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コンセプト2「事故の起きない交差点」1

「やぁ二人とも。久しぶりだね。」

「イグナッツィオ。久しぶりだね!!」

「……久しぶりです。」


ユイが不機嫌さを隠そうともせずに客人を迎える。

アステリオの依頼をこなしてから3日後。

私たちと同世代の人間族の男性が訪ねてきた。

彼の名前はイグナッツィオ・ペッツォーリ。私たちの学生時代の先輩にあたる。

そしてユイが苦手とする人物の一人だ。


「相変わらず冷たいねユイ君。さすが純真ブレイカー。」

「別にあなたには関係ないでしょう? 浮草のイグナッツィオさん。」

「まいったねどーも。とりあえず中に入れてもらってもいいかな?」

「仕事の依頼じゃなければ接客料を取りますよ。」

「じゃあ安心だ。上がらせてもらうね。」


そう言ってイグナッツィオがアトリエに入る。

彼はエルフ族の男性。学生時代は浮草のイグナッツィオなんて呼ばれていた人物だ。

金髪碧眼そしてイケメン、飄々とした態度でいつも穏やかな笑顔を浮かべている。

当然モテにモテていた。そんな彼とユイがここまで仲が悪いのには理由がある。


まず学生時代のユイについて話そう。

ユイの学生時代のあだ名は純真ブレイカー。

学生時代から私の前以外ではその本性を隠していたユイ。

当然男性からの人気もなかなかのものだった。しかも主に女性経験の少ない男性から。

時たまそんな彼らが勇気を出して告白してくる。

その時になって初めてユイは被っていたネコをはぎとるのだ。

そして念入りに凝縮した毒舌でもって一世一代の告白を断る。

こうしてついたあだ名が純真ブレイカー。

いたいけな男の子の心を木っ端みじんに粉砕することからそうついた。


もっともある程度女性経験のある男性はそういうユイの本性を見抜いている。

イグナッツィオもそういった本性を見抜いていた男性の一人だ。

彼とユイの間に接点ができるはずがなかった。

できるはずがなかったのだが、彼はユイに告白した。


折しもそれは6月の梅雨の時期。

洗濯物が間に合わず、私の服をユイが着て登校した日。

イグナッツィオは私に告白しようとしてユイに告白をかましてしまったのだ。

当然ユイはそのバジリスクもかくやという毒舌で迎撃する。

ある程度迎撃したところでイグナッツィオも気づいた。


「ごめん、間違えた。」

「は?」

「いや、お姉さんと間違えてたよ。だから、この話は無かったことにしてくれないか?」

「……は?」

「うん。日を改めることにしよう。じゃあね、お姉さんには内緒にしといてよ。」

「…………は?」


何度聞いても笑える。

確かに当時のユイは自意識過剰になっていたフシがあった。

純真ブレイカーなどというあだ名まで拝領して男性を見下していた。

当然今回もその類の物かと迎撃したが、蓋を開けてみれば人違い。

今まで数多の心を打ち砕いていたユイの自尊心が木っ端みじんに打ち砕かれた瞬間だった。

因みにその後イグナッツィオは私に告白してきたのだが、丁重にお断りさせていただいた。

しかしそれ以来彼とは比較的仲がいい。一方でユイは蛇蝎のごとく嫌っている。


「ユニ。そのにやけ面今すぐ引っ込めて。」

「はいはーい。」


渋い顔でユイが台所に立つ。

ユイはあまり自分の本性を見せない。常に心に防壁を張っている。

そんなユイがイグナッツィオの前では本性をあらわにしている。

だからといってイグナッツィオが彼女を拒絶することはない。

まるでわがままな妹に対する兄のように、ユイの毒舌をのらりくらりと回避する。


「因みにユイ君。前みたいに僕のお茶だけやたら濃くするのはやめてくれよ? そもそもあれ準備するのに時間かかるでしょ?」

「……。」

「薄めるのもなしだ。」

「……。」


彼が来るとアトリエがにぎやかになる。

だから私は彼のことが好きだ。

もっとも恋愛感情は学生時代から湧いたためしがないが……。





「お茶。」


不愛想に、しかし慎重に茶器を並べる。

流石に力任せにテーブルにたたきつけてカップを割る程、ユイの頭は悪くない。


「やぁありがとう。」


そっけない態度をとられつつもイグナッツィオは笑顔を絶やさない。

相変わらず懐の深い人物だ。そりゃあモテるだろう。


「しかし、もうちょっと愛想を振舞いた方がいいんじゃないかな? ユニさんもよく言っているだろう?」

「お姉ちゃんは関係ないでしょう!! あんたはもっと関係ないでしょうが!!」

「確かに、愛想のいいユイ君など変に勘ぐってしまうね。なら今のままでいいか。」

「ぐぬぬ……。」


浮草のような言動にユイは翻弄されっぱなしだ。

嫌味も悪口も全く届く気配がない。

それがユイには気に食わない。


「また、ユイの連敗記録が伸びたね?」

「負けてない!!」

「失礼だよユイさん。僕も戦ったつもりがない。」

「……。」


ユイの目から光が消える。

そもそも勝負にすらなっていなかった。

呆然自失状態のユイを放置して私が話を続ける。


「それで、今日はどうしたのイグナッツィオ?」

「うん。僕が今市役所の交通課に努めているのは知っているかい?」

「ごめん、初めて聞いた。」

「うん、今年から配属されたんだ。」

「あはは、それじゃあ知るわけないよ。」

「それもそうだね。」


隣からユイが憔悴した表情で私たちの会話を聞いている。

ユイとしては突っ込みどころ満載なのだろう。

妹のことだ。どうせ。

「なんだこの脳みそが死んだような会話は。裏でもあるのか?」とか

「そんなの把握していたら。ストーカーだよ。」とか考えているに違いない。

別に難しく考えなければこれほど話しやすい人物はいないのだが……。


「それで続きを聞いてもいいかな。」

「あぁごめんね。3日前に近くで交通事故があったのは知っているかい?」

「それはニュースで見たよ。多分近くにもいた。交差点での出合い頭の事故でしょ?」

「そうそれ。信号無視があったとかなかったとか。それでさ、最近こういった事故が多いと思わないかい?」

「ん? 気にしたことがなかったけど……。言われてみれば確かに?」

「調査してみたんだけど大体10年位前から徐々に増えている。上はドライバーの高齢化って結論で済まそうとしているけど、どうにも腑に落ちない。確かにそれも問題の一部ではあると思うけどそれなら10年前からっていうのはおかしくないだろうか?」

「確かに少子高齢化が始まったのは20年くらい前からだね。少し時期が合わないかも。」


異世界のアーガイル連邦でも少子高齢化が問題となっている。

最近だと年金制度が崩壊しそうだとかなんとか……。

私の故郷が同様の事態に陥ってないといいのだが……。


「でもそんなお上の命令に反対意見など恐れ多い。」

「恐れ多いんかい。」

「だから僕は会議でこう提案したんだ。「高齢ドライバーにもわかりやすい交差点をデザインしてみるのはいかがでしょうかって?」」

「ほほう。」


ふむふむ、読めてきた。

相手の神経を逆なですることなく自分の意見を通すことにかけてイグナッツィオの右に出る者はいない。

のらりくらりと矛先をかわし、自分にとって有利な場所へと誘導する。

ユイが持ってきた紅茶にイグナッツィオが砂糖を入れ、かき混ぜ始める。


「で、「そういうの得意な知り合いがいるから彼らに注文してみたい。」って。なんかあっさり意見が通っちゃって、いくばくか予算をもらってここに来たわけ。」

「なるほど、もしかすると「別の問題」がデザイン中に見つかっちゃうかもしれないね。」

「うん、()()()()()()()()()()()()は優秀だからなー。うっかりそれについても対策しちゃうかも。」


とっくの昔に砂糖など溶け切っただろうに紅茶の拡販を止める様子がない。


「そしたら追加報酬とか?」

「払っちゃうかもなー。僕がちょっと説得すれば上司も払っちゃうだろうなー。」

「悪い顔しているなぁ。ところでウチに持ってきた依頼ってなんだっけ……?」


イグナッツィオが中々に悪い顔をしている。

そして隣に座るユイの表情がやばい。

なんかこう……、やつれている。

ようやくイグナッツィオは紅茶に砂糖を溶かすのをやめて、それを一気にあおった。


「ふー、僕からの依頼はいたってシンプルだよ。」


アステリオとは違い、指を一本だけ立てて、それを秘密を教えるかのように唇にあてて、イグナッツィオが続けた。


「事故が起きない交差点をリデザインする事。それがドライバーの高齢化が原因だろうと()()()()()()()()()。」

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