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第2話 初めての変身!  〜直緒&優斗〜

今回の話では一話の中に、サブタイトルにある二人分の視点が入ります。

視点切り替わりの際には〔○○視点〕とその主観者の名前を表記しておりますので、その点ご留意ください。

 〔直緒視点〕


 先輩が私をからかって笑っているそのとき、近くでとてつもない轟音がする。今までの人生で聞いたことの無いくらいの轟音。

 耳鳴りがして自分の声を聞き取ることすらままならない。


 そしてガソリンや、何かが焦げるような嫌な臭い。ケーキや紅茶のいい香りとは対極の悪臭。


 音がした方を見ると、その先は木々が立ち並んでいて直接は見えない。だけどその木々よりも高く黒い炎があがり、煙も立ち昇る。


「何が起きたんですか?」

「爆発だ!」


 爆発?! 目の前の現実を受け止められない。

 私がその場で狼狽えていると、爆発のした方から人々が逃げ出してくる。



 平和そのものだった公園は一気に阿鼻叫喚の地獄へと変貌する。足がすくんで動かない私と、その場から微動だにしない先輩を除き、みな一目散にその場から逃げる。

 しかも、みんなパニックになっていて、ここのカフェの机と椅子にぶつかったり転んだり。逃げる方も酷い光景になってる。


「直緒、ここは危ないから早く逃げろ!」


 先輩が私の身を案じて言ってくれる。


「じゃあ、先輩も一緒に逃げましょう!」


 一緒に逃げようと思っていた私に対して、先輩はこう返す。


「俺はやることがある。だから、一人で逃げろ!」


 なんで……? どうして残るんですか?


「やることって何ですか! ここにいたら、先輩死んじゃいますよ! だから、だから!!!」

「ごちゃごちゃうっせぇんだよ!! 早く逃げろっつてんのがわかんねぇのか!!」


 先輩の怒号にも似た声が飛んでくる。それを聞いた私は先輩の凄みとこの異常事態に恐怖し、へこたれてその場に膝から崩れ落ちる。


  先輩は大丈夫なんて言ってるけど、絶対そんなことない。


 下を向いた頭を上げ、先輩の方をもう一度見ると、煙に覆われた木々の間から何がが出てくる。

 それは、170センチメートルくらいの、胴体と頭部と四肢があるけど、顔の無い黒い塊。間違いない、憎念だ。


 そんな、黒いマネキンみたいな奴らが木々の間から、一体、また一体、とぞろぞろ途切れずに出てくる。


 それらが歩いた足跡は黒く燃えている。一歩、また一歩踏み出すたび、足元の青くなり始めの芝が黒く燃えてゆく。


「チッ、来やがったか。おい、直緒! そんなとこでへこたれてないで、さっさと逃げろ!」

「でも、私は先輩と逃げたいんです!!」

「俺はあの実体を何とかするから、早く立って、一人で逃げてくれ!」


 何とかする?! 一体どうやって!


「無茶ですよ!」

「おい、いつまでそこで喚くつもりだ? 邪魔なんだよ。早く立って、とっとと失せろ」


 この非常時に先輩はとても落ち着いたトーンで言う。先輩の目はどこまでも真っ暗で、見られている私が凍りつきそうなほど冷たかった。


 私は先輩のことが好きだから、傷ついて欲しくない。一緒に逃げたい。


 でも、それは叶いそうもない。先輩は私にだけ逃げろと言い、この場を離れようとしてくれない。

 先輩がこの場をどうしても離れてくれないというのなら──


 私は先輩を、大好きな人を、アイツらから守りたい!


 でも、今の私にはその力がない。足も竦み、自分の身すら守れそうにない。そんな私が一体どうしたら、先輩を守れるというの?

 動けない私を尻目に、アイツらはどんどん先輩の方へ近づく。


「どうして、どうして……、私は何もできないの?」


 この状況に、何もすることができない私はもどかしさから左手を握り締め、それを地面に振り下ろす。

 悔しさのあまり目から涙が零れ落ち、その涙が左手の甲に触れる。


 その瞬間、左手の握りしめた指の隙間から眩い光が漏れ出し始める。


 それに気づいた私は握り拳を開いて、その中を見る。


 その中には、混じり気なく透き通り、強く光り輝く、色の付いていない綺麗なハート型の石。


『いや、君には力がある』


 頭の中に声が響く。それは私の声そのものだった。


「一体……何?」

『私は君さ。正確には君の心の声とでも言っておこうか』

「私の心の声?」

『信じるも信じないも勝手。だけど、君には遂げたい想いがあるんじゃないか?』


 そうだ、私は先輩を!


「でも、私は無力で!」

『だから言っているであろう。力はその手の中にある』


 この石が力……?


『その石は君の心の具現化。輝く光は心に秘めたる「想いの力」。そして、その力を解放する鍵は、自分の想いに素直になること』

「どうして私が?」

『君が純粋でそして、具現化するほどの強い想いの持ち主だからだ』

「どうすればいいの?」

『あとは、自分のその想いに素直になるだけ。さすれば、想いの力を身にまとい、奴らと、負の感情が具現化した存在の憎念と戦う力を得られる』


 それなら、私のすることは一つ。想いの力を形にして先輩を守る、ただそれだけ。


『ただ、一つ言っておく。具現化した強い想いは同じように強い想いを引き寄せる。いい想いも、悪い想いも。だから、一度その想いの力を身にまとったら、憎念と戦い続けなければならない』

「それでも私は戦う!」


 だって、私の想いはただ一つ。


 ── 先輩のことが好きだから!!


 そう心の中で強く思うと、左手のハート型の石はまるで溶けるようにして、光を放ちながら左手に飲み込まれる。


 その石が完全に飲み込まれると、そのまま左手が輝き出す。


 冷たく不安だった心の中も、お日様の光に照らされたように暖かくなる。

 そして足にも力が入るようになり、立ち上がれる。


 立ち上がって左手を見てみると、手にはハート型の光が浮かんでいる。さらに左手の薬指を始点に光の線が腕の外側を通り肩へ、そして大きくカーブしてこれまたハート型に輝く、胸の中心に繋がる。


 その光の線は服の上からでもハッキリと視認できる不思議なライン。


 そしてこの後何をすればいいか。それは私の心が教えてくれる! 心に浮かんでいる衝動に身を任せ、逆らわずに身体を動かせばいい!


 私は衝動に身を任せ、左手のひらを光り輝く胸の中央に当てる。そして、その左手の上に右手を被せ、その右手を左上へ突き出す。そうすると、右手にも同じように光のラインが浮かび上がる。そして、そのまま両手をその位置でクロスさせたまま、少し静止してこう言う。


「形を変えろ、この想い!」


 右手をピンと伸ばしたまま左下方へ、左手を伸ばしながら右下方へ、両手の交差を保ったまま下ろし、心に浮かんだ言葉をそのまま叫ぶ。


情愛変化(じょうあいへんげ)!!!」


 そう叫ぶと間もなく光のラインが広がって全身を埋め尽くし、私は眩い光に包まれる。


 そのまま私は間髪入れずに、先輩を取り囲んでいる怪物の元へ駆ける。


先輩を守りたい、その想いが身体を突き動かす。

 先輩を取り囲んでる怪物は三体!


「直緒?!」


 先輩の声を背中に受けながら、一番近いヤツをぶん殴り、


「ふんっ!」


 同じヤツの胸部めがけ続けざまにもう一撃!


 すると怪物の身体がガラスのようにひび割れ、砕け散る。


 怪物が砕け終わる前に次の相手を睨み、そいつをつま先で蹴り壊す。

 先輩を取り巻く怪物はあと一体。

 

 心の思い描くままにその場で跳び上がる。先輩の背丈を軽く超え、自分でもびっくりするほど高く。


 でも驚いてなんていられない。だって、残るアイツを倒さなきゃいけないから。


 先輩を──、


 「大好きな先輩を」


 お前らなんかに!


「傷つけさせてなるものかぁあああ!!!」


 左足を引き右足を伸ばし勢いに任せ、残る怪物の腹部を蹴り抜き倒す。


 ──その瞬間、私の大学生活は大きく変わることとなった。





 〔優斗視点〕


  直緒が光を放って変身し、怪物に立ち向かい、なぎ倒してゆく。


 クソッ。あの女。適当におだてておけば俺の言うことを聞く単純な女だったはずだろう?


 だから今日の「実験」の邪魔にもならないと思ってこの場に呼んだというのに。


 適当に持ち上げ、キリのいいタイミング──まさに怪物が襲撃してくるそのタイミング──で逃げさせて、あの怪物を俺の制御下に置き、使役し、事態を終息させる。言わば自作自演の実験をするはずだった。


 まったく、この俺の計画をどうしてくれる。


 だがそんなアイツも「実験」のキーになる以上、必要な存在。そして利用するには丁度よい存在だった。


 誰よりも純粋な強い想いを持ち、なおかつその想いが俺に向いてる。だから制御も楽。

 あの怪物を、言い換えれば強い負の想いの集合体である『憎念』を呼び寄せるエサとして、これほどの適任者は他にいない。ゆえにこの場に必要だった。


 しかし、そのエサが思いもよらぬ方向に化けた。


 俺への強すぎる純粋な想いが、ヤツを「オモイビト」として覚醒させ、力を与えた。

 結果、実験はおじゃんになったが、もはやそんな事はどうでもいい。


 俺の野望の駒として利用できれば利用し、歯向かってくるようであれば全力で排除する。


 俺にとって都合のいい女になるか、それとも立ち塞がる障壁となるか。それを近くでじっくりと見極めるとしよう。


 ──あいつの「恋人」として。そして、憎念を統べる者として。





【次回予告】

デート、そして憎念の襲撃から一ヶ月。直緒は友人の友美と共に大学の桜広場を訪れていた。あることをするために。


次回『ふたりは大学生!』

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