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2.変わってしまった婚約者


 貴族の子息、令嬢のほとんどが通う王立フローラ学院はある意味未来の貴族社会の縮図だ。学院では自主性が重んじられるがそこにはもちろん責任が伴われる。


 まだ学生だからその責任の取り方も軽くて済むが、いずれ貴族社会に出れば小さなミスが命取りになる事も少なくない。学院は失敗からの学びを得る事のできる数少ない貴重な場でもある。



 数日前の事だ。

 生徒会副会長として携わっていたフローラ学院の卒業式が無事に終わり、リディアは卒業生の嬉しそうな笑顔や涙を見て苦労が報われた喜びに包まれていた。


 そんな幸せな気分で教室へと戻っている途中でリディアは婚約者のクラウスに呼び止められた。その日のリディアは来年度の生徒会長として前任の生徒会長から最後の引き継ぎを受けねばならなかった。それでクラウスとは後日改めて会う約束をして別れたのだった。


 そう、確かに約束はしていた。

 まさかその数日後、学院を卒業したばかりのクラウスがわざわざリディアの教室に押し掛けてくるなんて思ってもみなかった。


 クラウスはリディアのクラスメイト達の呆れや軽蔑の色の混じった冷ややかな視線に気づく事もなく、リディアの前までやって来た。


「リディ、今いいだろうか?」


 水を打ったように静まりかえった教室にクラウスの声が響いた。リディアもまた呆れながらも、クラウスの問いに答えた。


「大丈夫ですが……。クラウス様のご用件は何でしょうか?」


 リディアの言葉にクラウスは慌てた様に答える。


「二人だけで話したいんだ。今から学院の裏庭に来て欲しい」

「裏庭ですか?」

「ああ、ここでは人の目があるから話せない。それに急ぎの話なんだ」


 クラウスは周りを見渡してそう言った。

 忙しかった日々が一段落したので、今日は久しぶりに屋敷で庭を眺めながらゆっくり過ごす予定だった。

 時間はある。確かに時間はあるが、リディアの都合を何も考えていない婚約者の言葉がショックだった。


 クラウスとリディアは学年が違うこともあって、学院内では挨拶を交わす程度の交流しかしていなかった。でもリディアはそれで崩れてしまう様な信頼関係をクラウスと築いて来たつもりはなかった。



 ライズナー公爵家の次男であるクラウスはリディアより一つ歳上だ。濡れ羽色の黒髪に美しいターコイズブルーの瞳を持つクラウスは甘く整った顔立ちで、学業も剣術の腕も優秀な人だ。


 クラウスが十歳、リディアが九歳の時に二人の婚約が結ばれてから、定期的にお互いの家を行き来しては交流を深め合って来た。会えない時にはお互いの近況を手紙に書いては報告し合っていた。


 もちろん誕生日にはプレゼントを欠かす事はなかったし、護衛は付けられていたけれど二人でデートに行く事も多かった。

 リディアのデビュタントの時は、もちろんクラウスがエスコートしてくれた。その時にクラウスからプレゼントされた、彼の瞳の色と同じ大きなターコイズが使われた首飾りはリディアの宝物だ。


 そう、クラウスはいつもリディアに優しくて紳士的で、婚約者として申し分のない人だった。


 それがこの一年の間で、クラウスは別人のように変わってしまった。



 以前はあんなに頻繁に会っていたのに、デートどころか前回クラウスとお茶をしたのはいつの事だっただろうか。

 婚約してからずっと続けていた手紙のやり取りも、クラウスからの返事が途絶えてしまい今は辞めてしまった。


 それでもパーティーのエスコートだけは昔と変わらず受けてくれていた。それも最近になってはリディアがいくらエスコートをお願いしても、クラウスから何かと理由をつけられては断られ続けていた。


 そしてとうとう決定的な事が起きてしまった。


 学園の卒業式の翌日に行われた卒業記念のパーティーで、婚約者であるリディアのエスコートを断っておきながらクラウスは別の女性を伴って卒業パーティーに参加したのだ。

 あまりにも非常識な事に我慢が出来ずにその場でクラウスを問い詰めれば、エスコートの相手がいなくて困っている友人を助けただけ、などという意味の分からない答えが帰ってきた。


 そんな事が重なり正直裏庭になど行きたくはなかったが、まだクラウスを信じていかったリディアは了承した。

 クラウスはホッとした様な顔をすると急いで走り去って行った。



「私も一緒にいきます、どうせ録な事ではありません!」


 リディアの隣で心配そうに成り行きを見守っていた伯爵令嬢のアーラが訴えた。


「駄目よアーラ、あなたに迷惑はかけられないわ」

「最近のリディアを軽んじる行動の数々はいくら公爵家の方であっても酷過ぎます! 卒業パーティーでの事を忘れたのですか? あんな方と二人きりで会うなんて、リディアに何をされるかわかりません!」


 アーラの言葉に周りのクラスメイト達も一斉に頷く。皆が口々にクラウスを非難しリディアを案ずる言葉をかけてくれた。


「アーラそんな事を言っては駄目よ。でも……ありがとう」


 リディアは嬉しそうに微笑みながら、アーラに感謝の言葉を伝えた。


「皆さんも本当にありがとう。その気持ちが本当に嬉しいです。でも私は大丈夫ですから」


 リディアは最後に皆に一礼すると、クラウスの待つフローラ学院の裏庭に急いで向かうのだった。


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