コンセプト1「小人から巨人まで使えるゲームコイン」3
「ノリと勢いで引き受けたけど勝算はあるの? ユニ。」
「無いかな。」
「おい。」
サイコロを振りながらユニとデザイン案を練り始める。
プレイしているゲームは件の「ラビリントス」。
ここでもゲーム内コインが使用されている。
中型種族の私達にも若干小さいかなと思うサイズ感。
確かに先程のアステリオが使用するには少々不便だ。
しかも子供が使うというところがミソだ。
種族毎にコインのサイズを分けたとして。
同一種族でしか遊ばない未来は目に見えている。
そしてそれはいずれ種族間の軋轢を生むだろう。
「正直に言って、無理だね。アーガイル連邦が建国されてからおよそ100年。もし種族間で平等に使える通貨デザインがあったらとっくに誰かがデザインしているよ。」
「だったらなんで……。」
「これがゲームコインだから。」
ダンジョンボスにコマを進める。
ユニからの一撃に冒険者はかろうじて耐えた……が次は無いだろう。
「限られた範囲内でしか使われない通貨だからこそできるデザインがある……と思う。」
「現実の硬貨には無いメリットがあるってこと?」
スキルカードを使用し再度サイコロをふる。
失敗か。もう一度スキルカードを使用する。
「そう、例えば偽造。限定範囲でしか使われないから偽造される事は心配しなくていい。これだけでずいぶんやりやすくなる。」
「まー、ゲームコインを偽造してもねえ……。」
「多分そこにつけ込むしかないよ……。あ、ボス倒した。私の勝ち。」
「んな!! HPはまだたくさんあったはず!!」
ゲームコインでダイスロール権を買い占め、成功率の低い即死魔法を10回ほどかけさせてもらった。
1割の成功率でも10回も挑戦すれば1回くらいは成功する。
「甘いよユニ。私が即死魔法なんて博打はうたないと思ってたでしょ。」
「……思ってました。」
「私、実は博打が大好きなんだ。勝てる博打は特にね。」
口角が上がる口元をカードで隠す。
いけないいけない、これだから難しい依頼は困る。
-----------------------------------------------------------------------------------------------
ユニに片付けを任せ、私は外に出る支度を始める。
私達の着替えは少々特殊だ。
私の姿をトレースすることでユニは着替える。
さて、ここに取り出したるは1枚のボタン付きの服。
これを来た私をユニがトレースするとどうなるか?
そう、鏡に写したようにボタンが逆になる。
異世界でも死に装束が左前なのはこういった事情らしい。
「おまたせ、ユニ。」
「んーん。お疲れ様。」
必然出かける準備をするのは私。
片付けをするのはユニと役割分担がなされる。
煮詰まったときほど外に出る。これが私達の鉄則だ。
外に出て、新しい刺激が入れば何か思いつく事があるかもしれない。
思いつかなくても頭を空っぽにすることが新しいアイデアの閃きにつながる。
お気に入りの帽子を少し左に傾けて鏡で調整する。
片付けを終えてふよふよと漂ってきたユニがそれを髪型ごと左右対称にトレースする。
「さぁ出かけようか。」
「待っててもアイデアは降ってこないもんね。拾いに行かないと。」
扉を開けて外に出る。
私はこの扉を開ける瞬間が好きだ。
扉の中。アトリエの中は私達と少数のお客さんのためだけにデザインした、現世とほぼ同じ空間。
テレビもあれば、掃除機洗濯機もある。本棚や机もなるべく現世の仕様に合わせた。
ガラス工房に特注して作ってもらった風鈴が風を受けて鮮やかな音色を奏でる。
日本のごくごく一般的な風景がそこには再現されている。
扉の外。そこはもう異世界だ。
私の3倍はありそうな巨人が闊歩し、膝までしか無い樹人がわさわさと足元を歩く。
空を見上げれば精霊であったり鳥人であったりが空を飛び、現世では浮かぶことすら許されないような飛空艇がゆっくりと浮遊する。
各所に張り巡らされた水路には水性種族の人魚や魚人の姿が見え隠れし。
少し大きな道に繰り出せば、現世の数倍は大きなバスが停車しており、眠そうな竜人があくびをしながら降りてくる。
この扉を開ける瞬間、世界が変わる。
出かける時はまるで冒険に出かけるようなワクワクが。
帰る時は我が家に帰ってきたときと同じ安心感が私達を包む。
「結局明日はパンにするんだっけ、ご飯にするんだっけ?」
「そーいえばそんな話もあったような無かったような……。」
そんな異世界にあって私達のする会話といえば明日のお腹の鎮め方。
幽霊のユニが私の横をフヨフヨと飛び回っていても気にする人はだれもいない。
そんなありふれた光景よりももっと気にするべきことが彼らにはある。
例えば仕事の話だったり、恋の話だったり、遊びの話だったり。
姿かたちが違うだけで現世でも当たり前の日常を彼らも過ごしているんだ。
「うーんこういうのはどう? おかずを見てからどっちにするか決める。」
「それいいね。何か美味しそうなものあるかな。」
「あるいは面白そうなものないかな。」
「またぁ……? 私、朝からゲテモノは嫌だなぁ……。」
「えー面白いじゃん。」
「私は別に食事に面白さを求めていないの。」
雑談を交わしつつ、大通りに向かって歩を進める。
最近ユニの変食が激しくて困る。
毒抜きしたポイズンリザードの肝臓が食卓に並んだ時はもうどうしてくれようかと。
しかもなんだかんだ美味しかったのが腹が立つ。
途中山のような根菜をレジ袋に詰めたケンタウロスの女性とすれ違った。
マイバッグを忘れたのだろう。
普段は背中に荷物を乗せることが多いのに、レジ袋を腕から下げている。
根菜類を満載したレジ袋は手に食い込んで非常に持ちづらそうだ。
「……大変そうだね。」
「だね。」
食材を大量に購入する大型生物にとってマイバッグは必需品だ。
ポリエチレン製のレジ袋は伸縮性に富み、重い商品だと持ち手が伸びてしまい手に食い込む。
紙袋やプラスチック製の持ち手なども考案されているが、未だマイバッグに勝る解決策はでていない。
と、ここでケンタウロスの男性が私達が来た方向から早足で近づいてきた。
手にはマイバッグを持っている。
レジ袋ごとマイバッグに放り込んでしまうと自身の背に乗せ、二人で談笑しながら歩き去っていった。
「チップを持参するって手は……。」
「ダメだよ。今困っているのは受け渡しの時なんだから。その人にしか使えないものは意味がないよ。」
「そーだよねぇ……。」
ユニの提案を即座に却下する。
マイバッグみたいに個人に合わせてカスタマイズされたものは他人には使いにくい。
今回の依頼には即していないのだ。
「でもさ。レジ袋の方は使えるかもしれない。」
「え、そっち?」
「うん。要は硬貨が伸び縮みすればいいんでしょう? 素材から変えたらどうかな。」
「あっ、なるほど……。」
理論的に考える私に対して、ユニの考え方は直感的だ。
成功例からだけでなく時に失敗例すら拾い上げて形にしてみせる。
……思わず笑みが溢れる。
難しい依頼もユニとならこなせそうな、そんな予感がする。
「一歩前進かな。この調子で次に行こう。テーマは伸び縮みする素材探し。後明日のご飯探し。」
「異議なし。文句なし。異論なし。」
-----------------------------------------------------------------------------------------------
「伸縮可能な素材って言ったら数多あるけど。勝手にもとに戻っちゃうのはダメだよね。」
スーパーでゴム製の玩具を手に取り伸び縮みさせ、独りごちる。
「そもそもゴムでチップを作っても伸び縮みさせるのは無理かな。紙幣ならいける……?」
コインではなく紙幣の形を模索し始める。
伸び縮みする布……。
うーん、多少は伸び縮みする布はあっても、勝手に戻っちゃうんだよなぁ……。
「ねーユイ。面白いもの見つけた。」
いくつかの商品棚を貫通してユニが声をかけてきた。
幽霊とはいえ明らかなるマナー違反だ。
「……商品棚を突き抜けちゃいけませんって教わらなかった?」
「教わってないね。」
「じゃあこれからはやってはいけません。」
「努力します。」
「反省してない……。」
「それより面白いものがあったからこっち来てよ。」
「……変なものじゃ無いよね。」
「ないない。」
「棚は通らずに。」
「棚は通らずに。」
素直に通路上を浮遊するユニのナビに従い向かった先は食品コーナー。
しかもその更に入口近くのパン屋。
「……パン屋?」
「そう、これ!!」
指し示したのは普通のパン。
いや、少し白っぽいか……。
商品名に目を移す。
「ゴパン……? 米粉のパン……?」
「そう、明日の朝ごはんはこれにしよう!! 一石二鳥!!」
とりあえず銀メッキ付きのハリセンでユニを張り倒す。
「……いたい。」
「言いたいことはめっちゃあるけど。ひとまずくだらない事で呼び出すんじゃない。」
「明日の朝ごはんは大事だよ!!」
「はいはい、もうそれでいいから買っておいで。」
「わーい。」
この姉は本当に私と同い年なんだろうか……?
壁抜けの最中に脳みそだけ、どっかに置き忘れていないだろうか……。
そもそも米粉パンなんて今更それほど珍し……米粉……パン……?
「ごはんでありパンでもある……コインでもあり、紙幣でもある……!!」
紙だって何度も折り畳めば硬くなる。
例えばコインの形に紙幣を折り曲げることができたら……?
問題は……どうやって折り曲げるかだ。
「ユイー。買ってきたよー。」
「移動するよユイ!! 今すぐ!!」
「え、明日パンだけ? おかずは?」
「後!! 無くても死なない!!」
「心が死んじゃう!!」
前作「神獣の執刀医」はモノクロの作品でした。
本作「有限会社ファンタジーデザイン」はカラフルな作品です。
真っ白なキャンパスにどんどん色を重ねていくイメージで描いています。




