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コンセプト1「小人から巨人まで使えるゲームコイン」8

「アステリオ社長。本当にあんな弱小デザイン事務所に期待しているんですか?」

「元々失敗することが前提の要求です。成功すれば儲けものといったところですよ。」

「どうしてそんな博打を?」

「面白くないですか?」


女性の名はカタリーナ・オークランス。

小型種族ではやや大型に分類される小人族の女性だ。

森での生活に飽きて飛び出し、都会で就職したこの世界では実にありふれた物語だ。

現在はアステリオのもとで秘書をしている。


カタリーナの常識では損にしかならなさそうな今回の案件。

この外見とは裏腹に随分と子供っぽい中身を持つ上司は時折こうやって暴走する。

そして結構な確率でその暴走はうまくいく。

長年アステリオの秘書を務めている彼女だが、この暴走を諫めるべきか放置するべきかさっぱり分からなかった。


「面白さ……ですか?」

「そうです。あなたなら多種族に対応したトイレを作る時どうしますか?」

「普通に大きさの違うトイレを並べれば良くないでしょうか?」

「それが一般的だし、200年の歴史で有効性も示されています。それを彼女たちはそれ以上のものを目指した。普通はそんなこと考えもしない。」

「ですが失敗しています。」

「失敗するから挑戦しないのですか? 成功するかもしれないのに?」

「それは……。」

「ゲームコインを依頼する時もそうです。あれは本気で世界を変えようとしている。こんなに面白いのなら、依頼料程度いくらでもくれてやる。」

「そういうものですか……。」

「そういうものです。」


ミノタウロス族特有のくぐもった含み笑いがとあるビルの一室に響く。

秘書の女性が訝しげな目で見ようと気にも留めない。

ひとしきり笑い終えた後、フリックボールを中指で回転させメールをチェックする。

マウスに比較してフリックボールは例え指が1本だろうと使用できるメリットがある。

愛用している種族は多い。

日々大量に届く新着メールをざっくりと仕訳けていくウチに件のデザイン事務所からの新着メールがあることに気が付いた。

他のすべてを捨て置き、早速メールに目を通す。

そして実に楽しそうに口角を吊り上げた。


「噂をすれば……というやつですね。彼女たちからデザインが完成したと連絡が来ました。3時間ほど外出します。あなたも着いてきなさい。」

「お待ちください。2時間後に重役会議が……。」

「人形でも置いておきなさい。必要ならネット会議で参加します。」

「……承知致しました。」


角用に穴が開いた帽子をかぶり薄手のロングコートを羽織る。

手早く身支度を整えると、諦観した様子のカタリーナを肩に載せ部屋を後にした。





「お待ちしておりましたアステリオさん。」

「言われたとおり、私の他に小型種族の社員を連れてきましたよ。」

「ありがとうございます。やはり実際に使っていただくのが一番だと思うんです。」

「ああ、そういう理由だったんですね。はじめまして、秘書のカタリーナと申します。」

「これはご丁寧に。」


有限会社ファンタジーデザイン事務所内。

応接用の机の上にボードゲーム「ラビリントス」を展開し、アステリオを招いた。

ニコニコと好々爺もかくやといった笑顔を浮かべるアステリオを見て、一瞬秘書が瞠目したが、何だったのだろう……?


さて、百聞は一見にしかず。習うより慣れろとはよく言ったものだ。

デザインの有用性は実際に使ってみるのが一番。

というわけで今ここには小人族のカタリーナ、人族たる私達、ミノタウロス族たるアステリオの3種族が揃った。

今までであればこんなメンツで同じゲームをしようなど自殺行為。

ゲームコインに小人族が埋もれたり、ミノタウロス族が紛失したりと悲惨な未来が目に見えていた。

でも今日は違う。今日こそ違う。今日からは違う。


量産した試作品を眼前に並べる。

その数およそ100枚。これだけあればどんなゲームでも十分対応できる。

主に魔力を振り絞ったユニの、汗と努力とエンゲル係数の結晶だ。


「試作91号。「グラスホッパー」です。どうぞ手に取ってご覧ください。」

「では失礼して。」


アステリオとカタリーナがそれぞれコインを手にとって眺める。


「見た目は少々分厚いプラスチック製のゲームコインですね。それに軽い。」

「老眼の私には少々荷が勝ちすぎているようです。果たしてこれが本当に……?」


小人族のカタリーナには概ね好評だが、ミノタウロス族のアステリオにはやはり無理がありそうだ。


「もちろん今から実演いたしますよ……の前に、簡単にこの試作品に行き着いた経緯をご紹介しても?」

「もちろんです。面白そうです。」

「ありがとうございます。まず、私達が最初に考えたのはこれでした。」


圧縮タオルを机上に置く。

それにカタリーナが食いついた。


「圧縮タオルですね。テーブルふきに愛用しています。」

「はい。便利ですよね。濡らすだけで小さなタブレットが布になる。」

「なるほどこの特性を利用したのがこのゲームコインと。」

「違います。」


バシャーっとコップから圧縮タオルに水をかける。

当然のごとくボードゲームは水浸しだ。


「あらー……。」


カタリーナが呆然とした感嘆符をもらす。


「このように、紙製の製品が多く含まれるボードゲームに水は不向きです。ユニ。」

「おおう、我が妹ながら姉をこき使いやがって……。」

「ユニ、早く。」

「はいはーいっと。」


ユニがボード裏の魔法陣に魔力を込めると、ボードゲームを浸水させていた水分は時計を巻き戻すかのようにコップに収まった。


「その他にもいくつか水を利用したデザイン案を出したのですが、どれもこれもボードゲームには不向きと結論がでました。」


テーブルの横に試作品を積み上げる。

水を使用したタイプの試作品は10個程度、全て実用に耐えうる物ではなかった。

最大の問題は……水と強度だ。


「一般家庭に通常存在する水。しかしながらゲームのたびに水を汲んで捨てて……。ただのゲームコインにそこまでの手間をかけるでしょうか……?」

「確かに私は嫌ですね。使っているうちに水が汚れそうですし。」

「なるほど、衛生面でもよろしくないですね。」


カタリーナが発言する。

確かに1週間もすればコインから異臭がしてくるだろう。

そういえば気にしていなかった。

秘書であるカタリーナだからこそ気がついた点だろう。

決して私達の女子力が低かったとかではなく。

決して私達の女子力が低かったとかではなく。


「カタリーナさん、女子力高いね。」

「え? あぁ、ありがとうございます。」


………………。

何だこのもやもや感。


「また、さらに問題となったのは強度でした。結局水を吸ったスポンジなどではゲームコインと呼ぶにふさわしいだけの強度を維持できなかったのです。」


水を吸った高吸収ポリマーの水風船を取り出して説明する。

変幻自在のそれは遊具としての可能性はあるだろうが、ゲームコインとしては使い物になりそうもない。


「そこで金属製の変形機構を採用する方針となりました。それがこちらの試作品です。」

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