恋の郵便屋さんっ…! [II]
私の頭に稲妻が落ちてきた直後、廊下に響き渡った大きな声。
「思い知ったか!!」
踏ん反り返りながら柱の陰からヌッと人が現れる。でも、私はそれどころじゃないワ。何これ、めちくちゃ痛い。絶対、頭皮が燃えてる…!
…これは、野球部のエース、神田君の投球が顔に当たった時と同じくらいの痛みね…。あの後、青ざめていた神田君があんまり可愛らしかったから、ミスは誰にでもあるわよねと、いい女を気取ってにっこり微笑んだら、なんでボールが当たって鼻血がそんなに出てるのに笑ってられるんだよおと絶叫されたんだっけ。その後、彼ったら部活を暫く休んでいたのよね。繊細なボーイだったワ。
私が過去に意識を飛ばして痛みから気をそらしていると、少年は鼻高々に言い放った。
「俺はルシウスの親友フェリス・カルヴァーンだ…!!」
まだ声変わりしていない可愛らしい少年ボイスに思わず顔を上げる。
目の前にはとても綺麗な男の子が勝ち誇ったかのように立っていた。
私を攻撃したのは貴方ね…
…って、この子もこの子でめちゃくちゃイケメンじゃないー…!!!
将来の有望株だわ…!!!
私の中のおっさんがのたうちまわる。乙女心にクリティカルヒットだワ。
王子の金髪と対をなすように、見事な銀髪。緩くウェーブがかった髪が風に靡き、フワリと柔らかな匂いが香った。
シミひとつない白魚の肌に、少し鋭さを残した切れ長の瞳、そしてツンと尖ったぷるぷるの唇。
この子に攻撃されたのなら、むしろご褒美よねぇ…!?
私が真剣にどこから食べようか考え始めていると、フェリスは見る間に林檎のような真っ赤なほっぺになった。
「…ぁ…ぅ…」
何故か、フェリスがオロオロと目線を彷徨わせた。そして、右手に構えていた模造刀を下ろす。
…あれね、私の頭に落ちてきたのは。やだ、そんなに私と話すきっかけが欲しかったのね…。
私、私、貴方の愛の深さに感動しちゃったワ…!!
頭を押さえ、しゃがみこんだポーズもそのままに、感動に打ち震える私に、フェリス少年は床に膝をつき、そっと顔を寄せた。
「…その、痛かったか?悪かった…」
そう言って、彼は私の頬に触れ、涙を掬い取った。
あぁ、そうね、さっきの脳天への衝撃で思わず生理的な涙が溢れたんだったワ。
…………………………!?!?!?!?!?
この歳にして、すでに極まってるワ…!!!!何よ…これはもはや完成されたイケメン…!!
神に約束されたイケメンそのものだワ…!!
私の心の中のオッさんがスタンディングオベーションしているもの…!!
好き…!!ううん、もうこれは結婚…!!!私達、結婚してるワ…!!あん、もう大好き…!!!
貴方もロックオンしたわよ…!!
フェリス君は小さな声で俯いて続ける。
「その、俺の親友のルシウスが、最近化け物から手紙が毎日届くって泣いていたから…俺が退治してあげようと思ったんだ…今日も化け物を食い止めて欲しいって言われて…その貴方は今までに見慣れない人だったから…」
なんて、王子様思いの素敵な男なのかしら。親友なんて胸熱ね。こういう友情に熱いタイプは大好きなのよ…!!
それにしても、ルシウス様が化け物に迷惑してるなんて知らなかったワ。
彼ったらシャイだから全然返信くれないんだと思ってたけど、私を心配させない為だったのね。
あぁ、二人揃って本当にイケメン…。
私がうっとり妄想に耽っていると、フェリスが顔を上げて私を見てギッと固まった。
…何、照れちゃったの?大丈夫よ。私は渾身の笑みを彼に放った。彼はビクリの顔を青ざめさせた。あら、やだ。この後の流れを忘れちゃった?
こんなにいい雰囲気なら、次にすることは…決まってるわよね?
うふふ、私に任せてちょうだい。
乾いた唇は乙女失格だからね、舌でペロリと湿らせて、そして、私はそのままフェリスのキュートなお口に噛り付いた。…これで、私達、マウストゥマウスの関係ね…♡
アムアムと彼を堪能し終えると、どうやらフェリス君は失神しちゃったみたい。
お子様には刺激が強すぎたかしら。まぁ女の子はおませなものよね。
…でも、当初の目的は違ったんだったワ。
危ない危ない、寄り道しちゃったし、なんなら拾い食いしちゃったワ。
…拾い食いと言えば、私が小学生の頃、バレンタインデーの日、河原で拾ったチョコレートをクラスのモテ男長谷川君にあげたこともあったわね。私もひとつつまみ食いして大丈夫そうだったから、彼にあげたのよね。断らない主義の彼は受け取ってくれたけれど、その次の日から新しい学年まで体調を崩して入院しちゃったから、感想は聞けずじまいなのよね。…元気にしてるかしら、長谷川君。
感慨に耽りながら、私は探し出したメイドにフェリスをお願いし、王子の元にラブレターを届けに向かった。
私は恋の郵便屋さんなのよ…!!
待ってて、ルシウス様っ…!!!