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怪異世界の旅事情  作者: 秋丸よう
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【日常02】茶会での追憶

「で、どうしたこの茶葉共は」


 木霊の国の家に帰ってきたウィルがまず口にした言葉がそれだった。待っていましたと言うようにシモンが自慢気に語り出す。


「いやぁお前は満腹で寝てたから知らないのは当然だが、ジュリアさんに報告に行ったら泣いて喜ばれてな。それはいいとして、お茶トークで盛り上がってな、もらった。これなんかめっちゃ珍しいやつなんだぜ?」


 カサカサと音を鳴らして茶葉の入った小包を揺らす嬉しそうなシモン。ウィルは何となくだが嫌な予感がしていた。


 その予感は的中する――


 


***

「で、このお茶会を開いたのねぇ?」


 カレンが物凄い形相で紅茶を睨むウィルを見ながら、のほほんとした口調で口を開く。


「そうそう、その日はそのまま紅茶の飲み比べにしたんだが、ウィルが早々に脱落してなぁ。結局3種類くらいしか飲めなかったんだよ。で、お茶会ってもんを開いたわけ」

「ふふふ、タダでお茶を楽しめるなら私はなんでも構わないけれどね」


 木霊の国の家の美しい庭で開催されたお茶会にはカレンとアーノルドが来ていた。

 

 木霊の国の家は二階建てのまるで絵本に登場する可愛らしい家だった。白い壁に赤茶色・茶色・焦茶色・黒色というようなレンガの屋根。そして煙突がついている。庭も壮観なものであった。1番の目玉の所々に花が咲いた緑のアーチがあり、そこを抜けると見事な藤が咲く藤棚があり、その隙間隙間から白い骨組みが見える屋根にお茶会にはもってこいの白いテーブルがある。


(今年もきれいに咲いたぜ……お前は庭いじりが好きだったからなぁ……)


 この庭はシモンの亡き妻アイリーンが管理していたものであった。アイリーンも優秀な魔法使いで、彼女が作った保存魔法が施された庭の装置はシモンが少し調整することもあるが亡くなった後も機能していた。


「アイリーンの庭は美しいですねぇ……書類作成や料理はことごとくダメでしたが、こういうのは得意でしたからね」

「そうねぇ……今でもアイリーンの作った装置が機能しているなんて、凄いことよねぇ……」


 アーノルドはアイリーンの上司、カレンは同期であったので、アイリーンのことはとてもよく知っていた。皆が各々物思いに耽る中、不思議そうな顔で首を傾げているウィルがいた。


「嗚呼そうか……お前にこの話したことなかったな……」

「えぇ! 今まで1回もしたことないのぉ!? もぅ、シモンったら……そういうのはちゃんと伝えるべき事項なのよぉ?」


 シモンの呟きにカレンは驚愕の表情を見せる。アーノルドは相変わらずニコニコしながら紅茶を啜っている。


「うっせぇ! 今までタイミングってもんがなかったんだよ! 仕方ねぇだろうが」

「まぁなんでもいいけど、話すなら早く話してくんね?」


 シモンがカレンに逆ギレしたが、そんなことはお構いなしにウィルは冷めた目でシモンお手製クッキーを味わっている。


「……俺には奥さんが居たんだよ。それがアイリーン、アイリーン・ヴァルター。今から6年前、俺が28歳の時に死んだよ」


 シモンは紅茶をテーブルに置いて、静かに答える。それに付け足すようにしてアーノルドが口を開いた。


「しかも、任務で死んだのではありません。出掛けた先でシモンが目を離した隙に彼女は居なくなっていました。居なくなったとされる現場には大量の、それこそ致死量を大幅に超える血液だけが残っていました。鑑定の結果アイリーンの血液だったため、当初は殺人事件として捜査されましたが、監視カメラもなく、また発見現場は他の人に気づかれる事なく血みどろの死体を運び出すことは不可能とされるような、入り組んだ路地だったので、怪異事件として判定されました。そして今の今まで遺体は見つかっていません」


 淡々と事実を述べるアーノルドは今まで見たこともないような、苦悶の表情を浮かべていた。それはカレンもシモンも同じだった。


「……ふーん、6年前、ね……」


 ウィルはウィルで思う所があったのか、ただサクサクとクッキーを齧っている。しかし、それは一瞬だったようで。


「うん? 6年前? お前、今じゃあ34歳!? アラサーじゃん!? その見た目で? 詐欺だろ!」

「ふっ……そんなに褒めても何にもでねぇぞ」

「そんなこと言いながら、自分の分のケーキ差し出してるあたり、内心狂喜乱舞してるんでしょ? バレバレよぉ」


 先程の表情とは一転、シモンは照れの表情だった。カレンもニマニマしながらシモンを突いている。


「ふふ、まぁ今はこんな暗い話をする場面ではありませんね。彼女が今もまだ何処かで生きていることを祈りましょう」


 アーノルドは1つクッキーを摘むと、「美味しいですね、さすがシモン」と呟いた。シモンは「当たり前だろ、俺だぜ?」と言い返し、嬉しそうである。そして藤を見ながら目を細め、ぼそりと聞こえない音でこう呟いた。


「俺には祈ることしかできないからな」


 それに反応する人が1人。その呟きは木々草花の音にかき消されるはずだったが、ウィルはきちんと聞き取った。ウィルは静かに、ペリドットの瞳を揺らして紅茶を見つめていた。

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