不老の男
『あなたの体には、老いがありません』
男は三十歳の健康診断で主治医にそう告げられた
「そりゃあ、まだまだ元気ですしねえ」
男は主治医の言葉を最高の褒め言葉と受け取った。
男の顔はまんざらでもない。しかし主治医の顔はそれとは対照的に暗くなっていく。
「もしこの先もこの状態が続くのなら・・、あなたは不老になるでしょう。」
なんだって?いっていることは分かる。しかし言われたことが素直に呑み込めない。
それを構わず主治医は話を進めていく。
「ふつうは細胞は老化し、細胞分裂にも限界があります。しかしあなたの細胞はそれがないか極端に少ない。」
男は歓喜した。いまの若々しい体が変わらない、認知症で自分を失うこともない、筋力が衰え、顔に深く醜いしわを刻むこともない。
なんと素晴らしいことだろう。
男は自分の体を受け入れ、生きていくことにした。
ー男は四十歳にして、妻を娶った。二十一の美しい人だった。男は彼女を心底愛した。それから男は妻と楽しい日々を過ごした。やがて男は妻の三十の誕生日を祝うことになった。
妻は「私ももう若くないのね」と悲しそうにつぶやいた
いわれてみれば確かに、妻はであった頃より皺も増えた。であった頃は快活な人だったが、いまは落ち着いた
雰囲気をまとっている。
そうだった、人は変わっていくのだ。そんな当たり前のことを、どこか遠い、他人事のように感じてしまう、
男は自分と他の人の間に、てこでも動かない,厚い壁を感じた。
思えばそれからだったのだろうか。
男を見る妻の目が、日に日に険しくなっていった。やがて、男はそれが耐えられなくなってきた。
「どうして俺をそんな目で見るんだ!?」と妻に尋ねた。
「あなたは出会ったころから変わらない,いまでも若々しい。でもわたしには私それが耐えられない!
毎朝鏡をみる度に、私の顔には皺が刻まれていくの。それでもあなた変わらないそれを毎日感じるわたしの気持ちがわかる!?」
どうやら、妻は男と一緒の悩みをいだいていたらしい。どれだけそっち側に行きたいことか。やがて男は
妻と離婚した。男は別れたくなかったが、妻のあの悲痛な悩みを聞いて、これ以上苦しめることもできない。
不老とは、素晴らしいものなんかじゃない、ただ愛した人の一生すらも添い遂げられないようないらないものである。世の中のすべてが変わっていく、そんな中、僕だけが変われない。
男は、死ぬ決心もつかぬまま、今日も変わる日常を歩んでいく。
初心者なので問題点とか遠慮なく書いていってください!