第9話 フレッシュ! 新学期 その4 〜優斗〜
俺と鏡部は、直緒と友美と別れビラの回収作業に勤しんでいた。
「それにしても、あんな言い訳よく思い付いたものね」
ビラを柱から剥がしながら、鏡部が言う。
「まあ、この時期のビラ剥がしなんて不自然極まりないからな」
「じゃあ、そのまま置いておけばいいのに。こんなほぼ白紙のビラ。誰も気にしないわよ」
鏡部が言うように、俺たちのビラには、A4サイズの紙に大きく「オカルト同好会会員募集」と、表向きはそう書いてあるだけだった。
「ただ、これ以上放置してると、アイツらに細工がバレかねない」
「アイツらってさっきのあの、あなたの彼女さんとそのお友達?」
「そうだ。アイツらが特殊な力を持つ『オモイビト』だ」
「あら、そうだったの」
「それを踏まえた、お前の見立ては?」
「別に、興味なし。だってまだ、彼女たち面白そうじゃなさそうなんですもの。だから、私は面白くなるまで、手は出さないわよ」
「まあ、それでいい」
「でも、私たちは、オモイビトに対抗するための仲間を集めてるんだから、ビラの掲示は長い方がいいんじゃないの?」
「言ったろう? そろそろ、コイツの存在をアイツらに感知される頃合いだ。それに」
俺はそう言って、ビラを持つ手に集中し、力を込める。すると、ビラは小さく黒い炎を纏い、何も書かれていなかった空白に、俺の連絡先が浮かび上がる。
「あら、そんな仕掛けだったの」
鏡部が感心している。
「俺たちは即戦力を求めてる。これくらい、できる程度のな。別に、ここまでできなくとも、細工して書いたこの文字が読めれば、合格にするつもりだった」
「そりゃ、誰も来るわけないわね」
「見つからなければ、今まで通りやるだけさ」
そう言いながら、俺たちはビラを剥がし続ける。
「でも」
「ん?」
鏡部が何か聞きたそうに口を開く。
「でもあなた。また、オモイビトと付き合ってるのね。リスク高いってのに」
「まあな、でも監視するにはもってこいだろう?」
「前もそんなこと言って、失敗して別れてるじゃないの」
「あれは一種の事故だ。憎念を操る精度が上がった今、もうそんな事は起こらない」
「だといいけど」
その後、俺たちは黙々と作業し、貼っていた全てのビラを剥がし終わる。ただ、数えてみると、掲示したはずの枚数から一枚足りなかった。ただ、大学に回収されたんだと思って、さして気に留めなかった。
「結局、今年は誰も入らずってことでいいかしら?」
「まあ、そうなるな」
その時、俺のラインに知らない奴から連絡がきた。名前はジョーカー、アイコンはピエロの画像だ。内容も、初めまして! と送られてきてるだけ。
その時、もしやと思って、俺はそのジョーカーに返信する。
『どうして俺に連絡を?』
『オカルト同好会に入れてもらおうかと思いまして』
『どこで俺の連絡先を知った?』
『どこでって、ビラですよ。』
そう送られてきた後、一枚の画像が送られてきた。
『これで合格ですよね?』
その画像は、壁から剥がされたビラに、俺がさっき浮かび上がらせた黒い文字が浮かび上がっている、というものだった。ビラが一枚たりなくて、俺が文字を浮かび上がらせたビラはここにある。それが意味するものは一つ。
「鏡部、訂正する。今年は入会者いるわ」
「本当?」
鏡部が聞いてくる。
「ああ、本当だ」
そして、俺はそのジョーカーに返信する。
『ああ、合格だ。ようこそオカルト同好会へ。』
期限はギリギリだったが、そんなことは気にしない。なんせ、即戦力になる、新たな仲間ができたのだから。
「さあ、歓迎会の準備だ」