コンセプト2「事故の起きない交差点」9
「今回の事故の原因となっていたものはこれよ。」
ドカンと机の上に信号機を置く。
「どこから入手したのか気になるんだけど?」
「適当に作ったので気にしないように。」
「あっはい。」
信号機は最近普及し始めたLED薄型のものだ。
ただしちょっとした細工がしてある。
「で、試しにこれを全灯してみるんだけど……。」
「黄と赤がどちらも黄色っぽく見えるんだけど。」
「そう、これ赤の色覚異常の人が見ている視界。」
「色覚異常?」
「うん、私達人間は通常3色覚、でも少数2色しか見えない人が存在するんだ。森で暮らすエルフ族はさらに少ないと思う。」
「なるほど。でもそれは昔からそうだったんじゃない?」
「それが違うんだよ。昔の信号機は白熱電球にセロファンをかぶせたものだった。こんな風に。」
ちょっと大型の白熱電球方式の信号機を取り出す。
この際どこから取り出したとか野暮な話は無しだ。
「セロファンを通しているから完全にすべての色をシャットアウトできているわけじゃない。そのせいで同じ色でも色の強弱が存在していた。丁度こんな風に。」
白熱電球型信号機をONにする。
黄色と赤が同じ色に見えるが、やや赤信号の方が暗い。
「なるほど。LED信号機が普及した影響で色覚異常の人の事故が増えていたってことか。」
「正解かつ不正解。この問題は私達の元居た世界ではここまで取りざたされていなかった。こっちの色覚異常、いや異常ってのは失礼だよね。2色覚保持者は私達の元居た世界のそれよりも圧倒的に多い。」
「……マジで?」
「マジで。」
「えー、俺色覚異常って言葉今初めて知ったんだけど、そんなに多いの?」
「うん。だってそれが普通な人種だったらそんなこと話題にならないでしょ。」
「……もしかして人間型以外の人種は違うのかい?」
「そう、哺乳類で3色覚を持っている種族は霊長類だけ。その他大勢、他の種族の人たちは2色覚で物を見ている。」
「……マジで?」
「マジで。」
哺乳類は恐竜が存在した時代に夜行性となり、結果色覚を必要としなくなったと言われている。
その中で霊長類だけは森林に生息した影響で3色覚を取り戻したのだとか。
この国ではおそらく2割から3割の人口が2色覚だと予想される。
しかも種族単位では当たり前のことだからその問題点に気が付いていない。
そりゃ問題が肥大化するわけだ。
「どうやって気づいたの?」
「それ以外に変化が無かったってのもあるけど、事故を起こした当事者に羽がないことに気づいたの。」
「どういうこと?」
「飛行する種族って鳥類とワイバーン、天使族とか魔族、妖精族。どれも3色覚あるいは4色覚の種族なんだよ。」
「……全然知らなかった。良くも悪くもLEDが単一の光しか出さないってことが問題になっていたのか。」
LEDの特徴は一つの色しか出さないこと。
赤色のLEDに黄色いセロファンをかぶせても黄色くはならない。
そ白色を作るには3色のLEDを組み合わせる必要がある。
「なるほど原因は分かった。そのうえでどうすればいいのかアイデアがあるんだろう?」
「もちろん、白熱電球じゃない、LED電球だからこそできる方法がある。それがこれ。」
再びLED信号機のスイッチを操作する。
今度は黄色に混ざって青色のバツ印が出現した。
「これがそれに対する私たちの答え。色覚異常者に優しいユニバーサルデザインLED信号灯。」※1
「製造工程はちょっと複雑になるけど、これなら十分元を取れる範囲だと考えるよ。特に2色覚の人が多いこの国ではね。」
2011年に現世でグッドデザイン賞を受賞した信号機。
現世では今頃実用化されているだろうか?
それともまだ普及していないだろうか?
「さぁどうだアダムス。」
「あんたにヒントをもらったようで癪だけど。」
「しかもあんたの思い通りに事が進んでいたのがムカつくけど。」
「「これが私たちのユニバーサルデザインだ!!」」
眼鏡越しにこちらを見ているであろうアダムスに詰め寄る。
私達二人からの圧力を受けたイグナッツィオが珍しく冷や汗をかいていた。
ごめんイグナッツィオ。
※1 2011グッドデザイン賞受賞 九州産業大学 芸術学部 デザイン学科 落合太郎 作
いかがでしたしょうか。
今回は現実世界で実際にデザインされた色覚異常対応信号機です。
少しばかり問題を脚色していますが、おおむねこれを等倍縮小した問題が現実世界でも起きています。
2色覚保持者の旧型信号機の見え方が検索しても出てこんかったorz
確か暗く見えているはずなんだけど……。
2色覚保持者は色々とタイプが分かれていて今回はシンプルに赤色です。しかし青しか見えない人や黄色が見えない人も存在します。
さあ次回でコンセプト2は終了予定。
さて、次のユニバーサルデザインは何を考えようかな……。




