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後編


 神の印象なんて最悪なものよ。人間を平気で見捨てるし、人間はおもちゃだと思っている。自分が退屈だから、人間を自分たちの道具みたいに扱う。そして、人間の不幸を笑うの。自分たちの退屈を埋めるために、すこしでも自分たちが暇にならないように、自分たちが生み出した人間を使う。最低な奴ら。


「神様だって、所詮は人間。人間であった神は、欲深いわ」


「お前、世界の真理をいつ知った?」


 目を見開く神が面白く笑える。私に出し抜かれたことを悔しそうに嘆いてくれればもっと最高の気分になれたのにね。役立たずな神だ。


「俺は、お前を喜ばせるためにいるわけじゃねぇ」


「知ってるよ。そんなこと」


「あぁ!? お前喧嘩売ってんのか?」


「喧嘩売ってるようにみえるの?」


 薄っすらと笑みを浮かべる。ねぇ。本当に大事なものは何だったのかしらね。貴方は分かっていないでしょう。神である貴方は分からないでしょう。確かに、彼も大切な人。でも、貴方も私の……。


「ほんと、意味わかんねぇ。おい、聞いているのか」


 呆れたように積み重なった屍の上にいる私のことを覗き見る神に私は一言。


「聞いてるよ」


 なんだか、眠くなってきちゃったな。世界が新しく生まれ変わる瞬間を見れたら、どんなに楽しかったことだろうか。私は、同じことを繰り返し続けている。

 人間の彼も大切で、神様の彼も大切だから、同じことを繰り返していた。それが、最上位の神様と交わした契約。元々は一つであった魂が別々に生き残れるように、存在をそこに残せるようにと願った。何度も繰り返して、存在が確かなものになった。なぜなのかはよくわからない。何度も繰り返したから薄かった存在の認識が、世界に認識されるまでに変わったのではないかと適当に考えとく。だって、どうでもいいもの。

 彼らが世界に存在を残して生きていけるなら、そんな理由を知らなくてもいいもの。彼らが生き残るためなら、私は何度も自分を犠牲にし、何度も世界を巻き込むのを厭わない。幸せになれなくていい。彼らが幸せであってくれれば、それが私の願いよ。



 何もかも溶けて消えていく感覚。でも、温かい何かに包まれているの。まどろみのなかにいる。私は、もっと冷たいところに逝くのかと思っていたわ。業を犯した私は、このような温かな場所にいるべきではない。


「そんなことはないよ。君は自分の願いのために投げ出さなかった。心が疲弊しても、絶対にやめるとは言わなかった。何人もの人を殺したのは悪いことだと思う。でも、君がそうしたから存在できる二つの命がある。一途な願いのためによく頑張ったね。ゆっくり、休むと良い。次に、君が目覚めるときは、もう彼らには会えない。でも、君は幸せにならなければいけない子だよ。彼らもそう望んでいると思う」


 長い金色の髪をした和服を着た男性がいた。彼は、翡翠の目で愛おしそうに小さな小さな真っ黒の玉を見ながらそれを撫で続けた。欠けていていびつな形の玉だけれど、休息をとることで元通りとまではいかないが、傷の少ない玉に戻るだろう。

 犯した業は、背負い続けていかねばならない。そのため、彼女の魂は少しの悪意や負の感情を受けることで、簡単に人の悪の方に傾いていく。それが、犯した罪の重さなのだ。しかし、彼女のおかげで助かったこともある。


 あの神と人に分れた二つの魂は、世界の存在を吸い尽くして、自分たちが生き残ろうとしていた。消滅すること、死ぬことは誰だって恐ろしい。だから、無意識に自分の存在が消えないようにしていた。全くもって恐怖だな。あのまま世界があの魂に吸収されていたら、世界のバランスが崩れて、最悪何もかもが消し飛ぶ。

 彼女が願いを叶えようと諦めずにあがき続けた結果、全てが丸く収まったとでもいうのかな。全ては、終わったことだし、細かいことを気にしても仕方ないよね。



 彼女はよく頑張った。それゆえに、選ばせることにしよう。犯した罪の重さに左右される人間であるか、いろいろな世界を見守ることができる神の側近か。彼女が最高位の神である私の傍にいることを望んでくれると嬉しい。

 他の神は、せっかく人間から神にしてあげたのに壊れてしまったからね。壊れたおもちゃは処分しなければいけないから、他の世界を支える柱となってもらったんだ。いわば、人柱ってやつ。その人柱が人間に害を与えていようが、何をして楽しもうがどうでもいいよ。世界を支えてくれればそれでいいのさ。壊れたおもちゃはそれが仕事なのだから。その点、彼女は壊さないようにしないとね。願いを叶えるために自分を犠牲にして、必死になる姿はとてもとても綺麗だった。

 綺麗な者は壊さないように細心の注意を払わないといけないから、神の側近という地位なのさ。神として独立してしまったら、守ることはできないだろう。あぁ、守るって言葉は彼女もよく言っていたな。彼らを守るって。うん、今度は私が君を守るよ。


 彼女に選ばせるのはやめた。彼女には、全てを忘れてもらうことにしよう。そして、私の傍にずっといるのだ。私が消えるその時までずっとね。これから先が、楽しみだ。



 そうそう、世界の真理は純粋な神様が唯一私のみであるということくらいかな。人間を神にしたのは私だけれど、それが世界の真理と言われたら、そうでもない。だって、彼らは人柱だし、なくなったら補充できるものだからね。どれが、世界の真理なのでしょうか。もしかして、彼女が純粋な神様であったかもしれないよ。

 世界の真理なんて神である私もわからないさ。神はそんなことを気にしないし、興味もない。世界には真理も何もないよ。ただ、そこにあるだけ。理由なんてものはないんだ。ただ、彼女は世界の在り方を知っていただけだよ。元々人間の神が、人柱であることを知っていただけだ。


 かの人と神に分れた二つの魂はまた別の存在だから、人柱ではないよ。では、何なのかと聞かれても私はわからない。世の中、知らない不思議があった方が面白くて良い。したがって、その謎を解明する気はなし。


 世界の不思議なんてものは知らないから面白くいられる。解明して全てが分かってしまったら、面白味もなくなる。だから、何もせずに見守っているだけで十分だ。そういうことは、人間が必死に答えに辿り着こうとするから、彼らに任せておけばいいよ。生が短い人間が世界のことについて一つでもつかめたら、上出来だ。私たちは、余計なことはせずにただ見守っているだけでいいのさ。


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