悪
ゆらりと尻尾を揺らしてから、シンは質問を返した。
「強くなって何がしたい?」
「勇者になりたいんです」
「容易くないぞ」
「でも、なれますよね?勇者一族の血を引いてるとか全然ないんですけど、強くなったら僕でも勇者になれますよね?」
「勇者って誰でもなれるの?」
メリゴとシンを交互に見てから、ノゾミはソウをつつく。ソウは明るく頷いた。
「なれますよ。血も年齢も性別も関係ありません。誰だって勇者になれます。一匹でも多くの勇者が増えるといいですね」
「勇者が増えたら楽しいかな?」
微笑んだノゾミばかりでなく、メリゴにとっても嬉しい話だ。誰でも勇者になれるなら、メリゴにだって資格がある。勇者はこの世にたった一匹だけではない。たくさんいていいのだ。メリゴは希望に燃える。
「勇者になったら悪をすべて滅ぼします。シンさんのような牙や爪もないけど、僕は悪党をやっつけられるくらい強くなりたいんです」
シンの顔が曇った。そうとは気づかずメリゴは強くなった自分を夢見る。
「ちゃんと戦えるよう鍛えるのは当然として、強力な武器で武装すべきですよね?武装すればこちらの強さを示せます。敵は怖じ気づいて引き返すかもしれません。防衛効果になりますね!無用な争いを避けることができます!」
「おまえが武装すれば、相手も武装するだろう。おまえが強力な武器を持つなら、相手はそれより強い武器を用意するだろう。身を守るために」
賛同はなかった。説教されたようでメリゴはムッとした。敵だってもちろん武装するだろうが、メリゴに責任があるように言わないでほしい。欲望を満たすため、奪うため、権力を振りかざすためだけにすぎない。メリゴとは関係ないはずだ。
もし武装しなければ、敵は易々と踏み込み、略奪や暴力で世界を支配するだろう。非力なメリゴは手も足も出ず命を落とすことになろう。そんな悲しい世界を回避するためにも、どうしても武器が必要だ。
シンならば強い武器の在処を知っていると思ったが協力を得られそうにない。シンは武器を持たなくてもすでに強いから弱いメリゴの立場や気持ちなど理解できないのだろう。
つづく




