表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

マッチ売りの少女 上

作者: タコ

挿絵(By みてみん)




 30代後半であろうサラリーマン風の男は、左腕につけた時計をおもむろに確認した。時刻は夜の11時25分。終電を逃すまいと足早に進むお仲間達にならい、男も駆け足で駅に向かった。その時――

「マッチはいりませんか?」

 あどけない少女の声が聞こえた。

 こんな時間に? とでも言いたげな表情で、男は声のした方へと振り向いた。

 視線の先には、どう見ても10代前半の少女。少女は微笑みを浮かべたまま、訝しむ男を真っ直ぐに見上げた。

「マッチはいりませんか?」

 少女が言う。

 なるほど確かに、片腕にマッチの入ったカゴをさげている。

「……」

 困惑したような表情で、男は少女を見つめた。

「マッチはいりませんか?」

 少女が再度繰り返す。

 男は不愉快そうに顔をしかめた。

「いらん」

 言葉少なに吐き捨てると、男は少女に背を向けた。しかし――

「マッチはいりませんか?」

 繰り返される台詞に、さすがにイラ立ちが勝ったのか、男は少女に振り返り声を荒げた。

「いらねえって言ってるだろ! いい加減にしろ! っは、このご時世にマッチだと?」

 そう言って、胸ポケットからライターを取り出し

「いいか? こういうものがあるんだよ、知らなかったか? マッチなんざ――」

 男は胸ポケットから煙草を取り出し、これ見よがしに火をつけてみせた。そうして思い切り煙を吸い込むと、少女の顔に吐き出した。

「時代遅れなんだよ」

 勝ち誇ったように薄ら笑いを浮かべる男に、少女は

「マッチはいりませんか?」

 尚も繰り返す。

「……人の話聞いてたのか……?」

「マッチはいりませんか?」

 抑揚も無く同じ台詞を機械的に繰り返す少女に、男はいよいよ気味が悪くなってきた。

「い、いい加減に――」

 と言いかけて、男は硬直した。

 少女は持っていたマッチ箱を少しずらし、隠していた避妊具を見せてきたのだ。

「……マッチはいりませんか?」

 ニコリと微笑む少女。

「……」

 男はゴクリと唾を飲みこむと、辺りを見回し、なんでもないようにして少女の肩に手を回した。



 数日後、各地の掲示板や電信柱にとある紙が貼られた。

 ――『行方知レズ。情報求ム』――

 張り紙には行方不明者の特徴と、連絡が途絶えた日付、そして顔写真が大きく掲載されていた。写真の人物は、あの日少女と共に雑踏の中に消えていった男その人だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ