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コンセプト2「事故の起きない交差点」4

「……ごめんって。」

「……。」

「後でケーキ奢ってあげるから。」

「……。」

「そ、それともぬいぐるみとかの方が……?」

「……。」


う……。こうなってしまったユイの機嫌を取るのはとても骨が折れる。

残念ながらこの子は一般的な物でつられるほど王道を生きていない。

彼女が興味があるのはただ一点。


「市営博物館でアンティーク家具の展覧会をやるらしいよ。いく?」

「…………いる。」


目先の欲につられ、すぐさま立ち直るユイ。

しかし、自分の趣味趣向を嫌いな相手に知られているという事実に、表情は苦渋に満ちたものになる。


ユイの趣味。いわゆる骨董趣味というやつだ。

もちろん人並みにあまいものや可愛いものも好きなのだが、アンティークにはそれこそ目がない。

アンティークのカップに安物のティーパックを放り込んで「重厚な味わいになった……」なんて言い放った日には正直引いた。

場所と時代が適していればあるいは歴女と呼ばれる存在になっていたかもしれない。


「準備がいいね、ユイ。」

「イグナッツィオがこんなこともあろうかとって。」

「……あれは一度家宅捜査を受けた方がいいんじゃない。盗聴か盗撮の容疑で。」

「マメなだけでしょ。」

「限度があるでしょ。」


納得がいかないといった感じでユイが公園のベンチに腰掛ける。

わざと端に座って私の座るスペースを確保してくれたが、私はあえて空中にとどまる。

議論を重ねるのに隣に座るのはやや不都合だ。

ため息をつきつつ、私が座る予定だった場所にユイが資料を広げ始める。

それを私は真上から見下ろす形をとる。


一番上に提示された資料はここ数年の事故発生件と高齢者ドライバーの増減をグラフにしたものだった。

事故発生件数の増加の傾きが高齢者ドライバーの増加の傾きよりも若干強い。


「詳しい統計学的な手法は用いていないけど。ひとまずイグナッツィオの話は事実みたい。20年前から事故の発増加率を示す傾きが大きくなっている。」

「あ、私でも分かる。なんとなく事故は関係なさそうに見えるね。」

「でしょう? これはやっぱり20年前に何かあったとみるべきだよ。しかもそれが徐々に広がっていっている……と思う。」

「その何かが分かれば、交差点の欠陥が見つかる……。」

「推測、だけどね。」


20年前? 一体何があっただろうか?

人気モンスターゲームの発売? 毒ガステロ事件? パソコンの普及?


「あ、携帯電話。歩きスマホが問題になっているじゃん。」

「私もそれは考えた。原因の一つではあると思うけど……。」

「けど?」

「5年前ぐらいからスマホが原因の事故は頭打ちになってる。規制が強化されたしね。」


見ればグラフは5年前からやや傾きが緩やかになっているが、それでもなお上昇している。

原因はスマートフォンだけではないようだ。


「難しいなぁ。そもそもこういう原因を調査するのって探偵とかそういう専門の職業の人がいるでしょ。」

「それの予算が下りないからウチに来たんでしょ。安請け合いするから。」

「あーはいはい、申し訳ありませんでしたよー。」


イグナッツィオにうまく乗せられた感じがある。

これはもう依頼を達成した暁には報酬に色を付けてもらうしかない。


「でもなんだかんだで付き合ってくれるところ好きだよユイ。」

「好きって言葉はもうちょっと大切にしようか。」

「ユイは乙女だよねぇ。」

「帰っていい?」

「やだーさみしくて死んじゃう。」

「今日日ウサギでも放置された程度で死なない。」

「私はうさぎ以下だと?」

「同レベルくらい。」

「ひどい!!」


お決まりのやり取りを終えてスイッチを入れ直す。

行き詰った時にはこうして頭をリセットさせてやる。

よし、気合い入った20年前。20年前の様子が分かる場所……。

田舎の方に行けばあるかな? でも交通事情なんて異なるだろうし……。


「そういえばさ。博物館とか行けば昔の交通事情とか分かったりしないかな。」

「う……アンティーク家具展をやるときにはまた来るからね?」

「そんな念押ししないでもいくらでも付き合うよ。今回は仕事、次回はレジャー。」

「それならよろしい。」


満足げにユイがうなづく。

全く子供なのはどっちなのか。あるいは両方なのか。


「よし、なら次の目的地は市営博物館。展示されている昔の街並みを見に行こう。」

「ついでに他の展示品も……。」

「……。」

「……なにさ。」

「べっつにー。」

今回はエセ推理モノなのでゴールまでの道のりが長いです。

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