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コンセプト2「事故の起きない交差点」7

「てっきり転移魔法陣かと思ったんだけど……。」

「同じ場所……のような違う場所のような……。」


光が収まった後、私たちは変わらず美術館の中にいた。

ただ何となく違和感がある。

上手く言い表せられないのだが、寝起きのような、夢見心地というべきか。


「地に足がついていないような……。」

「それは元からでしょーが!!」

「ナイスツッコミ。」


つまりは、現実感が無いのだ。

例えば自分の部屋を想像するとき、家具の1点1点の配置まで覚えている人間はよくいるだろう。

しかしその家具の傷まで正確に覚えている人間がいるだろうか?

概ね想像上の部屋とは記号の集合になりがちだ。


この美術館は確かに細かい部分まで再現されているが、やたらと整っている。

例えば経年劣化による傷が見当たらない。木材の年輪が全て同一のパターン。

カーペットに汚れが一切ない等々だ。


「これは。誰かさんの記憶の中ってことかしら。」

--正解。--


声が響いた後私たちの眼前に先ほどの少年が現れた。


「この程度は簡単に見抜いてもらわないと骨折り損だよ。」

「ちょいちょい試すのやめてくれませんかね。」

「狼の前で居眠りをする子羊は食われても仕方がないと思うんだ。」

「死ね変態。」

「まぁそんなに警戒しないでくれたまえ。今回のこれは僕にしては珍しく善意でやっていることだよ。君たちに足りなくて、僕が持っているものを渡そうというのだから。」

「それは何?」


大仰に指を鳴らすと同時、今までいた部屋から私達2人と「それ」は別の場所に移動していた。

周囲は交通量の多い交差点へと変貌しており、私たちはそのど真ん中にいた。


「過去の記憶さ。」





「データから情報を抽出する事に限界を感じ始めていた頃合いだろう。過去の記録が残っている場所に君たちが足を運ぶことは目に見えていた。君たちが必要としている物はまさにこれだろ?」

「……悔しいけどその通りだね。」


おそらくは20年前のコロリド市の街並み。

旧式の自動車が往来を走り、何年も前にはやったファッションで人々が歩いている。

道路交通標識は今とそれほど変わらない。むしろ設置されたばかりの看板などは今よりも新しく感じるほどだ。


車の規格が比較的統一されているのは今も昔も変わらない。

小型種族だか小型の自動車に乗りはするが、スクーターサイズより小さく作ることは法律で禁じられている。

逆に大型種族の自動車も大型トラックを越えるサイズになることは無い。

このせいでアーガイル連邦の道交法は歩行者に関する法律の方が多い。

とある法律家が「この国は赤子にまで免許証を要求するのか」と頭を抱えたのは有名な話だ。

その他「歩くよりも運転する方が簡単」、「飲酒運転よりも飲酒歩行を厳罰化するべきじゃねーの?w」、「外国からの旅行者の歩行は禁止するべきだ、お互いのために」と内部から自虐されるほどのカオスだ。

余談だが、この国で子供の交通事故のほとんどは歩道で生じている。

笑うしかない。

尚、私達も転移した当初何度か死にかけたものだ。歩道で。

ホント笑うしかない。


決めた、その内道交法もデザインしてやる。


「君たちは本当に面白いというか、変というか。」

「うわ、頭の中まで覗いてくるの? キモイ……。」

「……自重します。ごめんなさい。」


私の反撃で再び少年が小さくなる。

少しかわいいと思ってしまった自分が許しがたい。


「ユイ、何か気になることはある?」

「……街並みに目が奪われてちょっとキツイ。」

「聞いた? あなたの記憶の中なら街並み消せるでしょ。」

「僕から提案しようと思ってたのに先を越されたか。人遣いが荒いね君たち。」


今よりは大分とげとげしかった広告や建物が消え、交差点だけが残る。


「ついでに歩行者と車もいらないかな。別に事故を起こしている車種や対人対物に差はなさそうだったから。」

「はいはい。」


ユイの意見が反映され、本当に交差点だけが残った。

まるで街づくりゲームの最初の画面のようだ。


「といっても大して変わらないかな……。」


200年の歴史は重いもので交差点の設計はすでに20年前の時点で完成されている。

大きな変更点は正直存在しない。

技術革新に伴いより見やすい色の道路交通標識が採用されたり、信号が白熱電球からLEDに変更になったりなどくらいだ。

やはりLEDはいいものだ。あれのおかげで光熱費がどれくらい減ったか。

空を飛ぶ種族にも大好評。先ほどのワイバーンだとか、鳥類系の人たちだとか……。

そう言えば哺乳類で空を飛ぶ人種は少ないな……ハーピーとか天使族とか魔族とかぐらいか。


いや、もしかして「それ」が原因なのか?


「ユイ気づいた?」

「気づいた。多分当たりだと思う。」


こんな状況だっていうのに鼓動が止まらない。

全身に鳥肌が立つ。間違いない。これは当たりだ。


「へー、何か思いついたんだ。」

「……律儀に頭覗かないって約束守ってるんだ。」

「うん。それはつまらないことだなって思い直して。」

「まぁいいや。ここから出してくれるんでしょ? 善意の協力者さんなら。」

「もちろん。お役に立てたようで何よりだよ。」


少年が再度指を鳴らすと今度は交差点が消えた。

座標を区切る白線も消え、視界すら消失する。

真っ暗闇の中少年の声だけが最後に響いていた。


「君たちの様子はこれからも観察させてもらうよ。その見返りと言っちゃなんだけど、困ったときにはこの博物館に来て「アダムス」という学芸員を探すといい。最も使い過ぎには注意だけど。」

「まるで悪魔との契約ね。」

「これでも建国の英雄の一人なんだけどなぁ……時の流れって残酷。」


おっと、この国の教科書が改訂されそうな爆弾発言が出てきたぞ。

そんなところだろうと思ってはいたけど。


「僕は先に失礼させてもらうよ。近くにいるとパンチの一発ぐらいじゃ済まなさそうだし。」

「じゃあ、次あった時までにツケておくよ。」

「うわー、絶対忘れないんだろうなー。じゃあ名残惜しいけど僕はこの辺で失礼するね。医務室で目が覚めるように手配してあるから。」


その言葉を最後に私たちの意識は再び闇へと落ちたのだった。

多分これ一部の人はもう答え分かったんじゃないかな。

次回種明かし回行きます。明日投稿できるように頑張ります。

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