第5話 ふたりは大学生で変身ヒロイン!!! 〜直緒〜
「ストライクファイア!!」
私史上最大の危機、その瞬間に聞こえるのは友美の声。
両手を振り下ろさんとする憎念の攻撃に身構えたそのとき、突如として目の前は炎に包まれ、私の周囲にいた憎念はその炎に焼き尽くされた。
炎の来た方を見つめると、友美が右腕を突き出している。友美はその手を下ろし、私の方へと駆け寄る。
「直緒、大丈夫?」
「ありがとう! 危ないとこだったよ」
あと一瞬でも友美の援護が遅れていたら、私はもうダメだったと思う。
「無事でよかった」
「やっぱ、友ちゃんは強いね。それに比べて私はダメダメだ」
あれだけの力を目の当たりにすると、どうしてもそう思ってしまう自分がいる。
「そんなことない!」
友美は私の言葉を否定する。
「私は直緒を守りたいって想いを形に、力にして放っただけ」
「でもそれは友美だからできただけで、私にはまだ──」
私の弱気を断ち切るように、友美は私の言葉を遮る。
「それは直緒にだってできる! だってそれは、私たちが持つ特別な力だから」
「特別な力?」
「そう。直緒、あなたの想いを力に変えるの!」
「私の……想い」
「今のあなたが心に抱えている想いは何?」
私の想い、それは──。
「私はみんなを守りたい!!」
その瞬間、風に吹かれたように髪の毛が逆立つ。そして、身体の奥底から、いや心の奥底から力が湧き上がってくるのを感じる。心なしか身体もさっきより軽い気がする。
向こうの方にいる憎念たちを眺める。
その景色を見ても私の心に不安感はない。私の心にあるのは、みんなを守るんだという想いだけ。
その想いが私に勇気と力を与えてくれる。
「さあ、行こう!」
みんなを守りたいという想いに身を任せ、飛び出してみて思うのは、やっぱりさっきよりも身体が軽い。足は自分から進みたがってるように力強く大地を踏みしめ、腕は重みが消えたようにスムーズに動く。
おかげで走るスピードも速くなり、接敵も早くなる。
でも、大丈夫。頭に思い描いた通りに動けるから、急減速もお手の物。その行き場を失ったエネルギーは憎念を殴るエネルギーへと変貌し、相手を綺麗に殴り消せる。
身体がしなやかに、そして速く動くようになったから、憎念の攻撃も楽々躱せる!
右肩を相手の攻撃に合わせて引き、身体を捻った勢いで左拳をお返し。
その態勢のまま力を溜めて、一気に解放。
右手が憎念の胴を突き抜け、カウンターも身体のバネを使えるから一撃が重くなる。
迫り来る拳を躱しながら憎念の懐に入り込んで、思い切り掌底を胴の中心へ打ち込む。憎念は周囲の仲間を巻き込みながら吹き飛び、まとめて消滅。
これで大部分は倒せて、残るは四体ほど。そんなとき、私の心の中に攻撃のビジョンが浮かぶ。その景色は見えてはいても中々身体がそう動きそうにない。
でもやらなきゃ。だって、私の心がやれって告げているから!
私は心の示すまま駆け出し、一番手前の憎念に右ストレート。
勢いのまましゃがみ、その隣のやつ目がけてジャンピングアッパー!
態勢を立て直して後ろの奴の肩に飛び乗り、両肩に両足を乗せ、ジャンプする踏み切りに合わせて頭にチョップ!
「とうっ!」
憎念の身体がバキッと悲鳴をあげるのと同時に勢いをつけ、天高く跳び上がる。
両足を振り上げ、飛翔の頂点に合わせ空中で一回転。そこから一気に飛び蹴りの態勢になり、
「ムーンサルトキーック!!」
飛び蹴りの形を保ったまま急降下し、キックはクリティカルヒット。
キックの態勢から起き上がり友美の方を見ると、彼女の周囲で、激しい炎が燃え広がっていたり、雷撃が迸っている。その炎や雷も友美の力で、広い範囲の人魂や化物をまとめて殲滅し終えたみたい。
そんなところで、遠くの方からパトカーのサイレンが聞こえてくる。
「直緒、逃げるよ」
友美に撤退を促され、私たちは急いでその場を離れる。
憎念対策処理班とは、近年の憎念被害の増加に対応すべく、警察内に設立された特殊チーム。彼らは私たちと異なり、想いを具現化させた特殊な力ではなく、現代の科学で憎念と立ち向かう。
そして公的な対応では、憎念の対処は全て対策班が行うことになっている。
だから私たちは彼らと入れ替わりで逃げることにしている。
先程までいた現場から距離を置き、私たちは人気の無いところで変化を解く。
「今日は直緒、なかなかやるじゃん。いい感じ」
友美に褒められて、ちょっと嬉しくなる。
「エヘヘ、ありがとう。あっ、そう言えば、明日の新歓はどうするんだっけ?」
唐突にそのことを思い出し、友美に明日やる予定のサークルの新歓花見について聞く。
「私たちは準備だから、確か開門で場所取りかな。いや、本当悪いね。家近いってだけで準備メンバーにされられちゃって。しかも、下見だけだと思ってたら、明日フルでいてもらうことになっちゃって」
「別にいいよ。八時なら全然余裕。まあ、明日は自転車かなぁ。髪のセットは場所取りしてからしよう」
サー室で花見担当のメンバー決めをしていた時、たまたまその場にいた私は既に担当だった友美と友達ってことと、家が近いっでことで、半ば無理やり場所取りメンバーになってしまった。
「悪いね。私は買い出し担当だから、終わるまでそっち行けなくて。ちょっと気まずいと思うけど、まあ、何とか頑張って」
「別に、みんなの事を嫌いって訳じゃないから大丈夫だよ」
「確か、そのあと二時くらいまでそこに居てもらうんだったよね」
友美の言う通り、私は場所取りして終わりではない。
「うん。でも、一年生の話聞けて新鮮な気分になれるから問題ないよ」
「直緒マジ神。じゃあ、明日頑張ろう」
「うん!頑張ろうね!」
明日から私の大学二年生生活が本格的に始まる!
【次回予告】
新歓当日の朝、直緒はニュースを観ていた。そこでは現代社会を脅かす脅威について語られるのだった。
次回『フレッシュ! 新学期 その1』