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くだらない日常から(前編)

澄みわたる青い空。


照り返す日差しが汗を出させ、立っているだけで気が遠くなる。



でも



私はいつも独りぼっち。




外では私と同じぐらいの子供たちが元気に遊び回っている。



無邪気に白球を追いかけて…






季節は移り変わり、年月が清流の如くながれた。


あの頃から七年。



私。草薙 京子は15歳になり、もうすぐ高校受験シーズンに入ろうとしていた。生まれつき体が弱く、運動系は医者に止められていたけど、まぁ普通に学校生活を満喫している。


だけど、何故だろう。

心の中に大きな穴が空いた感覚が凄くする。



ジリリリ…


ウルサイ目覚ましが耳の奧を攻撃した。

物思いにふけっていたせいで、また朝だ。


はぁ…また、くだらない一日が始まるのか…ここ最近殆ど眠れていない。

何をするわけでも、ましてや、何かを成し遂げた訳でもない。


ただ、学校に行き、友達と喋り、勉強をし、塾に行き、家に帰ってはまた予習復習。


なんて事はない。


はっきり言うとルーチンワーク。


多分、私の人生はこんなもんだろう。


そこそこの高校に行き、そこそこの大学に行って、一流でもなく、三流でもない企業に就職。

そしでフツーの男と結婚して……


だめだ。こんな事考えていたら鬱になってきた。


見上げる空は澄みわたる青さで、だけども、それを見てしまうと、気持ちが凄くブルーになってしまう。


「学校…サボろうかな…」

服を着替えながら京子はそう考えていた。

一応、受験生の身だ。

内申書にも響くだろうが、今は関係ない。

今まで“いい子”でずっと頑張ってきた。


親に反抗せず、先生に反抗せず、規則を守り、真面目にずっと…

だから、一度だけ。

すべてに背を向けて、ぼーっとしてみたかった。



早々と身支度を済ませ、のそのそと階段を降りていくと、目の前にエプロン姿の母親が立っていた。



「京子、ご飯は?」


京子は目も合わさず、いらない。日直だから…と答え、足早に家を出た。



今までにない開放感の中、京子はゆっくりと歩いて、その感覚を静かに味わっていた。

なんて健やかな日だろう。人生の中で一番光輝く日だ。頭の中のスケジュールは空っぽ。


何をするにしても自分で決められる。


不思議と笑顔になり、笑いが止まらない。

朝の七時。日が上り、雲の隙間から日差しが差してくる。いつもは苛立たせる青空が、今日は穏やかにさせてくれているようだ。


何気なく、いつもの通学路を歩いて景色を眺めた。

京子の家から徒歩15分。

川沿いの土手から見上げるこの景色は見慣れている。いつもはなんてない景色だ、だが、今日に限ってやけに綺麗に見えた。


しばらくその場でぼーっと景色を眺めていた京子は、妙な金属音を聞いた。


キーン。

何かを金属で叩いた音。

気になった京子は、躊躇せずにその音の在りかを探りに土手を下っていった。土手を下り降りて、川沿いに約5分。小さな運動場みたいな所で、数人の子供たちが野球をしている。


腰の高さほどのフェンスを乗り越え、京子は、子供たちのいる方へ歩いていった。すると、足元に泥だらけのボールが転々と転がってきた。


おーい…向こうでユニフォーム姿の子供が手をふっている。どうやら、京子にボールを投げてこいと言っているみたいだ。

ゆっくりと腰を落とし、ボールを拾ってみる。

初めて触るそのボールは、泥臭く、傷だらけ。だけど、何だろう。妙に暖かい。


力一杯ボールを握り締め、その子供に向かって全力で投げた。


大空に大きく弧を描き、その汚れたボールは子供の頭上を通り過ぎてちょうど、子供たちの後ろ側にあるフェンス手前に落ちた。


推定距離70m。


恐ろしいくらいに飛んだ。


(ボールってあんなに飛ぶんだ…)


初めて投げたボール。自分でもびっくりするぐらいに真っ直ぐ、大きく、空高く投げられた。

感動と言うか、驚愕と言うか、何とも言い表せられない感覚にただ、呆然としていた京子に、少年が大きい声で、ありがとう!お姉ちゃん凄いね!!と言ってくれた。


大きく手をふる子供に、京子も大きく手をふり返し、その場をゆっくりと離れていった。土手をゆっくりと上り、もう一度土手からの景色を眺める。


次は何処に行こうかな…

時間はタップリある。次の事を考えながら京子はこの場所から離れようと振り返った。


手に残っているあの感覚を味わいながら土手の一本道をゆっくり歩いて行く。



思えば生まれて初めての経験だった。


生まれて間もない頃に突発性の心不全になり、二度の手術をしてなんとか命を取り止めた。

今、体の中にある心臓は何処の誰だか判らない他人の心臓。

まぁこの心臓のお陰で今を生きていられるのだが、それと同時に神様は私から運動と言う物を奪ってしまった。

とは言っても、それは幼い日の頃の話で、今は問題ないのだが、親が神経質になり、スポーツをさせてくれないのが現状なのだ。


親の気持ちは痛い程よく分かるし、とても嬉しいが、やはり、スポーツがしたかった。


多分、それのせいで知らず知らずの間にストレスが溜まっていっているのだろう。




学校に行く途中で、小さな喫茶店がある。

名前はカフェ・ド・アジアン。

外見はヨーロピアン風に見えるが、中は店主の趣味である中日ドラゴンズのグッズで固まっているおかしな喫茶店だ。


ちなみに、私は週に二、三回はここへ通っている。


「ん〜、ここでしばらく時間でも潰すか。」


京子は喫茶店の扉をゆっくりと開けて中へ入って行った。



七月十二日、午前八時。


この時、彼女のこれからの人生に大きく関わっていく重大な出来事があるとは知らずに…

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