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花冠の思い出②


「おかあさま、おかあさま! わたくしもこのまるいのをつくりたいです」


 回り過ぎて目が回ってしまったリディアは、その場にへたり込みながら母へとそうせがんだ。フェルメアは涙を拭うと愛しい我が子へと歩み寄り優しく話しかけた。


「シロツメクサの花冠は少し難しいの。リディにはまだ作れないと思うわ」

「いやです、つくります!」


 フェルメアは少し困ったような顔でリディアに答える。


「リディがもう少し大きくなったら、ちゃんと作り方を教えてあげるわ」

「いやなの、きょうつくりたいの!」


 フェルメアはいつもは聞き分けの良い娘の我が儘に首をかしげる。


「リディ、どうして今日じゃないといけないのかしら?」

「おかあさまはごびょうきなんでしょう?」


 思いがけない娘の言葉にフェルメアはなんと答えてよいのか分からず口ごもった。


 フェルメアは元々身体が弱く、リディアを産んでからは心臓まで悪くしていた。しかし愛する夫に迷惑をかけまいと侯爵夫人としての責任を全うしようとするあまりに無理を重ねてしまい、段々と病状を悪化させてしまっていた。そんなフェルメアは最近では度々心臓の発作を起こしてしまい、ベッドから起きられない日々が続いていた。


 そんな少し痩せてはいても美しい、母の目を見つめながらリディアは一生懸命に訴えた。


「まほうのはなかんむりをつくればね。おかあさまはおひめさまになってね、きっとげんきになるとおもったの……」


 フェルメアは娘の答えに言葉を失った。

 我が子の可愛らしくもいじらしい願い、フェルメアは嬉しかった。それと同時に悲しくもあった。どうか心優しい愛する娘の顔が笑顔に変わるようにと願いを込めてフェルメアは言葉を紡いで行く。


「あのね、リディ。シロツメクサには素敵な花言葉があるの」

「はなことばってなあに?」

「そうね。花に宿る小さな魔法、みたいなものかしら?」

「まほう!?」


 母からの思わぬ答えに、リディアの顔は一瞬にして喜びに輝いた。


「シロツメクサの花言葉はたくさんあるんだけれど。その中の一つが幸福……幸せという意味なの」

「おかあさま、しあわせっておひめさまになること?」


 リディアの無邪気な問い掛けにフェルメアも思わず笑みが零れる。


「ウフフ……そうね、それも幸せね。でも幸せはそれだけじゃないのよ。今日はお母様と一緒にたくさん笑ったでしょう。お姫様になって素敵なダンスも見せてくれたわね。リディアは楽しかったかしら?」

「はい、とってもたのしかったです! おかあさまも?」

「ええもちろんよ。お母様もとってもとっても楽しかったわ」


 フェルメアはリディアの美しい銀の髪を何度も優しく撫でながら答えた。


「幸せというのはね。夜空に輝くお星様と同じくらいたくさんの種類があるの。大好きな人と一緒に笑いあったり、今日みたいに素敵なことを楽しんだりするのもたくさんある幸せの一つなのよ」


 リディアは母の言葉の意味がよく分からずに不思議そうな顔をしていた。確かにまだ五歳であるリディアには難しい話であったかもしれない。


「そしてねリディ。あなたが幸せであることがお母様の一番の幸せなの」


 フェルメアはリディアの頭に乗せられたシロツメクサの花冠に触れながら心を込めて語りかけた。


「リディがこれから先も幸せでありますように。お母様はたとえどんな姿になろうともあなたをいつも思っているわ。どうか忘れないでね、私の大切なお姫様……」


 その瞬間柔らかな木漏れ日が二人に優しく降り注いで、それがリディアには春の女神が幸せの魔法をかけてくれているように見えた。

 


「リディがもう少しだけ大きくなったらシロツメクサの花冠の作り方を教えるわ。その時はお母様の頭に魔法の花冠をかぶせてね」


「はい、おかあさま! やくそくね?」



 どこまでも暖かく柔らかな春の光に包まれて、この日母と娘は約束をした。決して果たされることのない約束をしたのだった。


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