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番外編3 「これが私の仕事です」前編

世界最大の治安維持組織『アイギス』その主力戦闘部隊に所属する『非戦闘員』メルティ・ウェルズの記録。戦いの世界に身を置きながら、戦闘以外で組織に貢献するひとりの少女に焦点を当てた完結済み『日曜日のアイリス』のサイドストーリーです。

※番外編へ再投稿しました。

 皆さんこんにちは。メルティ・ウェルズです。多分私のことを知っている人はいないですよね? あ、いいんです、いいんです。私は表舞台に立つような人間ではないので。


 では改めて自己紹介をさせていただきますね。私はアイギス本部主力戦闘部隊8番隊で『非戦闘員』をやっています、メルティ・ウェルズと申します。22歳の若輩者ですが、入隊から5年目と意外と長く勤めています。えっへん。

 今回は私のような裏方……とでも言いましょうか。物語の舞台には出てこない裏側を皆さんにご紹介できたらと思います。


 この世界では知らない人はいないと思いますが、一応アイギスについて説明させていただきます。アイギスとは世界各地に点在する治安維持組織です。その規模は現在世界一と言われています。10を超える本部主力戦闘部隊に加えて、本部の傘下に支部と呼ばれる部隊が枝分かれに存在しています。支部を含めたアイギス全構成員の人数は私も知りません。一説には数万人から数十万人と言われているそうです。


 アイギスは王国騎士団のように国に属していない民間の独立組織です。そのため各部隊は独立採算制で運営されています。その主たる収入源は駐屯する地域から納めてもらう税金です。「その土地の安全を約束する変わりに、お金を払って下さいね」っと言うわけです。

 民間人からお金を取っていることで公的機関の人からは「民間」と揶揄されることもあります。しかし私達とて、おまんまを食べていかなくてならないので仕方ないことだと割り切っています。


 もう少しアイギスについてお話します。先程も言ったようにアイギスには10を超える本部主力戦闘部隊と、数百の支部があります。本部の主力戦闘部隊は、傘下である支部に対して指揮命令権がありますので、事実上支部を管理しているのは支部長ではなく、本部の隊長になります。我が8番隊ではシャロン隊長ですね。

 支部の規模ですが小さいところで数十人、大きなところでは500人くらいです。現在、8番隊では32の支部を管理していますので、総勢1万人前後くらいでしょうか。部隊によっては100を超える支部を管理している隊もありますので1万人と言っても決して多くはありません。


 最後に本部と支部の戦力についてです。まず本部主力戦闘部隊ですが、隊長を筆頭に副隊長、そして席官と呼ばれる幹部が続きます。席官の人数は隊によってまちまちだそうです。8番隊には9席までいらっしゃいます。まずシャロン隊長ですが、はっきり言って人外です。決して悪口ではありません。本気を出せば街ひとつ一撃で消すと思います。副隊長以下も、シャロン隊長程ではないにしろ……まあ似たようなものです。上級魔族も一人で倒すような猛者達です。全員が高度な魔法を使用でき、白兵戦でもそこら辺の騎士団より遥かに強いです。

 その他、平隊員の方も名門王立魔法魔術学院の生徒より強力な魔法を使えるようなエリート揃いです。8番隊傘下の支部1万人に対して本部は400名程度と少数精鋭です。

 対して支部の方は魔法を使える人もいますが、大半は魔法適性のない一般人で構成されています。傭兵訓練を積んだ一般人と言えば分かり易いでしょうか? そのため、本部と支部とでは歴然たる戦力差があるわけですね。


 さて、そろそろ疑問に感じた方も現れ始めたと思います。


「なんでお前みたいな奴がスーパーエリート揃いの本部にいるの?」ですね。


 ええ、ええ。気持ちはごもっともです。私自身も「なんで私なんかが本部にいるんだろう」と思ったことは一度や二度ではありません。


 ではようやく本題「私の仕事」を記憶に沿ってお話しましょう。まず私、メルティ・ウェルズがアイギスに入隊した経緯からお話します。私は都会でも田舎でもない街に生まれ、お金持ちでも貧乏でもない家庭で育ちました。家族は両親と弟の4人家族でした。

 特別何かに秀でているわけではありませんでしたが、平々凡々とした幸せな毎日を過ごしていました。そう、12歳のあの日までは――――


 12歳のある日。深夜でした。私の街は魔族による襲撃を受けました。そして私は家族を失いました。身寄りの無くなった私は18歳まで孤児院で過ごしました。孤児院で過ごした6年間はあまり記憶がありません。何も思い出さないように勉強ばかりしていたと思います。

 奨学金を貰い進学できるだけの学力はありましたが、さっさと自立したかったので就職することにしました。そんなときアイギスの求人を見つけました。

 確か、襲われた街を救ってくれたのがアイギスのどこかの部隊だったと聞いていました。救ってくれたと言っても私の家族は死んでしまったので、アイギスに恩も感謝もありません。しかし、私自身は生き残ることができたのでアイギスに怒りや憎しみもありません。少し冷めた目で求人票を見ていたと思います。そして私はアイギスに入隊しました。魔法は使えないし、剣術はおろか体術の素質もまるでなかったのですが、学力が評価されてなのか事務員として採用されました。

 

 地方の支部で高くも安くもないお給料を貰いながら、贅沢はできないものの、食べていくには困らない。そんな人生を歩むと勝手に想像していました。ですが入隊してすぐ下された辞令は――――


『貴殿をアイギス本部主力戦闘部隊8番隊へ配属する』


「は?」


 こうして私はまさかの本部勤務となりました。エリート揃いの戦闘員の皆さんとは違い私が前線に出ることはありません。主に書類作成や経理といった事務作業がメイン業務です。また人が足らないときは治療のお手伝いや看護業務もやります。なんでも屋と言えば聞こえはいいですが、ようは雑用ですね。


 入隊当初は忙しさに目が回りそうでしたが、本部の皆さんは優しい人が多く、お給料も聞いていたより1.5倍程高く、しんどさよりやりがいが勝っていました。


 忙しさはあるものの、安全な隊舎の中で事務作業をしていればいい。前線で魔族や犯罪者と戦っている人より恵まれている。誰かに特別感謝されるような仕事ではありませんが、どこかできっと誰かの役に立っている。そう、これが私の仕事。そう思っていました。



 入隊から約1年。19歳の秋。初めての遠征任務に同行しました。大森林の入口に布陣して、森に現れた魔族を討伐する任務です。初の前線任務です。最悪死にます。

 もちろん非戦闘員の私は布陣の中で最も安全な本陣に配置されました。非戦闘員と言えど普通は傭兵訓練を受けており、魔法が使えなくても酒場で暴れる酔っ払いくらいなら素手で制圧できます。しかし、私はそれすらできないガチの一般人です。魔族とのエンカウント=死です。


「ふははは〜! 安心したまえ! 私がいる限り魔物風情が君に触れるような事態は起こり得ないのだからね!」


 そう言ってシャルロット3席が高笑いします。シャルロット3席は少女のような見た目です。ただ、それ以上に奇人めいた言動が目立つ変わったお人です。

 案の定、戦闘が佳境になると私を置いて最前線に飛び出していきました。私は今日死ぬかも知れない。そんなことを思いました。


 そんなことを考えていると血まみれの隊員を抱えた数人が本陣へ帰ってきました。


「くそっ! 治療班は前線か!?」


「呼びに行きます!」


 隊員のひとりが重症を負っていました。腹部からおびただしい出血があります。魔族にやられたようです。


「メルティ!」


「は、はい!」


「止血を頼む!」


「あ、あの私……魔法は使えなくて……」


「わかってる! 治療班を呼ぶまでの間、傷口を抑えててくれ!」


「わかりました!」


 私はすぐに治療用の布で負傷兵の傷口を抑え、止血を試みました。しかし布はすぐに赤く染まり、流れる血は止まる気配はありません。

 負傷兵を運んできた隊員はすぐに前線に戻っていきました。


「すぐに治療班の方がきますからね! 頑張って下さい!」


「ぁ……ぁぁ……」


 負傷兵は知らない方でした。私の呼びかけに消え入りそうな声で返事をします。目は開いていましたが焦点は合っていませんでした。流れ続ける血とともに、段々体から生気が抜けていくのがわかりました。


 治療班の方が帰ってきたのは10分程経ってからでした。


「メルティ、ありがとう。後は……」


 私の硬直した体を治療班の方がゆっくりと移動させます。ですが、負傷兵の方への治療は行われませんでした。当然です。彼はもう亡くなっているのだから。


 私は真っ赤に染まった両手を眺めていました。もし私に治療魔法が使えたら、あるいは医療に精通していれば――――

 そんな意味のないことを考えました。そして手を洗うと私はペンを持ち、書類を作り始めます。隊員がひとり亡くなっただけでも発生する報告書は膨大です。遺族の方にはできるだけ早く、そして詳しく亡くなった方の最後をお伝えしなくてはなりません。弔慰金の手続きは遺族の方の生活にも関わってくるので急がなくてはなりません。私はあらゆる感情を排除して、自身の仕事を履行していきます。そう、これが私の仕事なのだから――――


続きます。

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