コンセプト2「事故の起きない交差点」5
コロラド市営博物館。
統一戦争以前に存在した王族の別邸を博物館へと改装した施設だ。
それ自体が展示品と呼ばれるほどに作り込まれた意匠はここを訪れた人々を別世界へと誘うかのようだ。
この別邸はおおよそ4つに分割される。
水生エリア、野外エリア、そしてそれぞれの真ん中に配置された邸宅。
この世界を一つにまとめたような、ビオトープ的な美しさがこの建造物にはある。
「いつ見てもすごいねぇ。誰が建てたんだろう?」
「ごめん。建築物にはちょっと疎くて……。」
「いや、ただの感嘆符だよ、感嘆符。」
「ロナルド・ウェストミンスター2世が建てたと言われています。」
「……。」
振り返ると私達よりも少し小柄な若い男性がいた。
いや、いっそ少年と言ってもいい。
それが見た目にそぐわない大人びた微笑みを浮かべ、会釈する。
「はじめまして、当館で学芸員を務めさせていただいております、フローレス族のアダムス・ゲティスバーグと申します。よろしければ館内の案内をさせていただいても?」
「あー、平日だから。」
「はい、お客さんがいなくて少々暇を持て余しているのです。」
見ればこの広い博物館に見学者は数組程度。
その数組にしたってもはや散歩コースと決めている初老のドワーフであったり、休憩に来ているスーツを着たネコ耳族であったりと、学芸員の手助けを必要としない人々ばかりだ。
「あー、でも私達もあまり見学者といった立ち位置ではないかも。」
「ほう、と言いますと?」
「ちょっと昔の道路事情について調べているというか……。」
「それこそまさに学芸員の本分ではございませんか。」
「んー確かにそうかも。じゃあお願いしようかな。ユイもいい?」
「別に……。」
そっけない態度でユイが応じる。
まぁ人見知りの妹としては妥当な対応だ。
ゆっくりと見て回る時間が害されたとご立腹でもあるようだが。
◇
「この博物館は元々王族の別宅として気づかれたものです。それはご存知ですね?」
「まぁ、入り口にでっかく書いてあるしねー。」
「はい、では問題です。この建物が同年代の建築物と明らかに違う点はどこでしょうか?」
「お? 問題形式? 受けて立とうじゃないか。」
「その意気です。ヒントを申し上げますと、今私達が目にしているものがそれです。」
「ふむ……。」
今私達が踏み入れた場所は建物の真ん中を突っ走る大広間だ。
ここからいくつもの部屋へと扉が続いており、どの部屋に行くにしても必ずこの部屋を通らなければならない。
何の道も非常に道幅が広く取られており、小型種族から大型種族までスムーズに移動できるだろう。
更には水路まで設置されて、水性種族にすら対応している。
公共施設では至って普通の建築様式だ。
「……この建物の建造年月日っていつだっけ?」
ユイが小さく問いかける。
流石に手慣れたもので、その小さい声を聞き漏らすことなくアダムスが答える。
「諸説ございますが最有力はメソポタミア歴468年9月8日。統一戦争の約30年前です。」
「設計者は?」
「意図的に文献から削除されていて分かっておりません。ただ、少なくとも4人以上の建築家が関わっていると言われております。」
「この建物って改築はされてるの?」
「細々とした修繕工事のほかはほぼそのままです。」
「……分かったかも。」
「え、マジで?」
「うん。多分。この場所が現在も公共施設として機能しているのが答え。違う?」
「おぉ、正解です。鋭いですね。」
む、私だけ取り残されている感じがある。
これは非常に不愉快だ。
「んー? この場所が現在も公共施設として機能していることが答え?」
「ヒント、例えば日本の寺社仏閣のトイレに洋式トイレがあったらどう思う。」
「そりゃあ、後から設置されたとしか……あっ。」
「気がついた?」
「確かに、この世界に来てから当たり前過ぎて忘れていたよ。」
「どうやら二人共気がついたようですね。それでは答えを伺っても?」
「「この建物が統一歴以前に多種族に対応している点。」」
「正解です。」
小さくアダムスが拍手をくれる。
そうだ、言われてみれば確かにそうなのだ。
当たり前の物事は当たり前になる前に、当たり前じゃなかった時期があったのだ。
食べ物が不定期にしか手に入らなかった時代から、農耕で定期的に得られるようになったように。
電気が通っていなかった時代から、照明がすべての家に設置された時代になったように。
ガラケーの時代から、スマホの時代になったように。
多種族に対応した建築物など、統一歴以前に存在するはずがないのだ。
なぜなら多種族の融和と共存がなった日からこの国は「統一歴」を採用したのだから。
「そう、この建物が当時の他の建築物と大きく逸脱してる点。この種族は多種族の融和がなる前から多種族の客人を迎えるために設計されているのです。現在ある公共施設の原型はあるいはこの建物にあると言っていいでしょう。」
そう、現代の公共施設のこの建物が似ているのではない。
現代の公共施設がこの建物を基本にデザインされているのだ。
「しかし、当時としてはこの建物は先鋭的すぎました。建築家の名前は、ありとあらゆる文献から徹底的に削除されています。それはおそらく、彼らを守るため。」
アダムスが中央に据えられたウェストミンスター2世の像の前で立ち止まる。
それを見上げる視線には熱が灯っている。
「残念ながらこの建築物が完成したのは統一戦争を目前に控えた年。種族間の対立が最も深まった期間でもあります。この建物の趣旨は理解されることもなく建築を指示したウェストミンスター2世も非難の的となった事でしょう。しかし、彼の思いを受け継いだ人々が、統一戦争の終結に当たり大きく貢献したのです。」
大広間の中心は採光用の窓ガラスから入る日差しで輝いて見えた。
よくよく見ると像の台座には文字が彫られている。
それはウェストミンスター2世の名前ではなく……。
「彼は自らの手掛けた「どんな種族でも公平に使えるデザイン」をこう名付けました。「ユニバーサルデザイン」と。」
前作の医療バトルファンタジーもそうでしたが
今作の異世界ユニバーサルデザインも同様に。
今までないジャンルを描くのはすごく不安な作業です。
僕だけが楽しい内容になっていないだろうか?
他の人が理解できる内容になっているだろうか?
すべて手探りです。
つかこれ面白いの? それともつまんねーの?
よくわからん!!




