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番外編2 黒と白

 王国騎士団の失脚により、名実共に世界最大の治安維持組織となったアイギス。騎士団に変わり、王都の警備を担うようになったシャロン率いる主力戦闘部隊8番隊。しかし先の戦いでは多くの隊員を失い、戦力は疲弊していた。だが、任務は事情など関係なくやってくる。


「古巣を手に掛けることに、気が進まないのなら私ひとりで参りますが」


「いいえ。私も参ります。ただひとつお願いが……」



 舞い込んできた新たな任務は諜報機関「(エックス)」の殲滅だった。諜報機関と名乗りながら暗殺を始めとした裏稼業を一手に担う組織だ。孤児を暗殺者や諜報員に育て上げ、徹底した情報管理や裏切り者の粛清で騎士団やアイギスの目をすり抜けてきた。

 だがXは、エースと言われた主力のセシリアと、ステラを失い、ふたりの粛清を試みるも返り討ちに合う。そしてついにXの全貌が明らかになった。Xのボスはさる大貴族で、孤児から育てられた者やプロの傭兵から構成された数十人の集団だった。


「歯向かう者には容赦致しません。ただし、戦意のない者や投降する者には攻撃しないように」


 シャロン、セシリア、シャルロットのスリートップによる夜襲を仕掛ける。Xの構成員に加えて、数百の私兵がいたがシャロン達の敵ではなかった。私兵には魔法を使える者がほとんどおらず烏合の衆と言って差し支えなかった。

 数には数と、大量に召喚されたシャルロットのアンデット軍団が簡単に制圧する。そして肝心の構成員も、自分達のエースだったセシリアが敵に回ったことが影響したのか、明らかに士気が低く、数時間も経たない内に自害した者、殺された者を除き大半を捕縛することに成功した。


「貴女達の命を奪うような真似は絶対にさせません。ですからどうか――――」


「…………」


 シャロンの想像よりも遥かにセシリアの影響力が大きかったようだ。初めこそ刃を向けてきた者が多くいたが、セシリアの言葉で戦意喪失し投降する者が続出した。セシリアと顔見知りは30人程だったが、その全てが大人しく投降の呼びかけに応じたのだ。


「ごめんなさい。拘束魔法を掛けさせてもらいます」


「わかってる……」


 投降した多くはセシリアの同年代の少年少女達だった。余程セシリアを慕っていたのか、あるいは彼女と同じく明けることのない暗い日々に嫌気が差していたのだろうか、余りにもあっさりとした終戦だった。逃げ出した大貴族もすぐに捕まった。





 それから1ヶ月。捕まえた構成員は投獄こそされたが、命を奪われることはなかった。厳重な思想調査がなされ、態度や思想に問題なければ早期に釈放されるようだ。幼少期から洗脳に近い形で暗殺稼業に従事させられていた彼らには、最低限罪を償わせたら外の世界で更生させるべきと、アイギス側から強く訴えた。



「貴女のようにはいきませんが、牢での態度も非常に大人しいようですし、なるべく早く出られるよう手配致しましょう」


「ありがとうございます。先生」


 隊長の執務室でふたりは向かい合いながら事務作業に追われていた。羽根ペンを走らせる音だけが執務室に流れる気不味い空気を誤魔化していた。


「罪の意識を感じているのですか?」


「え?」


「かつての仲間達を自分の手で投獄したことに」


「あ……」


 図星とばかりにセシリアは言い淀んだ。セシリアは羽根ペンを置き、正面にいるシャロンを見る。


「私だけ自由の身になって……きっと恨まれているでしょうね……」


 セシリアは自虐気味に言う。斜め下に反らした目には投獄された仲間達が映っているようだ。セシリアを初め、多くが孤児院から引き取られた子供達。辛い幼少期を共に過ごした彼らはセシリアからすれば家族のような存在だったのかも知れない。

 シャロンがそんなことを考えているとセシリアの目に力強さが戻る。


「ですが、甘えた事は言っていられません。私は生まれ変わり、正義を為すためにここにいるのですから」



『変わりなさい、セシリア・グリーングラス。今、この瞬間から』



 かつて、シャロンがセシリアに言った言葉だ。セシリアはあの日の言葉をしっかりに胸に刻んでいた。


「私の言った言葉をしっかり覚えているようですね。さすがは優等生。優秀ですよ」


 シャロンはセシリアを褒める。しかしどこか馬鹿にしたようなニュアンスも含まれていた。その含みにセシリアは気づく。


「どこか間違っていますか?」


 セシリアは少しむっとした様子で聞き返した。


「いいえ。間違ってなどいませんよ」


「ならどうして――――」


 笑顔で躱すシャロンに食い下がるセシリア。その様子を見てシャロンも羽根ペンを置き、佇まいを正す。


「セシリアさん。貴女は優秀です。私は貴女をとても高く評価しています。ですから入隊と同時に副隊長の地位を貴女に与えたのです」


「…………」


 先程と同じくセシリアを褒めちぎるシャロン。だが、今回の言葉には含みは感じられなかった。純粋に評価されている、そう感じられた。


「貴女は暗殺者だった過去を切り捨て、アイギス副隊長として正義を為そうと日夜頑張ってくれているのは知っています。貴女の組織への献身は頭の下がる思いです」


 だったら私の何が間違っているのだ。セシリアは目だけでそう訴え、シャロンの言葉を待つ。


「私が評価したセシリア・グリーングラスは勤勉な優等生であり、潜伏先で上手く立ち回る演者であり、優秀な暗殺者でした。そして友達想いの、優しいが故にどこか弱い。そんな人間です」


「…………」


「Xの構成員を捕縛した際、あの子達の様子を見れば、貴女が組織でどれだけ慕われていたのかよくわかりました。ですから無理に情を捨てなくてもよいのですよ」


「先生……」


 セシリアはそんな深いところまで、シャロンが自分を見ていたことに気づかなかった。その事実にようやく気づいた自分を恥じると共に、目頭には熱いものが溢れてきた。


「あらあら、書類を濡らすわけにはいきませんから少し休憩に致しましょう。え〜と、紅茶は確か――――」


 涙を拭うセシリアから離れるようにお茶の準備を始める。お茶が入る頃にはセシリアも落ち着きを取り戻していた。




「申し訳ありません……先生自ら……」


「別に構いません」


 そう言ってふたりは再び向かい合いお茶を飲む。


「そうそう。一度聞いて見たかったのですが」


「何ですか?」


「どうしてローブの色を変えたのですか? 髪はまぁ……私がバッサリいってしまいましたが……」


 シャロンの言うように、セシリアはアイギスに入隊してすぐローブを白から黒に変えた。以前から全身を覆うタイプのローブのため、髪型のせいもあり、かなり印象が変わる。


「特別、深い意味はないのですが……まぁ心機一転と言いますか……」


「それだけですか?」


「あと、皆さん黒の隊服なので、何となく合わせた方がいいのかと……」


「ん、ぐっ!」


 シャロンはその言葉を聞いて僅かに吹き出す。


「ゴフッ……んん! そんな理由だったのですか?」


「ええ、まぁ……イメージカラーは合わせるべきかと」


「イメージカラーっ!? ふふ……あははは〜」


 シャロンには珍しく素っ頓狂な声で大笑いする。


「イメージカラーって……そんなものあるわけないでしょう……ふふふ」


 シャロンは腹を抱えて笑う。


「えっ? そうなのですか? 皆さん黒色ばっかりで……ほらリオン先生も黒ですし……」


「支給する隊服は黒が基調ですが、別に規則というわけではありませんよ。シャルロットをご覧なさい。あのカラフルなフリフリドレスを」


「まぁ学院長代理は……特別というか……」


「そういうところは本当に真面目ですね、貴女は」


 まだ僅かに笑いが込み上げているようだ。


「そこまで笑わなくても……」


「あ〜おかしい。でもね、そんな生真面目なところも私は評価しているのですよ」


「褒められている気がしません」


「真面目な貴女も素敵ですが、もう少し砕けた方が部下とは仲良くやれるかも知れませんね。シャルロットを参考にしてみてはいかがです?」


「本気で言ってますか?」


「冗談です」



 こうして和やかなティータイムを過ごし、ふたりは再び仕事に戻る。セシリアが以前のような白のローブに戻ったのはこの数日後だった。




番外編2 完

日曜日のアイリス番外編2作目でした。

現在、次作執筆中です!


これからもよろしくお願い致します。

早坂凛

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