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第2話 変身ヒロインでも、合コンくらいするんです その1 ~友美~

 果たして今まで私は、力を手に入れるために何人の男と付き合ってきただろう。


 電車に揺られつり革につかまりながら、そんなことを考えていた。


 炎で一人、雷でまた一人。今は使っていない力も合わせると、その人数は両手では収まらないだろう。というかそれ以上先は数えてないから、正確な人数なんて覚えてない。

 

 有した愛の記憶を力の源にし、想いを様々な属性に変え、それらの力を使い分ける。それがオモイビトとしての私の力。

 そこに気づいたときから、私は恋多き女として生きることにした。まあ、新しい力に目覚めたら、理由をつけてさようならだけど。

 

 ――強くなるために。


 その想いはみんなに傷ついて欲しくないという想いから来ていたことは事実。ただ、現実問題オモイビトとしてそのような力を手に入れてしまった私は、憎念に負けないためにより多くの力を集めるしかなかった。


 使えるカードを増やし、状況に応じて適切に運用する。同じオモイビトだけど直緒とは違う、私だけの力のあり方。


 こんなに感傷に浸ってしまってるのはほどよく混んでる下り電車の中で、真っ赤な西日を浴びてるせいだと思う。

 それに普段絶対に乗らない時間帯の使わない路線。そんな慣れない環境にいることも、物思いにふける原因。乗り過ごすとだるいからスマホに逃避するわけにもいかないしね。


 知らない駅に着き、アナウンスが流れる。それを聞いて路線図で現在位置を確認し、乗り換えアプリとにらめっこ。そして目的駅との距離の遠さを再確認して溜息一つ。


 今日の目的は親睦会という名の合コン。イロハ内の同好会テニスしてて、たまたまコートが隣合っただけで意気投合。そのままのノリで飲み会の開催が決まった。

 人の予定もお構いなしに。


 正直参加するとは言ったけど、こうして現場に向かう今でも面倒くさい。でも参加費が安かったのと、まだ見ぬ出会いに可能性を感じて参加することにした。


 ――オモイビトとしての新しい力の可能性に。


 「次はTセンター」


 ようやっと目的駅に着く。


 「さぁ、戦いの始まり」


 そうつぶやき、気合いを入れて、開催場所の居酒屋へ向かう。

 


*     


 居酒屋の十四人がけ大テーブル。座るメンツの前には色とりどりのドリンクが置かれている。よく言えば個性的、統一感なんて存在しない。男性陣はとりあえず生な感じだけど、女性陣はほんとにバラバラ。特に私なんか一人だけウーロン茶を頼んでいる。


 うちの一女から「先輩飲まないんですか?」と言わんばかりの目線が飛んできてるけど別にそんなのどうでもいい。


 今日はどうしても相手を見定めしなきゃいけない。だからこの前みたいに記憶を飛ばすまで飲むつもりもない。

 

 何しでかすかと、何されるかわかんないし。


 向かい合って座るのは、M大テニサーの面々と私を含むC大イロハのテニス同好会。M大側が一席だけ空いてるのがちょっと気になる。


 だけど、


「こっち一人遅れてくるけど先始めてていいって」

「じゃあ飲み物そろったし始めようか」

 

 お構いなしに始まるらしい。

 そしてうちの同好会長、一個上の九頭さんが音頭を取り、


「それじゃ、乾杯!」

「乾杯!」


 と一同声を揃え、グラスをぶつけ合い、飲み会は始まる。


 今日はインカレ飲み会、つまるところば合コン。この前のテニスのとき、コートが隣合っただけで意気投合し、飲み会をすることになった。


 ほんと、同じ大学生の私から見てもその行動力には呆れる。


 乾杯も終わり、個々人が自由に動き始める。男性陣は各々お通しを食べながら談笑し、女性陣はサラダなんかを取り分けたりしてる。私はウーロン茶飲みながらそれを眺めてるだけだけど。


 うちの一年生のマネの一人が頼まれてもないのに、真っ先に同好会長にサラダを取り分けてる。仕事ができる子なのか、それとも近づきたいだけなのか。

 この前の件も含めて、私が思うに多分後者だろうけど。


そんな中、


「自己紹介ー!」


 どこからかそんな声がする。合コンらしくなってきた。だけどこの段階になって、どちらの陣営から始めるか譲り合いになってる。


 積極的にやるか、決めとけよ。

 お互い髪も染めてて、頑張ってオシャレして、積極性の塊みたいな雰囲気だしてるんだからさ。


 そんなごたごたをしり目に取り分けたサラダを食べる。意外にドレッシングがおいしい。


 あそこで言い争ってるM大の彼には悪いが、そんなんだと私の心はピクリともなびかない。現時点ではドレッシングに軍配が上がっている。


 そんなごたごたがありつつも、M大側から自己紹介が始まる。


 名前、趣味、その辺を言う、物凄いオーソドックスなやつ。

 時々内輪ネタが挟まり、酒の入った男連中はみな笑っているけど、正直笑えない。


 途中で店員が持って来た明太ポテトの方が興味をそそられるってどういう事態なわけ?


 言っちゃ悪いけど、その後も印象に残らない自己紹介がまあ続く。張り切り過ぎというか空回ってるというか。印象に残ったのは髪型と髪色くらい。

 むしろ向こうの女性陣の方が場慣れしてる感じがして、聞いてて面白い。


 でもそれじゃ意味ないんだけど。


 なんかドレッシングの彼と同じで、他の男性諸君も全く私の琴線に触れない。だって、全く本人の人となりが見えてこないから。

 張り切りたいのは分かるけど、もうちょい自然体でいて欲しい。

 

 まだ見ぬ一人の自己紹介をすっ飛ばして、C大のターン。向こうサイドと同じようにしょーもない自己紹介が場の雰囲気で盛り上がって順番が進んでくる。

 ついに私の番。


「C大二年法学部の土方友美。趣味は大体何でも。あとただのマネージャーなんで」


 必要最低限を淡々と。超絶省エネで済ませる。


「つまんな!」


 健から野次が飛んでくる。


 うるさい。つまんなくていいの。


 正直もう帰りたい。でも、残り時間があと一時間半もある。

 ぐっだぐだの自己紹介でそこそこ時間くったと思ったけど、まだ全然経ってない。どうすんだこれ。

 

「ねえ、友美ちゃんってさぁ、バイト何してるん?」


 目の前の男が私に話を振ってくる。

 名前は……、なんだっけな。彼の自己紹介、店員がフライドポテトを持ってくるタイミングと被ったせいで全然聞いてなかった。

 ポテト君でいいか。


「家の近所で居酒屋のバイト」

「どこのチェーン?」

「黒黄屋」

「ああ! あの制服だっさいとこね! 何で? もっとマシなとこあったんじゃないの?」


 ダサいのは私も認める。だけど,マシなとこなかったのかって、働いてる本人の前でそれ言う? 


「家の近く、他にあんましバイトできるとこなかったから」

「どんな田舎よ!」


 ポテト君はめちゃめちゃ笑いながら、そう言ってくる。若干アルコールが回ってきたのか、笑い声がデカい。そのおかげで心底馬鹿にされてる気がしてしかたない。


 違う。そういう意味じゃねーんだよ。


「選択肢がなかったの」

「要は近所にお店無いんでしょ? 分かってるって!」


 まーだ笑ってる。自分で言ってツボに入ったのか、手まで叩いて笑ってる。


 分かってないっての。人の話を聞け。


 ポテト君のジョッキ、よくよく見たら中身はもう空。ほぼイッキ飲み。そりゃ、めんどくさいわけだよ。


「俺の地元もそこそこ田舎だけど、流石にそんなんじゃなかったわ!」

「あっそ」

「すいません、生お代わり! いやね? 地元、各停しか電車止まらないけど、そこまで田舎じゃないし。コンビニとか密集して三軒あるし、居酒屋もバーキンとかマックとか――」


 聞いてもないことをべらべらと矢継ぎ早に話してくる。


 知らないし。興味もないし。住んでるとこは田舎じゃない。


 何でか知らないけど、近所のどこの店も金髪はちょっと……、とかって言われて落とされた。だから唯一頭髪自由だった黒黄屋で働いてる。


 そう言いたかった。


 だけど向こうの喋りが一方的過ぎて、私の話を割り込ませる隙も無い。

 飲んで喋って、喋りながらまた飲んで。飲む量に比例して、声のトーンもボリュームも量も増えてゆく。中身はどんどん減ってくけど。


「君も、友美ちゃんの地元が田舎だと思わない?」


 唐突に私の隣の一年生に話の矛先が向く。


「え、ええ……」


 軽く引いちゃってるじゃん。


「だよね!」


 だよね! じゃない、この酔っ払い。


 周りをよく見ろと言いたい。でもどうしようもないから、ポテト君の話を聞き流しながらひたすらウーロン茶を飲む。

 赤いストローから口を離さず、ちびちびと。


 ストロー加えて虚空を見つめ、相槌を適当に打ちながら話を聞き流す。私の田舎いじりは終わって話題は移ろうけど、相変わらず自分のことしか話さない。


 バイト遍歴だの、そこで同僚と付き合っただの、最近別れただの、どーだっていい。

 ただ別れたって聞いて、だろうなとは思った。

 

 いつの間にかにウーロン茶は三杯目が終わりそう。

 ポテト君の単独ライブが始まってどれだけ経ったか、机の下でちらっと腕時計を確認。

 

 自己紹介から経過すること三十分。もう一時間くらい喋ってるかと思ったけど、全然そんなことはなかった。

 でもまあ、この単独ライブを三十分続けてることも驚きだけど、正直な話ところ合コン自体があと一時間残ってることの方がびっくり。

 

 もう、うんざり。まだ来ないあと一人に期待するしかない。

 ただ、期待に想いを馳せて、話に耐えつつこの場にいるのはちょっと限界。

 

 んーと、トイレは……、あっちか。


 話の流れをぶった切って、


「お手洗い」


 とだけ言い残し、トイレに向かう。個室に籠って、スマホを手に取り、タイムラインをダーッと漁る。

 そうしていると、あっという間に十分過ぎてる。

 今日一番有意義な十分を過ごし、手を洗って席に戻る。


 席に戻るや否や、健がにっこり笑いながら笑顔でジョッキを突き付けてくる。


「おかえりー! はいこれ飲んで」


 その大ジョッキにはよく分からない飲み物がなみなみと入ってる。多分ハイボールっぽいけど、明らかに色が濃い。

 見ただけで頼んだ人間の意図が分かる。


 誰さ。こんなん頼んで、私を潰そうとしてる奴は。


「いや、私頼んでないし」

「九頭さんが、友美飲んでないっぽいって言うからさ」


 あの野郎、余計なお世話よ!


「私の分、もうあるし」

「のーめ! のーめ!」


 首謀者が呑気に煽ってくる。私の言い分もお構いなしに。


「絶対イヤ」

「のーめ!」

「のーめ!」


 そんな二人の煽りにうんざりしていると、


「氷室遅い!」


 とポテト君が誰かを呼ぶ声がする。

 その声にみんなつられて、私への強要もストップ。絶好のタイミングで待ち人が来た。


「悪いな」


 仲間から氷室と呼ばれたその男。確か、あのときのテニスコートにはいなかったはず。


 今日が初対面のその人は細身で私よりも背が高く、銀縁眼鏡がよく似合ってるな、ってのが第一印象。

 目つきはちょっとキツめだけど、二重だし鼻も高い。髪は染めてなくて、テカらない程度にワックスで整えてある程度。

 総評すれば、この場に満ち満ちているチャラさとは無縁の好青年。


 目つきこそ悪いけど、この有象無象たちよりかなり良さげな優男。普通にアリだな、とは思った。


 でも、そのちょっといい感じの雰囲気を上書きするほどに、ダルいという感じを全身に纏っている。

  

「飲み物と自己紹介よっろしく!」


 話題は完全に彼へと移り、健はジョッキを机の上へ下ろす。


 とりあえず、私の危機は去ったようで一安心。


 酔いも少し回りめんどくさい感じの振り。その話題の主は溜息一つ吐き、うんざりという文字を顔に浮かべながら応える。


「M大三年の氷室誠。趣味は映画。マネージャーしてるけど、今日は数合わせで呼ばれただけなんで」


 纏ったダルさそのままの飾り気の全くない正直な挨拶。『無理やり来させられました』という思いが包み隠さず伝わってくる。


 盛り上がってた空気はどこへやら。瞬時に場が凍り、この卓全体の時が止まる。

 飲んでないからアレだけど、飲んでたら酔いも醒めてると思う。


 このメンツで一番マシそうかと思ったけど、一番ヤバい奴かもしれない。直感がそう告げている。一瞬だけでもちょっとアリかも、って思った私の想いを返してほしい。


 まぁとにかく、これで向こうも全員揃った。


 だけども一個言わせてほしい。


 そっちのサークル。マシな男はいないのか。


 そんな私の想いなんて知る由もない氷室さんは、凍った空気なんてお構いなしに、


「飲み物は、それ。誰も飲まないなら貰う」

「あ、ああ……」


 私に向けられようとしていた大ジョッキをひったくり、空席にふんぞり返るように腰かけ、一人で黙々と料理を取り分けている。


「マジこの空気どうすんだよ……」

 

 誰かがボソッと呟く。


 知らん。


「みんなごめんね。こんなの呼んじゃって」


 こんなの扱いは流石に酷すぎるでしょ。呼んだ以上は責任もってあげなさいよ、かわいそうに。


 彼の登場でヤバい雰囲気の合コンが別の意味でやばくなった。まるでお通夜。

 もはやここは良さげな人を探どころじゃない。


 冷えきった空気は完全には戻らず、氷室さん以外は明らかにぎこちなくなってる。当の本人はまるで知らん顔。

 自宅にいるようにチャーハンにがっついて、ハイボールを飲み、誰も触れなかった最後の一個たちをかっさらっていく。

 

 でも顔だけは誰よりもかっこいいってのが、これまた質が悪いというかなんというか。

 その外見に釣られたチャレンジャーの一女が彼に話かけてみるけど、睨み返すようにその子を見返し、返答もぶっきらぼうにただ一言だけ。


 話しかけるなオーラがどんどん高まってゆく。

 一応この場は合コンのはずなのに。


 彼は何しに来たんだろう。マジでご飯食べに来ただけなんじゃなかろうか。


 その後も彼は己が道を突っ走り続け、誰も寄せ付けないまま残り時間を過ごし続けた。

 M大の男たちは彼にとんでもない視線を向けているが、周りの目を気にしないその胆力は正直羨ましいとさえ思う。


 地獄のような残り時間を適当に過ごしていると、飲み放題のラストオーダーも過ぎ、過去一酷い合コンがようやく終わる。

 

 さっさと荷物をまとめ、幹事にお金を渡し店を出る。


 店を出ると間髪入れずに、


「二次会行く人ー!」


 というお決まりの掛け声。

 ただ、私は二次会行くと終電がなくなる。


 だから、


「私帰るから、お疲れさまです」


 と言って帰ろうとしたそのとき、


「え、友美は来なきゃダメっしょ!」


 という同好会長の声がする。


 は?


「みんなお前のこと待ってるし」


 知らん。


「お前が来なきゃ始まらんのよ」

「終電なくなる」

「大丈夫っしょ」

「いや大丈夫じゃないから」

「へーき、へーき、そんときは俺んち泊めてやるから」


 欲が漏れてんだよこの酔っ払い。


「いやだ」


 そんな無意味な問答をしていると、


「帰らせてやれよ」


 と氷室さんが割って入る。


「どうせ二次会来ないお前に関係ねーだろ」

「なら二次会行かない彼女にも関係ないだろう」

「正義の味方気取り? アイツにいいとこ見せたいだけだろ」

「正直、誰を庇おうなんてのはどうでもいい。ただ個人的に強要とか無理強いする奴、大嫌いなんだよ」

「偽善者が」

「どうとでも言え」


 どストレートに庇ってくれるなぁ。どうでもいいってのが無ければもっと良かったんだけど。

 でも空気を読まないだけの変わった奴だとは思ったけど、ちょっといいとこあるじゃん。

 

「ありがと、それじゃ」


 そう彼にお礼を残し、その場からそそくさと離脱。さっさと駅へと向かう。


 キツイところから解放され、清々しい気持ちで駅に向かって歩いているその最中、心の中に黒い嫌なものを感じる。


 ――憎念だ。


 もう最悪! 一難去ってまた一難じゃん!!


 飲んでないだけマシだけど、終電間に合うか? 最悪、警察に押し付ける? 


 でも東京の対策班はいつも対応が遅い。それに障壁があって手が届かないならまだしも、目の前で傷つけられそうな人を見捨てるの?


 私の中でどうすべきかの結論は出てるはず。


「やらなきゃ」


 とりあえず警察の対策班が来るまでは、私が引き受ける。

 

 だって、これ以上誰にも傷ついてほしくないから。


【次回予告】

過去一酷かった。そう思うような合コンを抜け友美は力のおかげもあり、人々を守るため清々しい気分で憎念と戦う。

しかし、戦いの最中思いがけない奴らが割り込んでくる。


次回『変身ヒロインでも、合コンくらいするんです その2』



お読みくださりありがとうございます!

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