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コンセプト1「小人から巨人まで使えるゲームコイン」10

「……負けました。」

「ふう……製作者の挟持はなんとか保てましたな……。」


冒険者陣営の波状攻撃を完全に捌き切り、ダンジョン陣営アステリオが勝利を手にした。

さすがは製作者の一人。この手のゲームでここまで手も足も出なかったのは初めてだ。


「すごいね。ユイはこういうのやたら強いのに。」

「社長が別格に強くて、別格に負けず嫌いなだけです。」


初見殺しこそ無かったが、老獪な術をいくつもうってきたアステリオは実に大人げないと思う。

いくらなんでもカウンティングして私の手札を全部推測しているのはズルい。


「まあ、それはさておき。少々手間がかかりますね……、これ。」

「ええ。わずかワンアクションですが、やはり手間がかかる事は否めません。」

「うん、私も途中からそんな気はしていたよ……。」


正直……、換金所をボードゲームの端に設置したほうが楽かもしれない。

勿論複数種類のコインを用意する事が前提の話だが……。

一度換金所で両替する手間とコインを一つ一つ拡大縮小する手間。

やや両替の方に軍配が上がりそうだ。


「あーあ、また失敗か……。ほら元気出してユイ。」

「ありがとう、お姉ちゃん。」


銀糸が織り込まれた手袋でユニが私の頭を撫でてくる。

およそ2週間にわたり3桁近い試作品を作り上げてきた。

自信はあった。これ以上の作品を他の人間が作り出せるとは思えない。

私たちの作品は「最高」だった。「最高」でも届かなかった。

悔しい。ただひたすらに悔しい。


「いや? 採用しますよ?」

「「「……はい?」」」


今まさに否定されたばっかりだと思うのだが……。

カタリーナも同じ思いだったのだろう。

思わずアステリオ以外の3人でハモってしまった。


「え、だって手間がかかるって……。」

「はい。私が理想とする使い方には一歩届きませんでした。しかし、次善策があります。」

「次善策……ですか?」


アステリオの理想。

どんな種族も扱いやすいゲームコイン。

ワンアクションとはいえ手間がかかる私達のゲームコインは彼の理想には一歩届いていない。

では一体そのほかにどんな使い道があるというのか……?


「ユイさん。このボードゲームにゲームコインが付属していたと思うのですが、持ってきていただけませんか?」

「へ? はい。」


奥のデスクの上に置かれていたゲームコインのセットを持ってきた。

中には小型種族用、中型種族用、大型種族用の3種類のセットが入っている。


「さて問題です。このゲームコインセットの問題点はなんでしょうか?」

「え? まあ各種族に対応してはいると思いますが……。無難な解決策では?」


まぁ無難な解決策だ。

今現在のアーガイル連邦造幣局は種族ごとに硬貨や紙幣の種類を変えている。

実績と信頼のある解決策といっていい。


「はい。とても無難な解決策です。しかし、その為のゲームコインセット。本体より巨大でコストがかかっています。」

「……あ。」


言われてみれば確かにそうだ。

ボードゲームにおいてゲームコインセットは単一でも大きな容量を食っている。

これがもし三倍になったら……?


「我々はゲームとは種族の差を越えて遊ばれるべきだと考えています。だから必ず全種族に対応したゲームコインを付属させていました。」

「確かに、そのせいで赤字になって絶版になったゲームもありますね。」

「ええ、中には名作もあったというのに……勿体無いことです。」


アステリオが残念そうに被りを振る。


「しかし、この試作91号「グラスホッパー」はその状況を打破する可能性を見せてくれました。一つのゲームコインセットを付属させればいいのであれば……コイン自体の単価が上がってもコストが抑えられるかもしれない。」


小型種族が購入しようと、大型種族が購入しようとも。

購入者とは別の種族が使用する可能性を考えて、彼らは3セット分のコインをゲームに付属していた。

「ゲームに種族の壁を作らない」というたった一つの信念のために。

しかし、信念を貫くには時にお金がかかる。

どうしてもゲーム本体の価格が高騰してしまったことだろう。

売れ行きが伸びないゲームもあっただろう。

そのせいで絶版になったゲームもあったという。

しかし、「グラスホッパー」なら、そのしがらみを乗り越えることができるかもしれない。


「それだけじゃない。容量が減れば保管も容易でしょう。1枚あたりの枚数が多くなれば、紛失時の予備を入れる余裕も生まれる。大型のコインと小型のコインで価値が同じことに疑問を抱くこともない。そして……。」

「「そして?」」


アステリオが魅力的な未来予想図を提示し始める。

あれもある、これもあると次々と提案してくる。

そしてまだあるというのか。


「そして、中には私達が理想とした用途で使用する者もいるかもしれない。1枚くらいならこっちの方が早いと。」

「「なるほど……!!」」


携帯電話は開発当初、有効な使い道が示されなかった。

使用者が次々と新しい使い道を思いつき、今や一人一台はスマートフォンを持つ時代になった。

それと同じように。このゲームコインの有効な使い道を私達は示せなかったが、アステリオは見出した。

もしかすると使用中にユーザーが見つけるかもしれない。


「よかったね、ユイ。」

「うん、お姉ちゃんも。」


私たちの2週間は無駄ではなかったのだ。

無駄になりかけた2週間は、もともとの目的とはちょっと外れた、別のところで生かされることになった。

意図してそう作ったわけではない。

必死で、本当に必死で作った。一度はそれで成功したと思ったことすらあった。

どうしてこれがこんなにも上手くいったのか全然分からない。


「さて、報酬をお支払いしなくてはいけませんね。開発にかかった費用を除いて50万アーガイルでいかがでしょうか?」

「「ご……ごじゅう?」」

「社長、やり過ぎです。相場の倍です。」

「半分は私のポケットマネーから出しますので許してください、カタリーナ。」

「はいはい。来月分の給料から天引きしておきますね。」

「助かります。」


まぁ、二人分と考えれば相場の倍も妥当なのだが……。

依頼主の要求を十分に満たせなかったにも関わらず50万?

破格だ。とりあえず今日の晩御飯は打ち上げに外食だ。


「ところで、お支払い方法はキャッシュで? それとも電子マネーで?」


アステリオが巨大な財布を取り出しながら問いかけてくる。

50万携帯しているんかい。さすがは社長。

しかし大型種族用通貨50万アーガイル分。

それはとてもとても……


「電子マネーでお願いします。」

「承知しました。」


とても嵩張りそうだ。

アステリオが苦笑しながら財布をしまい、スマートフォンを取り出す。

ここは電子マネー一択。だって便利だもの。

本当は……9話まで投稿して10話で大団円だったのですが……。

土壇場になってこの子達は僕の想像を飛び越えてくれました。

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