今後のルートを決定するワ…!
事実は小説より奇なり。
これほど的を射ている言葉はこの世にないんじゃないかしら。
ー…でも、いくらなんでも、まさか私が悪役令嬢(令嬢じゃない)になるとは思わなかったワ…!!!
もう、悪役令嬢が令嬢だって言ったの、誰よ!?
ということで、
私、オカマ続投しますー…!!
とは心の中で言ったものの、私、悪役令嬢であってるのよね?
不安になって、側にいた侍女に探りを入れたけれど、兄弟は兄が一人だけ、妹はいないらしい。
苗字もあってるし、ということは、やっぱり私が悪役令嬢なはずよね…?
一人で考えをまとめたくなった私は、侍女を追い払い、溜息をついた。
私が悪役令嬢なら!!
じゃあ!!
一体これはなんなのよ!?
歯をギリギリ食いしばりながら、自分の下半身に目をやる。
高級そうな衣服の下でくつろいでいるであろう、こやつ。
令嬢として、こんな存在を認められるわけがない。こんなもの知らないワ。
…いや、知らないどころか、前世では30年近く、共に過ごした馴染み深い存在ではあるけれど。
今世では初めましてだものね。
どうせこれからも長い付き合いになるでしょうしね。
…あら、じゃあ、何はともあれ、とりあえず挨拶するべき…かしら?
全ての基本はまず挨拶。そうよね?
股間さんに鎮座する、謎の物体X。
私は、怒りを抑え、優しい気持ちを呼び起こして話しかける。
「…こんにちは、息子」
…。
いけないワ。あまりのことに現実逃避して、つい自分の股間に話しかけちゃったわ。
いいオッさんが自分のムスコとお話してるとか案件待ったなしよ。
今は美少女(男)だけど。
何か馬鹿らしくなっちゃったワ。
私はふかふかのベッドに寝転がる。正直、体が沈み込んで気持ち悪いわね。
この高級さには慣れないワ。
そんなことをつらつら思いながら、私はブスくれる。
ハーァ。乙女ゲームに転生とか憧れていたのに、現実はこんなものなのね。
私のお気に入りの乙ゲー、「イケメン大捕獲乱闘2018」に想いを馳せる。
あぁ、何度プレイしても、ワクワクしたものだったワ。煌めくスチルに、完璧な攻略対象達。
イケメンにかしずかれて、蝶よ花よと大事にされる画面のヒロインに、何度そこを代われと叫びそうになったか。いい大人だから叫ばなかったけど。
…。
そういえば、実際に叫んだことも何度かあったわ。一回か、二回…あ、いや十回くらいあったかしら?
まぁ今となっては、隣の部屋の人に煩いぞって壁ドンされたこともいい思い出ね。私が住んでいたボロアパートは壁が薄かったことが、短所でもあり長所だったワ。
隣のお兄さんがそこそこ男前だっから、私はとっても楽しめたんだけどね。
乙女の私は、会う度にドキドキしてたワ。
大抵、朝のゴミ捨ての時間だから私は髭の生えたおっさん姿だったけど。心は乙女だから、概ね乙女よね。
洗濯物全部洗っちゃって、パンイチでベランダに出た時に出くわしちゃうなんて、ドキドキイベントも発生しちゃったりね、なんだかんだ楽しかったワ…。
って、いやね、オカマの悪い癖だわ。すぐに話が広がっていっちゃうんだから。
とにかく、思ったよりもシビアだけれど、うっかり乙女ゲームの世界に転生してしまったんだから仕方ないわよね。
私がここで生きていくためには、まず情報を整理して死亡ルートを避けなきゃだワ…!
しっかり思い出すのよ、私。
ここは、「イケメン大捕獲乱闘2018」の世界。
ええっと…ゲームは、ヒロインが王立なんちゃら学園に入学したところから始まる。
ヒロインはよくある庶民で最初は芋っぽいんだけれど、努力によって花開き、攻略対象達と恋に落ちるんだったわね?
よしよし。
攻略対象は
・第一皇子、ルシウス
・皇子と親友のチャラ男、フェリス
・宰相の息子、ジョゼフ
・騎士の家系のもやしっ子、ペルム
・大司教の息子、アイリク
と計5人。
そして、ヒロインの前に立ちはだかる最大のライバルが、私ことアンジェラだワ。
アンジェラは全てのルートでヒロインの邪魔をするという、パリピもびっくりのフットワークの軽さを発揮する。
ヒロインとアンジェラは攻略対象を取り合って2018回の小競り合いをするのだ。
超優良物件だけをピンポイントで誰にも渡さぬよう、暗躍するアンジェラの姿は、まさにイケメンハンターの名にふさわしいわね。
その行動力故かは知らないけれど、ベリーバッドエンドでは、ヒロインではなく、アンジェラが逆ハーの姫となるのだから、大した女だと私はこっそり心の中で賛辞を送ったものだったワ。
それからこのゲーム。
エンドは複数あるが、とにかく簡単に人が死ぬ。
どのルートでもお邪魔虫なアンジェラは、ハッピーエンドだと共通して処刑される。
そして、バッドエンドだとアンジェラは攻略者とくっつくが、ヒロインは事故で死ぬ。
誰も死なないルートはたった二つ。
アンジェラがオタサーの姫よろしく攻略者たちの上で君臨するベリーバッドエンドと、これまたどうしたといった、ヒロインとアンジェラの百合ルートだけ。
流石に制作者も攻めすぎよねぇ。
ベリーバッドエンドでは、アンジェラはヒロインに冤罪を着せ、社交界から追放する。
百合ルートだけは試練もなく、学園一年目にお付き合いに至り、その後の二年間はひたすらイチャイチャして過ごす。
ファンの間からは通常平和ルートと呼ばれていた。
しかも、このルートのスチルが実は一番過激だったりする。
メス猫同士の絡みなんて見ても仕方ないわよ、イケメン出しなさいよって毒づくスタンスだった私は、プレイしたものの、当然記憶はない。
でも、今なら納得だワ。
百合なのに攻略が一番簡単とか謎だったけれど、アンジェラが男ならそりゃそうよね。
男って単純だもの。そこが可愛いんだけれど。
で、どのルートに行くかなんだけれど、私が死ぬのは論外よね。
かといってヒロインちゃんに死なれても寝覚めが悪いわ。
そうなったら、私がイケメン全員攻略か、ヒロインとの百合ルートだけれど…。
断然、イケメン攻略に決まってるでしょ!!!!
何が悲しくてオカマがメインヒロインとイチャつかなきゃいけないワケ!?
ハッ、乳臭い女になんか興味ないわよ!!
一番、平和?知らないワ。
私はイケメンの腕で薔薇を散らすのよ。
ゲームをプレイしている時は、アンジェラちゃんのこと、私の王子達に媚びを売るんじゃないわよ、このドグサレ雌猫がって思ってたけど、今となっては彼女の気持ちわかるワ。
こんなイケメンが現実世界にいるのなら、一人だってあげたくなくなるわよね。
そもそも、制作サイド曰く、私の名前、アンジェラは、嫉妬の「ジェラシー」からきてるみたいだし。
それなら、私が業突く張りでも仕方ないわよね。
アンジェラでもなかなかさそり座の女感はあるけれど、ジェラスだと尚更直球な感じ。嫉妬に荒れ狂う、どうしようもない男感が出てるワ。
あってるけどね。攻略対象は一人だってヒロインなんかにあげないワ。
ということで、悪いわね、ヒロインちゃん。アナタを社交界から蹴落とすことになっちゃうけれど、女の戦いはいつだって残酷なのよ。
さて、これで、方針は決まったわ!!
アンジェラ・ド・シルヴァ改め、本名ジェラス・ド・シルヴァ。
無念だが、こちらの世界でもまごう事無く男である私が、この世界で目指すルートは… ベリーバッドエンド!!
攻略者全員堕として、逆ハールートを目指すわよ…!!