表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪異世界の旅事情  作者: 秋丸よう
8/19

【怪異ファイル01】ボタルダール森林保護区 その7

 すると、白色の剣が現れる。その様子を職員達は警戒するのも忘れて、興味津々で見ていた。


「あの子、変わった力を持ってるのねぇ」

「でも、あのガキからは魔力を一切感じない。だから警戒してんだよ」

「根は真面目なんだからぁ〜」


 赤い紋様から剣が全て出ると、何かとても大きな魔力を剣から感じた。職員達も気づいたらしく、すぐに警戒体制に入る。少年は何故だか剣に柔らかく笑いかけ、呟いた。


「オラリオン、姿を見せてやれ。こいつら全員お前のことが見たいらしい」


 ひらり、と純白の羽根が舞った。

 そして、それは現れた。


 誰かが、跪いた。誰かが、涙を流した。

 そこには天使がいた。六枚羽の天使。絵で見る天使と違う点は目が多いこと。しかし、それはまさしく天使であった。全体的に白い女性。瞳はシトリンのように黄色く、しかし、上品な美しさを持ち合わせている。


 まさしく、あれは神だ。怪異なんてそんな言葉で表していいものじゃない。誰もがそう思った。

 天使は少年の背後から優しく抱きつく。柔らかな笑みを浮かべて、少年を見つめる。


「へえ、まさか神と契約しているなんて。まだまだ不思議なことがあるものですね。ちなみに何の神様なのですか?」


 アーノルドが興味を隠しきれない様子で少年に聞く。


 少年は一言、

「祈りの神」

 とだけ呟いた。まるでそれ以上踏み込まれたくないと言わんばかりに。たった一言。


「あらぁ〜そんな辛気臭い顔したら綺麗な顔が台無しじゃない。戸籍のことは先生に任せておけば大丈夫よ! 悪いようにはし・な・い・か・ら!」


 カレンがばちこーんと盛大なウインクをかまし、その場を和ませる。職員達は先程とは一変、賛成の声を上げた。しかし、アーノルドの提案に否定的な者が2人。

 

「おい、俺はただのとばっちりじゃねぇか! 俺は嫌だかんな」

「ハァン! 俺も嫌だわ! それは実質縛り付けられるってことだろうが! 俺は自由に生きたいんだわ!」


 シモンと少年である。アーノルドに対して口々に抗議する。


「ははは、息ぴったりじゃないか。君たちなら大丈夫だよ。そうそう、これは決定事項なので異論反論は受け付けませんよ。もう上には書類申請してしまいましたし」

「「は」」

「ふふ、また揃った。本当に仲がよろしくて大変嬉しいです」


 にこやかな笑みを浮かべるアーノルドと打って違って、少年はそこらの怪異に負けない凶悪な顔でアーノルドを睨みつけていた。シモンも負けず劣らずものすごい顔である。


「ははは」

「先生も人が悪いんだからぁ……そういえばあなたお名前は?」


 思い出したかのようにカレンは少年に名前を聞いた。少年は不貞腐れながらも、小さな声でぼそと呟く。いつの間にか背後の神は消えていた。


「ウィル……ただのウィルだ」

「いい名前じゃないですか」

「いい名前ねぇ〜」

「〜っ、うっせ!」


 アーノルドとカレンがまるで孫を見るような暖かい眼差しでウィルを見ると、ウィルは少し赤面して悪態をついた。


「ああ、そうだな。こんな悪魔みたいなやつには勿体ねぇくらい、綺麗な名前だ」

「はぁ? 貶してんの、褒めてんの?」

「褒めてるんだよ、はぁ……まさか息子ができるとは思ってもなかった……恨むならアーノルドを恨めよ。俺は押し付けられただけだからな。でも俺は手は抜かない」


 シモンがため息をつきながらも諦めた様子で微笑を浮かべ、ウィルを見据えた。ウィルは警戒心丸出しの顔で身構える。


「はぁ……? 何をだよ……」

「そりゃもちろんお前の躾だよ。お前には圧倒的に足りない物がある。なんだと思う」


 ウィルはポカンという顔をした後、下を向いて小さく呟いた。


「いろいろだよ……んなもん……」

「そうだよなぁ、いろいろだ。知識、教養、所作、などなど……この仕事は国のお偉いさんにも会ったりする。言葉遣い、所作は直さないとなぁ」

「ぐ……」


 シモンはウィルの悔しそうな顔を見て、にっと笑った。


「悔しいと思うなら、俺を利用してやると思って頑張れよ。お前がどんな理由で戸籍がないかは知らないが、その様子だとお前は怪異を消すことを望んでるんだろ。あの身のこなし、1回や2回じゃないな……相当な場数を踏んでるのはすぐに分かった。この仕事に着いたら嫌でも怪異とデートだぜ? お前は怪異を探している。教養も身に付けたい。ほら利点だらけだろ?」


 その言葉を聞いたウィルの顔は変わっていた。ヴィランのような黒い笑み。爛々と輝く、ペリドットの瞳。


「……ああ、わかった。俺はお前を利用してやる。俺は怪異をこの世から消す男だからな。でもな……」


 ウィルはワナワナしながら叫んだ。


「俺ばっかりに利点があるのは怪しすぎる! なんでお前はこんな素性の分からん子供を養子に迎えるのを了承してるんだ! 普通、なんかもっとこう、粘るだろ!」


 シモンはそれを聞いて少し遠い目をした。シモンの表情を見たアーノルドとカレンも表情が曇る。


「……なんでそんな辛気臭ぇんだ」

「……はぁ、死んだ妻が昔、子供が欲しいと言っていたからだ。それ以上でもそれ以下でもない。強いて言うならば、お前は俺と同じ匂いがする。それだけだ」

「ふーん、なるほどね……」

 

 ウィルはそれ以上は聞かなかった。


 その後、申請書類は審査を通り、ウィルは晴れてシモンの息子となった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ