攻撃Lv.1:爪を使った攻撃技術を獲得
オーク系統:
- 剛力Lv.1:筋力を大幅に強化する
- 突進Lv.1:短距離を一気に加速して突進する
- 戦吼Lv.1:大声で相手を威嚇し、怯ませる
【成長記録】
筋力:29 → 31 (E) [+2]
敏捷:36 (E)
耐久:28 (E)
魔力:52 (D-)
知力:64 (D)
総合戦闘力:173 → 174 (+2)
討伐数:
- ゴブリン:8体
- スライム:4体
- コボルト:3体
- オーク:1体
- 合計:16体
保有スキル数:12個(固有スキル含む)
依頼達成数:3件(E級昇格まで残り7件)
パーティメンバー:エリナ・クロフォード(剣士・試用期間中)




