06.やさしく諭すもの
更新遅れました…!薦められるように努力したい…!
「た、ただいまー…」
朝貴は若干声を震えわせながらも、玄関に屹立する。
後ろに続いて入って来るクトゥルーの気配を背後に感じながら、朝貴は手に汗握った。
今までにない緊張感だ。
人間ではないとは言え、姿形は一応男性だ。
男性を家に入れるという行為はどうも色恋沙汰関係のことを彷彿とさせて戸惑ってしまう。
実際、朝貴はそんな経験はなかったが。
「あら、おかえりー…」
するといつの間にやら居間から母が出て来て、いつも通りの常套句を述べこちらへ寄る。
取りあえず朝貴は「ただいま」と伏し目がちに言うが、当の母は既に朝貴の後方を訝しげに俯瞰している。
朝貴は母の視線に背筋を凍らつかせながらも、後ろに居る地球外生命体の居候
のために説得を始める。
「朝貴……後ろの方は?」
「ええっと……この人、実は外国から来た人らしいんだけど…泊まるとこないみたいで…その、だから…」
短時間で言い訳の理由が見つかるわけもなく、朝貴は必死に弁明しようとするが、やはり自分の語彙力では母には伝わらないようだ。
母はますます面妖そうな表情を現した。
すると痺れを切らしたのか、後ろで黙って立っていたクトゥルーが口を開き始めた。
「どうも、初めまして御仁。私はクトゥルーと申す者です。
訳あってこの町に来たのですが、無計画なもので泊まる場所がどこにもないのです。
路頭に迷っていたところ、娘さんに助けられ此処まで来たのですが…」
何と目の前で信じられない光景が広がっているではないか。
先程まで尊大でえらそうな態度をとっていてクトゥルーが別人のように母に振舞っている。
これだけ見ればまるで礼儀正しい社会人のように見えるが、彼は残念ながら人間ですらない。
しかも不自然でない言い回しや口調がますます擽ったい。
「それで、暫し此処に滞在させて頂くことは出来ないでしょうか?」
朝貴が長考している間に、クトゥルーの超絶技巧な弁明は終わり声色からして笑みを含んでいることが分かった。
もしかして、既に結果が見えているということだろうか。
母の顔を見ると、子供の勇姿を見て感動しているかのような輝かしい表情で微笑んでいた。
朝貴は母の次の言動が予測できたような気がした。
これはどう考えても洗脳されてると、そう感じられた。
「それは辛かったでしょう。うちは部屋も空いてますし、大歓迎ですよ。」
母は満面の笑みで言い放った。
これは……良い結果なのだろうが、何とも複雑な気分だった。
何でだろう、素直に喜べなかった。
「それで、失礼だけどクトゥルーさんって今何歳なのかしら?ご職業は?」
「あああ……く、クトゥルーくんは20代で母国では学生だったみたいだよ!!」
ここでは何とかフォローに入れた。
流石にこれは答えずらいだろうし、怪しく思われたら困る。
ちゃんと取り繕わないと。
母も理解したようで、穏やかに微笑みを絶やさなかった。
グッジョブ、母。
「じゃあ朝貴、クトゥルーくんに部屋を案内してあげなさい。
狭い部屋だけど、一応使えるからそこで我慢してくれないかしら?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます。」
クトゥルーは頭を下げ、謝辞を述べる。
ここまで見ると、人間社会での礼儀を一通り学んだんじゃないかというくらいに思えてくる。
陸に来て少ししか経ってないのにいつの間に学んだのだ。
人としてこちらの方が負けてるようだ。
朝貴はクトゥルーに多少の負い目を感じた。