ぼくのろけっと
JAXAが最後のH2Aロケット打ち上げを成功させた話題に、日本全国が沸いた。ご多分に漏れず、ぼくもその話題にわくわくした一人だ。
他人の頭脳と労力で成し遂げたその一大プロジェクトに、ぼくは歓喜しながらも、自分がその当事者となる夢を持つせいで、多少の悔しさもあった。
勉強ができるわけではないし、運動もさほど得意ではない。それに、夢を持っているとはいえ、そもそも年齢的に難しいと自分でもわかっている。
できることと言えば、職場と家への往復。そりゃあもちろん、人間働かないと食っていけないのは理解しているけど、始発くらいの時間に出勤し、終電くらいの時間に帰るこの仕事の、いったいなにが重要なのか。
自分の仕事は終わっているのに、他の人間の仕事が終わらない。それを手伝え、同じ会社の仲間だろと言われる。この仕事が終わっていないのは、ぼくのせいではないのに。
ぼくにそういうことを言う上司も、何をやっているのかはわからないけど、みんなが帰るまで忙しそうにしている。誰かが楽をしているわけではない。だけれども、こんな理不尽に付き合っていけるほど、ぼくは強くはない。
今日も、宇宙の動画をネットで観て、日々のストレスを癒やしていく。
ふと気付いた。ISSで働く宇宙飛行士や、彼らを支える管制塔。ロケットを作る技術者。それを管理する人々。彼らは、自分の個を捨て、人類のために、チームのために頑張っているのではないか。
ぼくのように、たかだか地上の仕事に文句を言っている場合ではないのではないか。
それに気付いたぼくは、会社の屋上に行き、星空を眺めた。周囲が明るくて、星なんて見えない。だけど、この邪悪な灯りの向こう側には、ちゃんと星空が存在しているはずなのだ。
ぼくは、夜空に向かって、助走をつけて打ち上がった。
どうやらぼくのろけっとは、打ち上げ失敗だったようだけど。