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動き出す


 『あなたも勇者になりませんか?』


 この募集広告を見つけた時、メリゴは自分の使命を直感した。


 「僕が魔王を倒すんだ!」

 「現実を見ろ、メリゴ。おまえはただの羊だ」


 確かにメリゴはどこにでもいる羊だ。普通とは違う特別な存在、ではない。父親だってどこにでもいる羊で、平凡なサラリーマンだ。メリゴはその息子なのだ。メリゴには鋭い爪は無いし、尖った牙も無い。速く走ることも苦手だ。モコモコの毛は寒さをしのげるけど、魔王を倒す武器になるとは思えない。

 勇者の血筋も、素質も、秘めたる力も無いけれど、メリゴには強い正義感がある。苦しんでいる動物たちを一刻も早く救うべく、魔王一味すべて丸ごと根絶やしにしたいと願っている。

 亡くなったおばあさんも世界中の幸福や平和を望んでいた。誰かの助け手となることが喜びだったメリゴのおばあさんは、貧しくて食べることもできないと言って近づいてきた魔王の手下に、持っていたお金を全部渡した。そして、殺された。大事にしていたブローチも、長いこと愛用して色あせたバッグすら奪われてしまった。おばあさんの優しさを平気で踏みにじったやつらをメリゴは許せなかった。

 悪を断ちきりたい、何とかしたいと思っているが、何をどうすればいいのかわからなかった。父親の反対を押し切り、メリゴは身支度するとすぐさま勇者を求めている会社へ出発した。これはチャンスなのだ。おばあさんの望んだ世界を実現するためにも、今が動き出すタイミングなのだとメリゴは胸をふくらませた。





つづく

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