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コンセプト1「小人から巨人まで使えるゲームコイン」6

「まず、ゲームコインのメリットを考えよう。特に実際の通貨とは異なる点を。」

「これってさ、普通、めぼしいものを探索する前にやるべきことじゃないかな。」

「そこ、授業中に関係のない発言は控えなさい。」

「はーい。」


ホワイトボードの前でユニが教鞭を振るう。

メガネなんかもちゃっかりかけていたりする。実にノリノリだ。


「さて、気を取り直して何か意見がある人。」

「はい、ユニ先生。」

「どうぞユイくん。」

「ゲームコインのメリットは主に3つです。」


まあ茶番に乗っかる私も私……。こういうノリは嫌いじゃない。

やっぱり双子なんだなぁと実感し、学生のごとく挙手し起立し回答する。


説得力を持たせるべくを理由は3つ提示するのが常だ。


「1つ、偽造を考えなくて良いこと。」

「現実で効力を持つ硬貨では無いからこそのメリットだね。」


偽造を気にしなければ雑な作りも許容される。

現実の通貨には無いメリットだ。


「2つ、使用回数が少なく耐久性が低くても良いこと。」

「え、使用回数少ないかな? 多くない? だって遊ぶときに毎回使うんだよ。」

「いや、少ないよ。だって今財布に入っているコイン。10年前に作られた物とかザラだよ。使用回数は現実の硬貨のほうが圧倒的に多いよ。」

「そっか、硬貨は一度作られたら長いこと使うもんね。ゲームコインなら長くても3年位かな。経年劣化も考える必要がないね。」

「うん。経年劣化を考えなくていいのは大きいよ。プラスチックが使えるもん。」

「あ、だから現実の硬貨は金属なのか。」


プラスチックは紫外線などには極めて弱い。

はっきり通貨としては不向きだが、使用場所が屋内に限定されていれば話は変わる。

むしろあれほど軽く、安く、自由に形を作れる素材なんて他にない。


「3つ、自動販売機を考える必要がない。」

「それメリットなの?」

「とても。自販機に詰まるリスクが無い。多少形がいびつになっても大丈夫。同一規格で複数種類を生産できる。」

「あー、言われてみれば確かに。」


人間なら最悪紙切れに数字を書いてもコインとして使えるのだ。

これは機械にはちょっと真似できない。

……まぁこんなところだろう。

もちろんこれ以外にも小さなメリットはたくさん有るとは思うが……。


「じゃあ次にデメリットいってみようか。」

「私たまにはユニ先生の授業が聞きたいでーす。」


なんで私だけ知恵を振り絞らないといけないのか。

たまにはユニにも頭脳労働をしてもらう。


「う゛……。ユイくんは鋭いところをつくね……。」

「先生早くして下さーい。」

「うーん、そうだね……まず……。」

「3つね。」

「う゛……!? え、えーと、まず……、そう、アステリオさんが言っていたとおり、大型種族から小型種族までが同じコインを使わないといけない!!」

「うん。種族同士の壁なんてゲームの世界には不要だね。」


アステリオの提示した条件。

現実のコインが達成できないからこそゲームコインで実現しなければならない目標。

彼の熱量の根源。

ゲームだからこそメリットは、デザインとなると凄まじいまでのデメリットとしてそびえ立つ。


「次に……、子供が使うことが多いよね……。あまり危険な仕組みはアウトかな。」

「そうだね、誤嚥防止とまでは言わないけど多少は配慮しないと。」


まあボードゲームをする子供がコインを誤嚥することは考えにくい。

注意書きに「これは食べ物ではありません」「幼児の手に届かないところに保管してください」と書いておけば十分。

一方で現実の硬貨と比べて構造は確実に複雑になる。

だからといって展開時にそれこそエアバッグのように火薬で展開するような仕掛けはアウトだ。


「最後に……、コストがかけられない。1枚10アーガイルくらいに抑えたいよね。」

「せっかく作っても高すぎて買えないってのはなしだよね。よくできました。」


ゲームコインはあくまでもボードゲームのおまけ。

これに莫大なコストはかけられない。


「えへへー……って、先生役私なんだけど。」

「まさに反面教師だね。」

「やかましいわ。」

「ありがとうございました。さて、これを一体全体どー捌いたものか……。」

「なんとなく輪郭は掴めてきたけど……。」


検討した条件を十分に満たす素材は手持ちには存在しない。

ここから更に改良を加えなければ先に進むことはできない。

現実世界ならここからめんどくさい型づくりやらなんやらが待っているのだろうが……。

この世界には()()が存在する。


「よし、作ってみよう。」

「だね。」


白い巨大な画用紙を床にひく。

この世界が異世界たる所以。()()()()()

特殊な記号と染料で描かれた魔法陣に魔力を通すことでそれは発現する。

要は魔力で動く電気回路だ。

しかしこの染料というのが少々電気回路の常識とは異なる。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

つまり……同じ赤であれば食用紅であろうとドラゴンの血液だろうと絵の具だろうとユグドラシルの花であろうと同じ作用が生じる。

必然描かれた魔法陣は色とりどりの模様が並ぶことになり、時にそれは見るものを魅了するほどの()()となる。


「ユイ、そこは京緋色じゃない?」

「いや、海棠色だよ。」

「じゃあ間を取って濃朽葉。」

「それならこっちには柑子色を使おう。」


こんな感じで二人でキャンパスに色を重ねていく。

時に濃い色を時に薄い色を。そこには円をむこうには三角を。

理論と直感を組み合わせひたすらに画用紙に魔法陣を描くこと1時間。


設計から()()()1()()()で試作品ができる。


開発に携わったことがある人なら誰しも思うだろう。

もし、頭の中の設計図を手元に実物として出現させるスキルが有ったら……。

せめて、パソコンの中の設計図がすぐに実物になれば……と。


それを魔法という()()()()()()()()()()()で実現しているのがこの世界。

それ故にこの世界の開発スピードは現実世界のそれを圧倒的に上回る。

食らいつくには私達も魔法を習得するしか無い。


「よし!!」


出来上がったのは3つの円が三角形に配置された魔法陣。

そこから幾重にも伸びる線と模様が一つの大きな魔法陣を形成する。

その小さな3つの円の中に買ってきた素材を一つずつ配置する。


「いいよユニ。お願い。」

「はいはーい。万物の神、フラクタルの名のもとに……」

「そういうのいいから。」

「ちぇー。つまんないのー。術式起動!!」


瞬間描かれた魔法陣が色とりどりに発光する、

優れた魔法であればあるほど、それは鮮やかに光り輝くと言われている。

今回は……まあ30点くらいか。

光が収まった後に残ったのは1枚のプラスチックのコイン。

表面には小さな窪み。

30点相応に少々形は歪だ。


「……まぁ試作品だしこんなもんか。」

「少し暖色が強かったかな。とりあえずは試してみようよ。」

「そうだね。」


取り出したるは水で満たされた注射器。

それをコインの窪みに押しあて内部に水を注入する。

内部に仕込まれた高吸収ポリマーがその水を全て吸い込みプラスチックコインを肥大させていく。

コインの側面を覆うゴムが伸展し高吸収ポリマーを1つの形に押し留めた。

そう……あれ? ボール型に?


「……これは……水風船かな?」

「よく転がりそうだね。」

「ってかこれ水入れるのすごい大変だったんだけど……。」

「しかも大型種族がこの小さな穴にシリンジを接続するの? 無理じゃない?」

「それだけ苦労して出来上がったのは水風船と……。」

「……とりあえず小さくしてみようか。理論上圧力を加えれば高吸収ポリマーから脱水されるはずだよ。」


そう言ってユニが水風船と化したコインに外側から圧力をかける。

当然うまく行かない。指の隙間から風船と化した試作1号機が飛び出しそうになる。


「……無理じゃない?」

「まだまだ!!」


諦めきれないユニがなんとか風船を手で包み込めないかと悪戦苦闘する。

無駄なことを……。まぁほっといて次の調合を考えよう。

使い終わった魔方陣を片付け新しい画用紙を床に配置……しようとした時だった。


「あっ……。」


ユニが手を滑らす。するとどうだろう?

圧力から逃れようとした風船が手の間からはみ出すわけだ。

限界を超えて進展したゴムはその内圧に耐えかね、一気に弾け飛んだ。

水を吸った高吸収ポリマーのドロドロとした液体が部屋の隅々に飛び散る。


「……ゴメン。」

「別に、止めなかった私も悪いから……。」


ムカつくことに幽霊たるユニは無傷。

爆心地にいた私だけをベトベトにして試作一号機はその短い生涯の幕を閉じたのだった……。

前々から思ってたんです。

魔法陣って綺麗だなと。

もっと綺麗に、綺麗さに意味を持たせるにはどうしたらいいかと。

だから魔法に色をつけてみました。


問題は……これ、絵にしないと魅力が伝わらんかもしれん!!

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