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死に損ないは笑う  作者: 真咲 タキ
第1章オハヨウ
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ゴブリン

 ジンは大きめの石を5個ポケットにしまい、折れた細い木はえだを全て折り取り、枝24本と幹1本に分けた。

 枝のうち、中位の太さの枝を1本短くした。

 そして太めの枝のうち、枯れかけのものを岩にぶつけて裂くように割ると、割れた面を下にし、地面に置いた。


 裂いた枝に中位の枝を突き立てると、ジンは蓋をするように裂いた枝の片割れをのせた。

 体重をかけながらくつひもを中位の太さの枝に巻き付け、紐を右手で引いては、左手でひいた。

 次第に周りに焦げ臭いにおいが立ち込めはじめ、太い枝が黒く焦げはじめた。


 ジンは枯葉を集めると、太い枝から火種を落とし、残った枝で囲いを作って風を送った。

 火が枯葉につき、ゴウゴウと燃え上がった。


 靴紐を結び直し、ジンはいしを5個炙った。

 石はオレンジ色になりいまにもそとに跳ねていきそうに見えた。


「よし、いい具合だ」


 ジンはそう言うと、石を岩におもいっきりぶつけた。

 石は岩の硬さに耐えかねたように割れて5個の石は

 どこかしら尖った10個の石になった。


 …………



 ジンは石の鋭利な側をそとに向け、細木の幹にしばりつけることにより石槍を手に入れていた。

 石槍には攻撃力を増すため先端以外に9個の石が取り付けられている。

 未来の記憶を確認し、ゴブリンの通過ルートの側の幹に姿を隠した。記憶ではゴブリンが人の死体を担いだまま1人で歩いていた。


 ゴソゴソ


 何かがこちらに向かって歩いている。

 ジンは幹から顔を出して音のする方を覗きこんだ。


 未来の記憶の通りにゴブリンは一匹で人の死体を運んでいる。死体は冒険者のもののようで剣を一振り下げ、腰には革袋がぶら下がっている。


 ジンは木の影から記憶にある通りのタイミングで石槍を突き出した。


「カヒャッ コヒュー、ヒュー」


 ゴブリンは短い悲鳴をあげたがその後は息の抜けるような呼吸を繰り返し、やがて息絶えた。

 ゴブリンの死体は首に槍が刺さっていた。


 ゴブリンの死体を冒険者の剣で切り分け、燃え残った枯葉に埋めて火を通す間、ジンは革袋の中身を確認した。


 革袋はどうやら魔道具のようで、中から肉、塩、方位磁針、銀貨20枚、銅貨3枚、ナイフ1本、水袋が出てきた。


「便利なもんだな、というかこの世界は魔法が発達しているのか」


 ジンは魔法の存在を確認し、未来の記憶を参照する。


 未来では兵士と思われる人が魔法を放ち、自分自身も魔法を放っていた。

 ………



 ゴブリンが焼けて食べごろになった。

 ジンは肉を掘り起こし、食べようとしたが、

 その時背後からナイフが耳をかすめて飛んでいった。


「っっ」


 ジンは完全に油断していた。

 身体中から妙な汗がしたたり落ちる。

 慌てて剣を手に取り、木の幹に身を隠した。

 しかし体は敵の射程から外れていないらしく、

 敵のナイフが腕を切りつけた。


 こんな未来は知らなかったとジンは思った。

 ただ単に自分の見る未来の量が少なかったのだろうか。

 ジンは過去の記憶を参照した。

(ジンはゴブリンを倒すと、肉を残り火に入れ、そして焼ける匂いを囮にゴブリンをさらに一匹狩っていた)

 記憶にある未来と違うことが起こっている。

 本来自分が狩っているはずの相手に狩られそうになっている。


 まずい何がどうなっているんだ。

 逃げなければ。


 死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。


 ジンは走り出した。

 足がえだを踏みおった。

 肺が空気を求めている。


 なぜ知らないことが起こっている。

 未来が変わった?

 確かめなければならない。

 ジンは背後を気にしながら移動した。

 ………



 30秒後の未来を見ると川の近くを自分は通っている。するとそこへ鳥が飛んできて魚を捉えて飛び去った。


 これは使える。

 ジンは急いで記憶の場所に移動した。


 あと10秒で鳥が来るはずだ。


 5、4、3、2、1


 バサバサ

 バサバサ


 羽音と共に大きな影が川に飛び込んだ。

 記憶にある鳥よりも実際の鳥は大きく見えた。

 やはり未来が変わったのかと考えていると、鳥は魚を捕らえて飛び立った。


 未来は変わっていないらしい。

 つまり記憶の中にある光景はこちらの行動とは関係ないのだ。


 ジンはパラレルワールドという言葉を思い浮かべた。

 この記憶はパラレルワールドのジンのうちのある1人のジンのものなのではないだろうか。

 このジンは20年後に死んでいる。


 しかしどのように生きればいいか、ジンは記憶の通りの生き方しか知らない。

 記憶のレールから外れてしまえばこの記憶に意味はない。

 今の自分の特異点を失うわけにはいかない。


 記憶のレールからのズレを修正しよう。

 ジンは本来狩っていたはずのナイフ使いのゴブリンを倒すことにした。


 ナイフ使いのゴブリンを殺すのに記憶は使えない。すでにズレてしまっている。

 今取れる手段のうち最も効果的なものは殺したゴブリンのもとへ行くことだ。

 ナイフ使いのゴブリンは仲間の肉を食べるだろうか。

 少なくとも冒険者の死体を漁っているだろう。

 ゴブリンとはそういうものだ。

 もしそこにナイフ使いがいなくてもそこから移動した痕跡がある。

 逃すわけにはいかない。



 今度はこちらが狩る側だ。





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