宣言するワ!
一晩寝て、頭の中は完全にリフレッシュしたワ。
記憶が馴染んだのか、昨日よりも色々とわかったことがある。
私はアンジェラ、今はジェラスだけれど、これまでの彼の記憶も持っている。
高熱を出した後に、前世の記憶もミックスされちゃったみたい。
だから、今の私は、ジェラス+前世の私の記憶って感じね。
もちろん、この国の言葉や作法、乗馬なんてものはしっかり覚えている。
良かった、とない胸を撫で下ろしたタイミングで、侍女が部屋に現れた。
昨日は、記憶の洪水に追いやられて名前が出てこなかったけれど、確か彼女の名前はグレイスだったワ。
顔は悪くないんだけれど、いかんせん髪は一本縛りで化粧も薄く、いまいちパッとしない。
そんな、私の召使い。
けれど、彼女は、私が2歳の時から10歳の現在までずっとお世話してくれた姉のような存在だワ。
記憶が戻る直前、熱が出ていた時も、そっと手を握ってくれていたことを覚えている。
優しくて大好きな彼女には、これから色々協力してもらわなくてはね…!
「おはようございます、ジェラスさま」
「いいえ、違うワ」
「え…!?」
「私はもうジェラスじゃないワ」
「…えっ!?それに、その口調はどうしたんです…?」
恐る恐る聞いてくるグレイス。
トパーズの瞳にありありと混乱の色が浮かんでいるワ。でも、ごめんなさいね。これもストーリーの為なのよ…!
「私はアンジェラと呼んでちょうだい。今日から令嬢として生きるワ…!!」
高らかに宣言して満足した私は、絶句しているグレイスをスルーして、羽根ペンを取る。
令嬢となるために、これから必要なものはたくさんあるワ。
リストにして用意してもらわなきゃ。
だって、アンジェラとして生きるからには、妥協できないもの。
社交界中の令嬢のトップに立たなきゃね。
それぐらいじゃなきゃ、あのイケメンには相応しくないワよ。
そのために努力は惜しまないワ…!
だって…だって…私は…!!
イケメンたちを攻略するため、愛のチッスをすることにしたんだもの…!
しっかり女を磨かなきゃ靡いてもらえっこないわよ。
しかも、逆ハールート。
私を選ぶと、他の攻略対象者も付いてくるなんて、とんだこぶ付き案件じゃない。しかも5人も。
ぶっちゃけ、どれだけいい女だったら、それが可能なのよって話よね。
攻略者の親御さんも、みんな、彼女なら仕方ないって納得できるような令嬢にならなきゃいけないなんて。
レベル高すぎよねぇ…。
…もちろん、転生特典にどちゃくそ麗しいビューティフルフェイスがあるんだから、そもそもヒロインなんて攻略者共々一網打尽だろうケド。
この見た目を磨き上げたら向かう所敵なしだワ。
本当に、転生して良かった…!
正直、次に目が覚めたら元に戻ってるかと思ってたケド、鏡を見たらやっぱりアンジェラちゃんで私ったら年甲斐もなく朝から喜んじゃったワ。
だって、この体!
寝起きに痰が絡む事もなければ、夕方に青髭が生えてくる事もない完璧ボディなのよ!
そりゃ、前世のおっさんの体なんてポイよ!乗り換えるに決まってるワ!!
じゃあ、前世の私はどうなったのかって?きっと死んだワ。
いや、知らないけど。
ていうか、正直、寝起きドッキリよろしく異世界に飛ばされた私に知る由も無いワ。
私が女子アナだったら、いきなりのすっぴん晒しにキレてたトコだったけど、おっさんだものね、まぁ許してあげるわよ。
あのわがままボディが恋しくない事もナイけど、私にはどうしようもないわよね。
考えてもどうにもならないことは考えない、これ世界の真理よ。
こっちの世界だって通じるハズよね、多分。
そんなことを考えつつ、メモを完成させた。
美容液に化粧品にドレスにアクセサリー、用意するものは色々あるワ。
でも、まぁ女は金がかかるものだから、仕方がないわね。
購入してほしいもののメモ一覧を渡したら、グレイスったら、目をひん剥いていたワ。
「ジェラ…えっと…アンジェラ様、本当にこんなに化粧品を買うのですか…?」
私はジト目で彼女を見る。
グレイスが少し怯えたように後ずさった。
何もわかってないワ。
…まぁ、あなた、本当に化粧っ気がないものね。
女っていうのは、マジックアイテムで戦闘力を上げていかなきゃダメなんだから。
素のままが一番とか言うじゃない?
…あれはウソよ。
あんなたわ言、真に受けたら死ぬわよ、女として。さしずめ、今の彼女の戦闘力は1。死ぬ寸前てところだワ。
…でも、私、彼女には絶大な恩があるのよね。
…。
よし、決めた。
「…グレイス」
「は、はいっ…!!」
「私があなたを乙女にしてあげるワ」
「はい…?」
令嬢の頂点を目指すついでに、私があなたを変身させてあげるワ…!
覚悟なさい…!!