第4話 ふたりは変身ヒロイン!! 〜直緒〜
私たちは大学の桜広場から現場までそのまま走って向かう。
「見えたよ!どうやらアレみたい」
友美が指差す方向を見ると黒く燃えている人型の化物や、黒く燃える人魂が大量に存在している。その化物や人魂が『憎念』。
人間の持つ強い負の感情が、本人から切り離され、何人分も集まって、実体化したもの。それが憎念。あの人魂や燃える化物は、誰かのマイナスの感情が集まってできている。
「誰にも……見られてなさそうね。よし、直緒!とっとと力を身に纏うわよ!」
「分かった!」
友美に促され力を纏おうとするけど、見ると相手がいっぱいいる。私は相手する憎念の量に少し不安になる。
「大丈夫かなぁ」
その不安な気持ちがボソッと漏れてしまった。それを聞いてたらしい友美は私の肩にポンと手を置き、にこやかに言う。
「たとえ不安だったとしても、大丈夫って思うことが大事」
「そうだったね」
「それに私もついてる」
なんと頼もしい言葉だろう。友美に元気づけられたおかげで、やれる気がしてくる。
友美が周囲を確認し、私に合図を出す。
それと同時に、私は左手を胸に当て、右手をその上に被せ、被せた右手を斜め上に突き出す。胸の中心から肩を回り手の甲まで光のラインが両手に伸びる。そして、胸に当ててる左手を伸ばしながら両手を下ろし、身体の前で両手をクロスさせこう叫ぶ。
「情愛変化!」
こうして私は、私たちが持つ憎念に対抗しうる力を纏う。
私たちが、持つ憎念に対抗しうる不思議な力。それは憎念とは反対の、正の感情の『愛の力』。その愛を力の源にして、私たちが抱く様々な『想い』を具現化させ身に纏う。
同時に、隣に並ぶ友美も光のラインが入った左手を胸に当て、右手を水平に突き出し半円を描くよう左手のところに持っていき、両手でハートを作る。そのハートを身体の前に突き出し、身体を抱きしめるよう一気に両肩を掴みポーズを決め、私と同じセリフを言って力を纏う。
力を纏った私たちの服装はお互いに、春のキャンパス生らしい服装から、大きく変化する。
友美は身体のラインを強調するような半透明のボディスーツをベースに胸部、肩、腕、手、腰、脚部に、カッコよくて動きを阻害しない白色の装甲を纏っている。
装甲の爪は鋭く尖っていて、それぞれの指に赤、黄色、緑、グレーの色のマニキュアみたい。
友美自身のスタイルの良さもあり、変身した姿は目のやり場に困っちゃうくらいの魅力を醸し出している。
一方私は、何だろう……なんて言えばいいのかな。黒にピンクのラインが入ったラバースーツを全身に纏い、胸、肩、腕、手、腰、脚部を小さな男の子が好きそうな特撮ヒーローっぽい装甲が覆う。
装甲自体には黒をベースにピンクの縁取りがなされ、柔道の胴着を思わせるような装飾が施されている。腰部にはこれまたピンクのリボンが巻かれているけど、完全に柔道の結び方だ。
そしてお互い、装備の胸のところに、宝石のような、輝く石がはめ込まれ、それを覆うような装甲が出来る。
「お互い準備はできたようね」
「さあ、行こう!」
「ああ、ちょっと!」
さあ、頑張ってみんなを守らなくちゃ。
そう思い、私は友美の制止を振り切り憎念たちに向かってゆく。
この場でまず目に飛び込んで来るのはそこら中に浮かんだり、地面にあったりする、黒い人魂。この人魂は力を纏って触れば、簡単に消滅する。
人魂を捌いていると、目の前に黒く燃える人型の憎念が近づいてくる。先輩とカフェにいたときに現れた奴ら。
向かって走ると距離が近づき、接敵の瞬間が刻一刻と迫る。一歩、また一歩と近づく。そして、互いの間合いに私の左足が踏み込む。
同時に拳を固く握り締め、左手を憎念に向かって突き出す。拳に力を纏わせながら振りかぶり、殴る相手をギッと見つめ、
「うりゃあああ!」
と私は力の限りの一撃をぶつける。
拳が憎念に触れた瞬間、何かにヒビが入るような音がしてそいつは綺麗さっぱり消滅する。
「よし、この調子」
私は一撃で倒せたことに喜んで小声でそう呟き、小さくガッツポーズ。気分もアガり、寄り付いてくる憎念に対応するため、両手両足にエネルギーを集中させ構え直す。
「たぁ!」
敵の左頬に右ストレート一発。その後ろの奴のみぞおちに左拳を滑り込ませて消滅させ、
「ふっ!」
身体を捻りつつ左にいた奴をチョップ。その体制のまま右手に左手を添えて後方へ肘打ち。後ろにいた奴の胸部を砕き、走り寄ってくる憎念の頭部を蹴り上げて倒す。
今日は技のキレも威力もある! これならもっといける!
憎念の拳をよく見て、身を引き避ける。続けて向かってくる拳を潜って、アッパーカット。
そのとき視界の端に足。咄嗟に腕を差し出し装甲で受ける。
響く衝突音。腕にガツンとのしかかる衝撃。痺れる左手。
「ぐっ」
瞬間、背中に鈍い音と鋭い痛み。
死角から殴られ、そのままベタンと倒れこむ。
やばっ!
危険を感じ、横にグルっと寝返り。
今いた所に憎念が腕を振り下ろす。地面が割れ、コンクリ片が舞う。
すんでのところで追撃回避。
でも敵陣のど真ん中で憎念に囲まれながら、無防備に寝そべってるのは変わらない。
この状況、誰がどう見たってヤバい。
もう一回寝返りうちながら、その場に立ち上がる。
どう――
思考に割り込むように憎念の殴打。それを両手で受け止め、フルスイングでぶん投げる。
息が苦しい。脇腹もさっきの背中もズキズキと痛む。
ううっ……、どうすればいいの? 調子に乗り過ぎたせいとはいえ、マズい!
そんな私を後目にジリジリと確実に詰め寄ってくる憎念たち。導火線の炎のように恐怖がにじり寄ってくる。
一番近い奴が私を壊すべく両手を振り上げる。
私史上最大の危機! どうなる私の大学生活!?
【次回予告】
少し調子に乗りすぎて窮地に陥る直緒。そんな直緒を救ったのは共に戦う仲間の友美の『想いの力』だった。
友美は尋ねる。
「今のあなたが心に抱えている想いは何?」
次回『ふたりは大学生で変身ヒロイン!!!』