コンセプト1「小人から巨人まで使えるゲームコイン」1
「この広告さ。もうちょっとどうにかならなかったの?」
「でもそれ以外実績ないし……。」
閑古鳥の泣く事務所。従業員は私「ユイ」と双子の姉「ユニ」の二人。
事務所と言うには少々大げさか。アパートの一室を借り事務所兼住居としただけの小さなアトリエ。
アーガイル連邦エストラーダ州コロリド市第34地区E8ブロック商業用集合住宅1階有限会社ファンタジーデザイン。
多種族が入り混じった現世とは異なる世界。
その針の先ほどの小さな小さな私達の拠点。
物語はここから始まる。
「そもそもさ、広告が悪いんだよ。全種族対応トイレは便利だけどイメージ悪いでしょ。ここデザイン会社だよ?」
私と違い活発なユニは思ったことをすぐに口に出す。
つられて私もユニの前では素を出してしまう。
だが、そんな信頼関係も心とお腹に余裕がなくなれば崩壊する。
「うるさいなー。だってそれくらいしか実績ないし……。」
今はその無邪気に傷口を抉る言葉が耳に障る。
お願いだからちょっと黙ってて。
全種族対応トイレ。これ一台で妖精からドラゴンまで使用できる夢のようなトイレ。
現世にあった幼児用補助便座を三重四重に積み重ねることで、あらゆるサイズの生物に対応したトイレだ。
今まで種族ごとに別々のサイズの便座を用意する必要があった中、このデザインは狭い空間にトイレを設置できる画期的なものだった。
そしてもちろんポシャった。
薄々気がついていたが、妖精対応形態……すなわち五重にした際の便座は便座ではなかった。
主に妖精からの批判は以下の通り。
・我々は鏡餅の上で用を足すのか。
・これ誰が便座を戻すの? あるいは積み重ねるの?
・三重にした時が怖い。これ落ちたら二度と出られないよね。精神的にも物理的にも。
・私達のを流すのにドラゴン用の水量が必要なの? アホちゃう? 等々。
お情けで依頼料のみ頂いたが結果としては燦々たる有様だった。
私達は思い知った。単純に現世の知識を導入するだけではうまくいかない。
この世界の人々をもっと知らなければ良いデザインは生まれないと……。
「発想は悪くないと思うの。この世界は妖精、エルフ、獣人、ドラゴン、ドワーフ、ケンタウロス、ラミア、霊体、その他もろもろ……そして人間。」
「本当に様々な種族がいるよね。そのせいで居住区はおろか、ハサミ一本に至るまで種族ごとに分けられている始末。」
「お店は種族ごとに一つの商品を置くので精一杯。デザインに不満があっても我慢しないといけない。」
「学校で教科書を忘れても隣の人が小人なら一緒に見る事もできない。」
「だから私達が考える。」
「人間にも使えて……。」
「幽霊にも使える……。」
「それどころエルフにも、ドワーフにも。」
「マーメイドにもハーピーにも。」
「「誰にでも使えるデザインを!!」」
ポーズを決めても見る者は皆無。
だって私達はまだ何も作り出せていないのだから。
「はい、かいさーん。チラシ配り行くよー。」
「今日はどこで配る? 駅? 噴水前広場?」
「商店街がいいなー。帰りにパン買ってきたい。」
「えー、明日パンー? ご飯がいいよー。」
「パン。」
「ごはん。」
「パン。」
「ごはん。」
「パ「ごはん。」」
「「……。」」
鏡のようににらみ合うことしばし。
ごはん派のユニの要求を受け入れることなど到底できない。
ここで引き下がることは明日の……ひいては明日以降の朝食が全てごはんになることを意味する。
ごはん派の傍若無人な要求を呑むことなど到底できない。
すでに話し合いは決裂した。私達に残された道は一つ……。
戦争だ。
「……先にチラシが無くなった方の勝ち。」
取り出したるは200枚のチラシの束。
「乗った。開始は?」
「この事務所を出た瞬間から。」
「OK。」
二人で勢いよく扉を開け一歩外に踏み出す。
と同時、高級そうなスーツを着た牛頭の男性が目の前にいることに気がついた。
「失礼、お取り込み中でしたかな? お仕事の依頼に伺ったのですが……。」
「「……。」」
私達は互いに顔を見合わせしばし逡巡した後、こう答えた。
「「ようこそ、有限会社ファンタジーデザインへ!!」」
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10歳で異世界に二人で降り立ち、7年の月日が流れた。
スキルなど与えられず、前世での知識も小学校止まり。
早期に施設に保護されたとはいえ、ここまで生きてこれたのは幸運だったとしか言いようがない。
いや、幸運なのは私ユイだけであり、双子の姉たるユニは5年ほど前に死んでいる。
原因はただの流行り病。
ドラゴンに食い殺されるわけでもなく、魔法で氷漬けにされたわけでもなく。
ただただ、前世にもありそうな事が原因で死んだ。
少々奇抜な体験をしていてもずいぶんあっさり死んでしまうんだな。
自分の心が崩れていく音を聞きながら私はそんな事を考えていた。
茫然自失の中、日本とは趣の異なる葬儀を行ったあと。
誰もいないはずの私室にユニは当然のように居た。
幽霊として。
意味がわからなかった。いや、本当に意味がわからなかった。
なんで姉の幽霊がお菓子の袋相手にすったもんだの大乱闘を繰り広げているのか。
そもそも、それは私秘蔵のポテチだ。
私が放った渾身の右ストレートはなんの抵抗も無くユニを貫通した。
それから5年。
「誰も幽霊を見たことが無いのに成長しないと決めつけるのは浅はか。」
と謎の理論を振り回してユニは容姿まで年齢相応に成長した。
うるせえ、浅はかなのはお前の頭だ。
あろうことか義務教育も終わらせている。
退学手続きすら行われなかった。この世界の懐の深さには脱帽しかない。
なんでも霊体化は魔力の高い個体に生じる、そこそこにありふれた現象らしい。
というわけで姉が壁をすり抜けるようになったこと以外、私達の日常は特に変わることが無かった。
……訂正、大いに変わった。
このバカ姉のスキンシップは生前より少々過激だったが、これが死後更に悪化した。
度重なる姉からの覗き見、奇襲、盗難より我が身を守る必要性に迫られた私は独自に霊体遮断膜を開発した。
開発にあたって問題点が一つ。
私には魔力が無かった。
どうやら世界を渡るときに姉のユニに二人分の魔力が渡ってしまったらしい。
よって私に魔力はゼロ。
対バカ用決戦兵器である以上、バカの協力を取り付けることは不可能。
私は魔力に頼らない方法で霊体遮断膜を作り出さなければいけなかった。
実のところそのような概念はすでにあった。
銀板だ。幽霊の通過を妨げる銀を使用した扉や壁。
そのようなものは教会や金庫などにはごくごく一般的に使用されるものだったが、いかんせん高い。
もっと安価に。もっと手軽に。
そんな事を考えていた私の目に留まったのは「銀糸」だった。
少々値が張るとはいえ、銀板よりも遥かに安価に手に入る素材。
これを利用する方法を必死に考えた。
私の安眠のために。貞操を守るために。
その結果生まれたのが霊体遮断壁「ゴーストバスター」。
仕組みは簡単。
壁を二重にし、間に銀糸を金網状に設置した。
むしろ制作と設置をいかにユニに見られないように行うかが大変だった……が、私は成し遂げた。
設置してわずか1時間後には不機嫌顔に格子状の赤い痕をつけたユニを拝むことができた。
盛大に笑ったら報復のくすぐり攻撃を受けて窒息しかけたが……。
そんなこんなで、従来の全面銀製の壁より格段にコストが安く抑えられた自慢の作品はめちゃくちゃ売れた。
今ではほとんど全てのトイレや浴室等にはこの壁が導入されている……が。
権利ごと譲渡した私達には最初の契約料しか入らなかった。
それでもその資金を元にデザイン会社を設立。
今に至るというわけである。
霊体遮断壁「ゴーストバースター」以来めぼしい仕事をこなせてない私達にとって、今回の依頼を断るという選択肢はない。
何が何でも引き受けなければ明日のごはんはおろかパンも食べられなくなる。
「ユイ・ガーランド・ノースフィールド」
双子の生きている方。双子のおとなしい方。双子の毒舌な方。
「ユニ・ランスロット・ノースフィールド」
双子の死んでいる方。双子の活発な方。双子の単純な方。
※名前は(仮)です。
まずはこのとんでも設定のデザインを一緒に考えてくれた友人に感謝を。
本作はファンタジー世界で「ユニバーサルデザイン」を実現することがテーマです。
例えば小人から巨人まで存在する世界においてトイレはいかにデザインするべきか?
水生生物と陸生生物の共存は可能か? 不可能か?
公道はどうやってデザインしようか。
ファンタジー世界で今まであまり気にされてこなかった、そして現実世界でこれからますます普及するであろうテーマに切り込もうと思います。
ようこそ有限会社ファンタジーデザインへ。ありとあらゆる種族を越えたニーズに私たちは全力で応えて見せます。




