10.自業自得の意味
「俺はリディに謝罪するためにラヴァール領まで来たんだ」
「私に謝罪する為、ですか?」
「ああそうだ。リディ、今回のこと本当に申し訳なかった」
クラウスは謝罪の言葉と共に頭を下げた。
「クラウス様、頭を上げて下さい。今回のこととおっしゃいましたが、その謝罪はいったい『何に』対してなのでしょうか?」
「俺の間違った思い込みのせいでリディに婚約破棄を告げてしまったことだ」
「なるほど。クラウス様の謝罪というのはそのことに対してだけなのですね?」
「……それはどういう意味だ?」
クラウスの言葉を無視する様にリディアは紅茶をゆっくり飲んだ。香り高い紅茶はリディアの心を落ち着かせてくれた。
「こうやってクラウス様と一緒の席で紅茶を飲むのはいつ以来でしょうか。少なくとも一年よりも前なのは確かですわね。そんな久しぶりの機会にこの様な話をせねばならないとは、本当に残念なことです」
そう悲しそうに告げるリディアの姿にクラウスは何も言えなくなってしまった。
「この一年の間、私は何度もクラウス様へ手紙を送りました。最初はぽつりぽつりとですが返ってきていた手紙もやがて途絶えてしまいました。送っても送っても返事は返ってこない……そこでやっと私はクラウス様から無視されている可能性に気がついたのです。それでも送り続け……結局私は九歳から続けてきたクラウス様との手紙のやり取りをやめることに致しました」
リディアを無視していた自覚があったのだろう。きまりが悪そうに目を逸らすクラウスにリディアはなおも話を続けた。
「ここ数ヶ月など、クラウス様にパーティーのエスコートを頼む度に断られ続けておりましたわね。挙げ句の果てが卒業パーティーでの一件です。正直に言いまして婚約者としての最低限の義務すら放棄した行為ではありませんか? ああ、これらの件についての謝罪は結構ですよ。今更ですから」
そうクラウスに告げるリディアは笑顔を浮かべてはいたが、その視線は氷の様に冷たかった。
「しかし先日の裏庭での件は別です。何の非も無かった私はクラウス様から一方的に責められたのですから。そのことについての謝罪は頂けないのでしょうか?」
「違う、そのこともちゃんと謝ろうと思っていたんだ! その、本当にリディには申し訳無いことをしたと思っている」
「そうですか……分かりましたわ」
「許してくれるのか?」
「私は許すとは言っておりません。クラウス様からの謝罪を受け取っただけですわ。そもそも謝られたからといってすぐに許せる様な事ではないでしょう?」
「…………」
どこか的外れな事を話すクラウスにリディアは頭が痛くなってきた。結局のところクラウスは反省などしていないのだろう。わざわざラヴァール領にまでやって来ておいてこれなのだから。
「まあいいです。そういえば私達の婚約は正式に破棄されましたが、クラウス様はフェリシア様と婚約されるのですか?」
リディアの言葉にクラウスは力無く頷いた。その喜んでいるとは言い難いクラウスの様子をリディアは不思議に思った。
「ああ、そうなると思う」
「良かったではありませんか。クラウス様はフェリシア様のことがお好きだったのでしょう?」
「違う! 俺が好きなのは彼女じゃない、彼女は友人だ!」
リディアはクラウスの言葉に目を丸くした。フェリシアを愛しているからこそ、クラウスは自分に婚約破棄を告げたのではないか。リディアはそう思っていた。
「俺もフェリシアのことを調べたんだ。すると学院に在籍している間、彼女は自分より高位の令嬢方に対して随分と無礼な態度を取っていたことが分かった。リディの言っていた通りフェリシアは自業自得だった。もしも学院の外であんな行動を取っていたのならフェリシアは無事では済まなかっただろう」
「……まあそうでしょうね。あの程度のことで済んでいたこと事態、マナーを知らないフェリシア様に対しての温情でもあったのですよ? それをフェリシア様は虐めにとってしまった。更にその虐めの犯人が私だと根拠も無く責め立てたのですから。本当に『無知』とは恐ろしいものですわね」
リディアは意味深に微笑みながらクラウスにそう告げた。クラウスは先日の自分の発言を思い出して恥ずかしくなったのか、がっくりと項垂れた。
自分よりも高位の令嬢方に対して挨拶をすることも家名を名乗ることもせず、砕けた言葉使いで話しかけていたフェリシア。しかもフェリシアはそんな彼女達の婚約者に対して馴れ馴れしく話しかけたり色目を使っていたのだ。つまり子爵家の令嬢が高位貴族の令嬢方に喧嘩を売る様な行為を繰り返していたということ。
虐めで無視をされていたのでは無い。
高位貴族の令嬢にとってはフェリシアは喧嘩を売ってきた相手、下位の貴族の令嬢はそんなフェリシアと関わることでとばっちりに合いたく無かっただけなのだ。
フェリシアは令嬢達に取り囲まれて怖かったと言っていた。実際はフェリシアに対して釘をさしておこうと皆で一緒に忠告を行っただけだった。高位の令嬢らしく言葉を荒げるでも無く、皆が品よくフェリシアに忠告していった。それに対して腹を立てたフェリシアが事実をねじ曲げて大袈裟にクラウスに告げた、これが真相であった。
これをフェリシアの『自業自得』と言わずして何と言うのだろうか。そして自分で事実確認をすることもなく、そんなフェリシアを盲信していたクラウスもまた同じく『自業自得』だ。
更新が遅くなり申し訳ありません。
色々と重なっておりまして、しばらく週に二回くらいの更新になるかと思います。
お読み頂き、またブックマークに評価と感謝の気持ちでいっぱいです。
物語はこれから後半に入っていきます。シリアスな拙い小説ではありますが、少しでもお読み頂いた皆様のお心に響くものであればと思っております。
改めまして、お読み頂きありがとうございましたm(__)m




