恋の郵便屋さんっ…![I]
あの奇跡の出会いから早一ヶ月。
私とルシウス王子は劇的な運命に導かれ、恋に落ちたの…。
もうお互いしか見えないフォーリンラブのオンリーラブね。
ウェディングドレスはどれにしようかな、なんてルシウスったらまだ気が早いわよ。うふふ、おバカさん♡
もちろん、最高の女を目指す私だもの。釣った魚に餌をやらないなんてことはしないわ。
…実は、私、愛を深めるために毎日お手紙をしたためているの。やだ、恥ずかしい。
当然、彼の可愛い可愛い指先が触れるであろう封蝋に熱いチッスをすることも忘れずにね。あぁ、でも、封蝋だけに彼が触れるとは限らないのよね。なんなら、この封筒の全ての部分に彼のお手手がサワサワしちゃう可能性があるってことね…!
やだ、間接チッスのチャンス、恋愛ハンターたる私には見過ごせないワ…!!
ここにも、あ、そこにも口をつけておかなきゃ…!!
「…ア、アンジェラ様、折角お書きになったお手紙を召し上がられてます…!!!」
…グレイスの引きつった叫びに我に帰る。口の中に収納された手紙と、唇の端から垂れてくるヨダレ。
あら、私としたことが少し愛が強すぎたみたいね。でも、まぁ多少はね?
モゴモゴと口から手紙を取り出すと、封筒がひしゃげてしまったことがわかった。
「これじゃあ送れないわね…」
「では、今、新しい封筒を「そうだわ!」
「宮殿に行ってルシウス様に直接お渡しするワ…!!」
「えっ…」
前世の、ビア樽のようにお腹の出たオッさんならいざ知らず、こんな可愛くて幼い女の子が手紙を持参して家の前で待っていたら、もはや愛しい以外の感情が湧かないんじゃないかしら。
ぐふふ、これ以上、愛されるのも困っちゃうわね…。
まぁ、とにかく仲睦まじいのは良いことよね。
可哀想に、と呟いてグレイスがそっと目を伏せたけれど、失恋の痛みに参ってるのかしら。ルシウス様には完全に興味なくなったようだったけど、自分を憐れんじゃうくらいなら傷も深いようね。
でも、まぁ相手が悪かったのよ。ごめんなさいね、グレイス。
私は、早速、新しいドレスに着替え、手紙を持って宮殿に向かった。
二回めだから勝手知ったる城の庭って感じね。
相変わらず、花々が咲き乱れて美しい庭園だワ。それにしても、持つべきものは権力のある父ね。
お父様のおかげで、私も宮殿に遊びに来ることができるんだから。
早速、ルシウス様を探しに行かなきゃね…!!
庭園に背を向け、豪華な絨毯の敷かれた廊下に戻った瞬間ー…
「ヤーーーーーー!!!!!」
大きな叫びとともに私の頭にゴチンと何かが振り下ろされた。