コンセプト1「小人から巨人まで使えるゲームコイン」2
「粗茶ですが。」
「あぁ。ありがとうございます。」
大型種族用のコップにぬるめのお茶を注ぎ、ストローを突き刺して眼前のミノタウルスに出す。
基本的にカンカンに熱いお茶を好むのは亜人の中でもヒト、エルフ、ドワーフなどの比較的ヒト族に近い外見をした種族に限られる。
彼のように牛頭の種族等は熱いお茶を飲むには不向きな顔のつくりをしているため、火傷しない程度に冷ましたお茶のほうがいい。
またストローはどんな種族にも好まれる実に便利な道具だ。
これ一本で鼻っ面をコップに突っ込むような事態を回避することができれば、一度にコップを空にしてしまう必要もない。
「ふむ。さすがの心配りですね。うちの従業員にも見習わせたいくらいです。強いて言うなら私はもう少し小さめのカップが好みですが。」
「予算不足です。」
「なんとも世知辛い。」
眼の前の紳士は推定3mで、大型種族の中では小さい部類に入る。
大型種族用のバケツのようなコップでは少々大きすぎる……が、そんな事をしていたらお茶のコップだけで2桁は種類を揃える必要がある。
だからコップの数は基本的な、小型、中型、大型の3種類。
その大型サイズのコップを長く発達した中指と少し短い人差し指、薬指でコップを支持し持ち上げ、ストローでお茶を吸う。
少々奇妙に映るかもしれないが、これがこの国での一般的な客のもてなし方だ。
「それで、ご依頼というのは一体。」
せっかちなユニが話を急かす。
「おっと失礼。あまりの心配りに思わず感銘を受けていました。」
「そうでしょう? できる妹を持つと肩身が狭くて。」
「はっはっは。ご謙遜を。」
牛頭の紳士が快活に笑う。
私が褒められたはずなのに、なぜかユニのほうが自慢げだ。
「では、本題に移りましょうか。私、玩具メーカーを経営しているアステリオ・ラビリントスと申します。」
「あぁ、あの「ラビリントス」の社長さんですか。」
「おや、ご存知で?」
「いや、この街きってのボードゲームメーカーでしょう。普通知っていま……す。」
ふと隣を見るとえらく感銘を受けた様子のユニ。
知らなかったんかい。
「はっはっは。まぁ最近はスマートフォンなども出ていますからな。ふむ、やはりまだまだ広報が足りないか。」
「……失礼しました。」
「なんのなんの。新たな課題が見つかった。これにまさる喜びはありますまい。」
強い。これが経営者の思考か。
私達も見習わなければ。
「さて、今回新規ボードゲームのデザイナー様との打ち合わせついでに、このデザイナーズストリートを散策していたのですが。なかなかに奇抜な広告を見つけまして……。」
「ほほう。アレの斬新さに気がつくとは流石敏腕経営者。」
いや、お前さっき散々ダメ出ししてたんだけどな。
いいから合わせろ? はいはい、分かりましたよ。
「いやはや、お褒めいただき光栄です。それでこちらであれば我が社が抱える問題に取り組むことができるのではないかと思い、仕事の依頼に来た次第です。」
「問題……ですか……。」
「ええ。実際に御覧頂いたほうが早い。これです。」
そう言ってミノタウロス、アステリオは一枚の小さな硬貨を机に置いた。
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有限会社「ラビリントス」。
ミノタウロス族、アステリオ・ラビリントスが経営する、コロラド市唯一のボードゲームメーカー。
「ボードゲームとは盤上の迷宮である」をモットーに数多の遊戯を開発、売り出してきた。
最も有名なのは会社名を冠したゲーム「ラビリントス」。
迷宮の作り手とそれに挑む冒険者たちの戦いを盤面に再現した名作だ。
拡張パックを次々と売り出すことで50年近く愛されている。
「ゲームコインですか?」
プラスチック製の円盤を手に取り裏表にして観察する。
何の変哲もないゲームコインだ。
別に歴史的価値があったり、実は内部に誰かさんの記憶が封じられていたりなどということは無い。
本当に普通のコインだ。
「いかにも。それを見てどう思われますか?」
「……普通の。まぁ強いて言うなら子供向けに丁寧に角を落としてあるコインでしょうか?」
「えぇ、その認識で正しいです。ではそれを大型種族。例えば5mのタイタン族が手にした場合にはどうでしょう?」
「……コインはコイン……いや、もしかして……小さすぎる?」
「ご明答。そうそのコイン。私ですら少々小さいのです。」
「なるほど、小型種族対応ですか。」
「はい。あまりにも大きなコインは小型種族の方にとっては物理的に持ち運び困難です。一方大型種族の皆様にとっては少々小さくて扱いづらい程度。であれば小型種族を優先してデザインするというものです。」
大きさの問題。これは多種族国家アーガイル連邦が常に頭を悩ませている課題の一つだ。
これに対してアーガイル連邦造幣局が講じた対処方法は主に2つ。
1つ。各クレジットに硬貨と紙幣の両方を用意する。
硬貨は小型種族が、紙幣は大型種族が主に使用する。
解決方法としては実にシンプルだ。
ところがこれ、あまり評判が良くない。
そもそも金銭というものは人々が互いに受け渡しを行うものだ。
ここで仮に妖精が経営する店をオーガが訪れたとしよう。
商品を選び妖精の店員にオーガが料金を支払う。
おっとここで妖精の店員が紙幣の雪崩に巻き込まれたー。
慌ててオーガの客が救い出す。謝るオーガ。気にするなと笑顔の店員。
そして今度は店員がお釣りの硬貨を客に手渡す。
ところが、あまりの小ささにオーガの客は金額を確かめることができない。
紙幣にしてくれと頼むオーガ。釣り銭切れだと謝罪する妖精。
ここまで極端なことは稀だが、これがこの国の日常と考えてもらっていい。
次に少数の記念硬貨で採用されているのが、時空魔法をふんだんに使い伸縮可能となった硬貨。
受け取った者にとって一番使いやすいサイズに自動で調整される。
これであればなんの不都合もない……がコストが尋常ではなかった。
時空魔法を使用できる人間など限られているし、それを何億枚と制作しなければならない。
流通の少ない記念硬貨だからこそできたが、これが一般硬貨であれば術者が逃げ出したに違いない。
とまぁこのように問題だらけの貨幣だが、なんとか国内で流通できる程度には工夫が施されている。
例えば硬貨はなるべく薄く、大きくすることで大型種族が手に取りやすい様になっている。
あるいは紙幣はなるべく薄い紙を使用し、折りたたみやすいようにデザインされているがこの程度では焼け石に水。
実態は使う人々が並々ならぬ努力を払うことでなんとか貨幣として流通しているのだ。
故に国を挙げて電子マネー化が進行している真っ最中。
端末さえ各種族に合わせて設計してしまえば後はどうとでもなる。
釣り銭を各種族ごとに用意する必要もなければ、小さすぎて金額が分からないなどという問題も回避できる。
「電子化じゃダメなの?」
ユニの言葉にアステリオはゆっくりと首を横に振った。
「大人だけしか遊ばないのならそれでよいでしょう。しかしこれを遊ぶのは子供から老人まで、ありとあらゆる種族年齢の人々です。」
「じゃあ駄目だね。」
「世の中は電子マネーに突き進んでいる真っ最中。いずれ子供たちが通貨の本質を忘れてしまうときが来るかもしれません。丁度切り身が海を泳いでいると勘違いしている今の子供たちのように。」
「ぞっとしませんね。」
「だからこそ我が社がその本質を教えるのです。あれは電子データと商品の交換ではない。価値あるものと価値あるものの等価交換であると。」
「なるほど。」
クレジットカードで破産する人間が取り沙汰された昨今。
電子マネーの普及は種族の壁を打ち払うだろうが、同時にそういった失敗する者を作り出すだろう。
だからこそ彼は今日ここに来たのだ。
電子マネーで将来失敗する子どもたちを一人でも減らすために。
「ぞくぞくするね。」
「うん。」
小声でユニが話しかけてくる。
世界をぶち変えてしまおうという熱量の持ち主。
そばにいるだけでもクラクラしそうになる……が。
熱量なら私達だって負けていない。
「依頼にあたって私からの要求は3つ。」
「1つ、小型種族から大型種族まで使用できるデザインであること。」
「2つ、同額のチップを2種類用意するという方法は認めない。」
「3つ、電子マネーは使用しない。必ず現実で形を持ったチップを作成すること。」
「難易度の高い要求であると存じております。その上で、この依頼、引き受けますか?」
思った以上に難易度の高い依頼が飛び込んできた。
今まで国を上げて取り組んでも解決できなかった問題に回答を出せということか。
上等だ。完膚なきまでに叩き潰してやる。
「「引き受けます!!」」
そんなに更新速度は早くありません。
今は書き溜めを消費している段階です。
今は突貫工事で街や歴史を作っているので後々矛盾が出てきそうで怖いw




