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矛盾だらけのアイソドシンク ―The World of Paradox―  作者: 天崎澄
第一章 矛盾邂逅編
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第4話 質疑応答

「じゃあまず、『おらくる』ってなんだ? 響きは聞いたことある気がするけど……」



天意(オラクル)というのはこの世界が持つ意思のことです。人間社会で使われているオラクルは神託――『神のお告げ』という意味なので、ここで言う天意とは意味が異なります」



「なるほど……。えっと、世界が持つ意思? 地球が意思を持ってるっていうことか?」



「いえ、“世界”というのは地球という惑星を指しているわけではありません。それも含んではいますが。地球の外側、宇宙の外側、全ての次元、空間の果て、時間の行き着く先、それらを総じて“世界”としています」



「壮大だな……。で、それが意思を持ってる、と?」



「そうです。私達 核神(コンセプター)はそれを、存在を始めた時から自然に理解しています。私達は世界によって生み出されたのだと」



「なるほど……。じゃあその、『こんせぷたー』っていうのはどういう存在なんだ?」




「概念の具現化、事象の可視化、理の権化」




「うん……?」



「表現を簡単にしましょう。概念そのもの、ということです」



「概念、そのもの……」



「はい。“世界”を支える重要な十二種の概念がそれぞれ私のような形で顕現しています」



「……可愛い女の子の形で?」



「はい、可愛い女の子の形で」



「なんで?」



「分かりませんが、それも天意(オラクル)によるものです。推測としては、“世界”に馴染みやすいのがこの形態なのではないかと。地球という惑星の文明下でのヒエラルキーにおいて頂点に君臨しているのが人間の女性、ですので。それに、こと日本においては『可愛いは正義』という言葉もありますので」



「マジか……」



「恐らくです。あくまで私の推測に過ぎません。全ての可能性は否定出来ませんから」



「はあ……話を戻すけど、えっと、お前みたいなのが、十二人居るの?」



「『(にん)』という数え方は適していないです。私達は人を象っているだけの概念ですので。単位としては『(たい)』が当てはまるかと思います」



「あ、そう……じゃあ、お前みたいなのが、十二体居るの?」



「細かいことを言うと、『居る』というよりは『在る』という感じですが、まあそうです」



「十二種類か……」



「十二種類です」



「それって具体的に、どんな概念に分けられてるんだ?」



「《存在》、《矛盾》、《現実》、《幻想》、《時間》、《空間》、《次元》、《虚無》、《伝説》、《忘却》、《開闢》、《終焉》、の十二種です」



「ごめん、聞いといてなんだけど覚えられなかった」



「いえ、別に覚える必要はないですが」



「それで、お前はその中のどれなんだ?」



「私は、存在し得ない存在――《矛盾》の核神(コンセプター)です」



「矛盾……か。その《矛盾》の核神(コンセプター)のお前が、何をしに来た?」



「本題ですね。私は、あなたの妹さんを象っている“パラドクス”の回収に来ました」



「ぱらどくす?」



「パラドクスというのはそのまま、矛盾のことです。大きくなりすぎた矛盾のことを、私は『パラドクス』と呼んでいます」



「緋奈が――俺の妹が矛盾してる、そういうことか?」



「違います。『あなたの妹が矛盾している』のではなく、『あなたの妹が矛盾そのもの』なんです」



 そこでマシンガントークは途切れた。


 葵蒼汰が、《矛盾》の核神の言葉の意味をどうしても理解できなくて沈黙したが故に。



「分かりやすく簡単に、事実を言いますか? 少しあなたには衝撃的かもしれませんが」



 ここまで来て後にひく気は、蒼汰にはなかった。



「頼む」



 頷いて、核神は告げる。




「あなたの妹さんはこの世界に生まれていません」




 少年は、その言葉の意味を咀嚼することも嚥下することも出来ずに、ただただ沈黙した。


 自分の知っている事実と目の前の少女の言っていることが全く噛み合わずに、頭の中をぐるぐると回っていた。


 何も言葉が出ない少年に、尚も核神は先程よりも微かに柔らかい声音で問う。



「あなたの名前、聞いても構いませんか?」



 それは不意な問いだった。



「名前?」



「はい。呼び名がないと会話に不便なので」



 まあ確かに、と葵蒼汰は今でも頭の中で起きている思考の乱流をとりあえず脇に置いて名乗る。



「葵、蒼汰」



「葵蒼汰さん。では蒼くんと呼びます」



「ぶはっ!!」



 まさかの愛称に少年は啜りかけのお茶を吹き出してしまった。



「なんで蒼くん……」



「あ、『蒼ちゃん』の方が良かったですか?」



「いや、そういう問題ではなく…………んー、まあいいか……」



「では蒼ちゃん」



「あ、そこは『蒼くん』で頼む」



「分かりました。では蒼くん」



 改まって何を言い出すのかと、少年は息を飲む。


 一方の白き少女は、あまり抑揚もなく淡々と一本調子で、そのくせ突拍子も無い質問を繰り出すのだった。



「《矛盾》がどういうものかを、知っていますか?」



 どうやら質疑応答の立場がいつのまにやら、逆転したらしい。







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