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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

青春物語、あるいはラブコメ。

たこ焼

作者: 燈夜

愛華(あいか)ちゃん、そっち見といてくれへん? どないなっとるん?」

「あ、(みどり)ちゃん、あのね、そのね……」


千枚通しの先が微妙に怖い。

先っぽが鋭く尖る、この鉄の先が怖いのだ。


「愛華ちゃん?」


あたしはこれといっては何だがトロい。

どのくらいトロいかというと。


って、なんだか焦げ臭い。


「あー! 愛華ちゃん、こりゃあかんわ。やり直しや!」


翠ちゃんはその名のとおり、すらりと伸びた碧髪を揺らして振り向いた。


「タコ焼やのうてお好み焼きになってしもうとるで!」

「じゃあ、失敗……」


笑顔の下に悪魔の顔をのぞかせる。

いつもの顔だ! とあたしが思う前にもう翠ちゃんは口を開いていた。

制服の上からまとったピンクの花柄エプロンをはためかせ、両手を腰に当てながら。


「そないなもったいないことせぇへんわ」


委員長、あのカッコいい余来(よらい)くんの涙目が真っ先に思い浮かぶ。

今日は学園のお祭り学園祭。みんなは当番そっちのけで楽しんで。

トロくて逃げ遅れたあたしだけお留守番。ううん、今はこうして翠ちゃんが手伝ってくれている。


「これはこれでソース塗ってマヨかけて売るで? お好み焼きならぬタコのみ焼きや! 値段はたこ焼から五十円引きしとこ」

「えええ!?」


どうしてだろう。どうしてなのかな?

翠ちゃんはみんなに人気。でも、今はあたしだけに付きっ切り。


「そんな、あたしたちだけで勝手に……」

「ええのええの。有効利用や。リサイクル?」


翠ちゃんの白い歯がキラリと光る。


「あー! 我ながら天才やなぁ! うんうん、これはええ考えや!」


そんな翠ちゃんはいつも眩しい。しかも優しい。


クラスのみんなは、わたしに冷たいのに。

トロくてトロくて、みんなにトロ子と呼ばれている私に優しいのだ。


「だから愛華ちゃんは気にせんてーといてや。ほな、次の作ろ。鉄板きれいにしといたさかいに」


いつの間に!

綺麗になくなっていたあたしの失敗作。

替わりに鼻腔をくすぐるのは、焦げたソースの匂いと青海苔と鰹節の醸し出す磯の香り。


パチンと鳴らす翠ちゃんの手には、あたしの失敗作らしきタコ焼きもどきがクリアパックに切り分けられて詰められている。もちろん、白いマヨネーズが踊ってた。


「さぁさぁ、特製タコ入りお好み焼きや! 今なら五十円負けとくで! そこのイケテルお兄さん、買っといてぇな!」


今だにおろおろしているあたしを尻目に、メインストリートに響くは良く通る翠ちゃんの呼びかけ声。鈴を鳴らすようなその声に、何人かがちらほらと振り向いた。


「愛華ちゃん、油や! はよ塗って塗って!」

「う、うん!」


わたしは振り向いた翠ちゃんに促されるまま、いそいそとタコ焼プレートに油を塗り始める。


「ゆっくりでええんや。って、ゆっくり過ぎて失敗したか!」


翠ちゃんはあくまで笑顔。悪魔のような、天使のような。


「あはは、忘れてぇな愛華ちゃん!」


あたしにとって、翠ちゃんとはなんだろう。

いつも声を掛けてくれて、いつも挨拶してくれて、いつもみんなとの間に立ってくれて。


こんな、押し付けられた露店の当番にも喜んで付き合ってくれている。

なのに、あたしは──あたしは翠ちゃんになんにもしてあげられてない。


「翠ちゃん」

「なんや? 愛華ちゃん」

「どうして翠ちゃんはあたしに優しいの?」


振り向く体、翻るエプロン。

見開かれる瞳と細められる眼。


「釣れないなぁ。ウチ、愛華ちゃんのこと好っきゃねん」

「……ぇ?」


今度はあたしがびっくり、お目々もパッチリ。

含み笑いの翠ちゃん。

メインストリートの方へ振り向くと、誰とも知らない彼に向かって呼びかける。


「ってそこのイケテルお兄さん、たこ焼買ってぇな!」


あたしはただただ翠ちゃんの姿が眩しい。

あたしも元気にキビキビ動けたら。

あたしもあんなにハキハキ話せたら。


ああ、翠ちゃん。

そんな翠ちゃんはあたしの大切なお友達。


「愛華ちゃん?」

「ふぇ!?」


思わぬ呼びかけに手が踊る。

タコ焼プレートに小麦粉タネを流し込みつつ跳ねる液。


「愛華ちゃん、もしタコ焼きが余ったら、みんなに内緒で二人でタコ焼きパーティしてお開きにしようや!」

「えええーっ!?」


翠ちゃんがカラカラ笑う。

あたしはみんなの顔が次々浮かぶ。

そんなことしたら、そんなことしちゃったらみんな──。


「かまへんかまへん。これってば『役得』や!」

「う、うん」

「せやろ!? やーっと愛華ちゃんも物事が分かってきたなぁ! あはははは!」


翠ちゃんが笑ってる。

あたしも笑っていいのかな?


「お。愛華ちゃんやっと笑ってくれよった。ウチ、その笑顔を待っといたんやで?」


あたしは真っ赤。

タコも真っ赤。

紅生姜もついでに真っ赤。


ああ、翠ちゃん。

あたし、翠ちゃんの友達でいて良いのかな?

あたしに出来ること──うん、今度は上手く焼こう。上手くタコ焼きが焼けますように!

翠ちゃんがもっと笑顔を向けてくれますように!!


あたしは手に握った千枚通しに力をこめた。

久しぶりのなろう投稿。


百合を書け! と相方から無理難題なお題を頂いたのでその解答。

とりあえず女主人公で。

百合って言うより、これはただの青春ものか?


二人の関係やこれからは、皆さんの想像にお任せします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 14行目の「愛華ちゃん」は「翠ちゃん」の間違いでいいですよね? 序盤で混乱してちゃんと読めなかったかもしれませんが、もしあれがただの間違いならば、きれいにまとまった短編だと思います。
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