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おとしもの

作者: isenn47Q

 あぁーあ今日も負けちゃったよと、Sは思いの中でつぶやいた。パチンかす、と言葉が浮かぶ。

 今月はまだ中旬ですでに5万円負けている最初はよかったのだが、引き際を逃した感は確かにある。最初にバカ当たりしたので、今日は今までの負け分を取り戻せると思ってしまったのがいけなかった。難しいものだ。次の給料日まではまだ2週間あるので先が長い。もう今月はこれ以上賭け事は慎まなければ大げさだが破綻してしまう。貯金には手をつけたくない。

 そんなことを考えながらすっかり日が暮れた帰り道をトボトボと歩いていると、道に何か落ちている。何だろうと思いながら近づくと黒っぽい何か。それは無地の長財布で拾ってみたが男物だ。思わず周囲を首を回して見渡したが誰もいない。そして、その財布の中を見てみたが何も入ってなかった。現金、カード類も何も入ってない。何も入っていないということは高級ブランドの財布でもないし、落とし主は大して困ってはいないだろう。交番は今来た道を戻らないとないし、戻るのも面倒だった。財布に何も入っていないという事実がSの足を重くさせた。

 まぁ何も入っていないのだからとりあえず持って帰ることにした。月曜日に出勤するときに交番に届ければいい。途中コンビニに寄って食料を買い込み一人暮らしのアパートに帰った。

 炬燵のスイッチを入れ拾った財布をテーブルの上に投げ置き、コンビニで買った食料品を置いてパソコンの電源を入れた。さすがに部屋が冷たく空気が張りつめている。キッチンからグラスを持って来て炬燵に潜り込み買ってきた梅酒をグラスに注いだ。最近は梅酒にはまっていて、外国の人が日本のお酒で美味しいと思うお酒の一つに梅酒が入っている。Sは特に熟成物を好んで飲んでいるが、お酒には弱いほうなので量は飲めない。キッチンに行き冷蔵庫を開けて昨日柵で買ったサーモンを柳包丁で切りつまみに梅酒を飲んだ。

 パソコンでお気に入りの映画のDVDを観ることにして棚にあるコレクションを眺めた。結局悩んだ末アクションものにして、2作品目を見ているとき24時を過ぎたころだった。

 炬燵のテーブルに何か違和感を感じて見ると拾った長財布からお札がモコモコと出てきている。

 幻視か?Sは目をこすり、手を伸ばしお札を一枚手元に引き寄せて、自分の財布から一万円札を取り出し横に並べて比べてみた。虫眼鏡を探すことにして部屋のあちこちを見たがなかなか見つからない。やっと虫眼鏡を見つけると2枚の紙幣の隅々までくまなく見たが、本物のお札と変わらない。紙幣を裏返したりしても何ら本物の紙幣と変わらない。これは本物なのだろうか。

 このお札はどこから来たのであろう。そうこう考えている間も財布から紙幣が出てきていて、ちょっとしたお札の山ができた。その出てきたての数枚のお札を手に取り番号を見てみたが、続き番号ではないし透かしもちゃんとある。そして全部一万円札である。

 Sは財布を眺めたがまだまだ紙幣が出ている現実を見て恐怖した。このままお札が出続けたら部屋が一万円札で埋まってしまう。何という贅沢な恐怖であろう。

 もう交番には届けられないし、手放せなくなった。理屈はわからないが打ち出の小槌を手に入れたのだ。

 そして、いつの間にかSは寝てしまった。

 朝が来て、目覚めたSは深夜のことを思い出し、炬燵の上を見ると確かに一万円札の山があるのを見て夢じゃなかったんだと喜んだ。  

 覚悟を決めてパチンコ店に行って。自分の指紋が紙幣につかないように手袋をして、一万円札をかすかに震える手で両替機に入れた。緊張の一瞬だが、あっさりと千円札が出てきた。ラッキーと心の中でつぶやき歓喜してすぐにパチンコ店を出てアパートに帰った。 

 今日は日曜日なので明日は仕事だが、もうすでに心の中では休むことを決めていた。風邪ということにして二日は休める。今必要なことは財布からいつどうやったら紙幣が出てくるということだ。それが分からなければ宝の持ち腐れだ。差し当たって拾った昨日の深夜に紙幣が出てきたことに記憶を巡らせた。

 確かその時は真夜中で、24時を過ぎたころで財布は開いてあった。Sはパチンコ店に行った帰りにコンビニに寄って売っていた新聞を全て一部ずつ買ってきて、丁寧に読んでいった。実際にお金が出てきたのだから、どこかのお金が減っていることになる。しかし、どこにもそのような記事はなかった。

 一体どこから来たのだだろうと考えながら、昨晩出てきた紙幣を数えながらまとめた。不意に友達が訪ねてくるかもしれないし、誰にもお金を見られてはいけない。

 紙幣を数えると一千万円を少し超えていたが、一晩で一千万円とは驚きだ。

そして、深夜を待ち遠しく昼寝をして時間をつぶそうとしたが、やや興奮気味なのでなかなか眠れない。そこで仕方なく眠剤をお酒で飲み眠ることにした。

 夜の10時ごろ目を覚ましたSはシャワーを浴びてさっぱりとして、空腹を覚えたSはキッチンに行き、冷蔵庫を開けると冷凍食品があったのでオーブンレンジで温めて食べた。

 いよいよ緊張の時間がまもなく来るので、0時前に炬燵のテーブルに財布を開いて置いた。さて紙幣が出てくるだろうかと固唾を吞んで待ったが、0時を過ぎたころに待ち望んだ瞬間がきて、紙幣が財布からモコモコと出てきた。その様子を見ながらSの顔は自然とほころんでいた。

 今後のことを考えると仕事は辞めない方がいいのは当然だが、差し当たって今はお金に不自由しなくなった。

 どこから来る紙幣なのか判らないのが、それがかすかに不安を感じさせる。それにしてもこのことは誰にも言えない重大なことだ。今彼女がいないのも幸いのような気がしている。

 しばらくぼーっとして財布を眺めていたが、数千万円になった感じがしたので財布を閉じた。

 

「今朝、M町の川で大量の紙幣が見つかりました。警察によりますと紙幣はいずれも一万円札で現在で3千万円を超えており、落とし主を探していますが、自分のかもしれないと二人の男性が申し出ているとのことです。警察は確認を急いでいます。次のニュースです・・・」

 さてと、今度はどこに落とし物をしようか。


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